建設コンサルタントの役割を再定義。Slack でビジネス変革をリードする八千代エンジニヤリング

「現在、そして将来の社会課題を解決するためには、60 年の間培ってきたノウハウを応用し、組織体質の変革と、それを実現するためのツールが必要でした」

Yachiyo Engineering取締役 ​​副社長執行役員 技術管理本部 本部長水野 高志 氏

総合建設コンサルタントとして 60 年の歴史を持ち、長い間日本の社会インフラ整備などを牽引してきた八千代エンジニヤリング株式会社。同社は、従来のインフラ整備だけではなく、さまざまな事業マネジメントや総合的なサービスプロバイダーとしてこれからの時代に合わせて業務を多角化していくために、Slack を活用したオープンなコミュニケーション文化への変革に挑戦しています。その結果、事業部ごとに分かれていた組織内での縦割りのコミュニケーションが、部署を超えて積極的に意見交換をするなど、これまでになかった新しいカルチャーが築かれようとしています。Slack 導入をリードした 4 名に、全社導入プロジェクトに当たっての経緯や進め方、その成果や今後の抱負について話を伺いました。

ビジネスの進歩に向けた縦割り文化とコミュニケーションの見直し

1963 年の設立以来、60 年にわたって、道路、橋、ダム、上下水道、廃棄物処理施設などの社会インフラ整備に関するビジネスを展開してきた総合建設コンサルタントの八千代エンジニヤリング。同社は「この世界に、新しい解を。」というビジョンを掲げ、ビジネスの変革を目指しています。

同社で「技術」と名の付くあらゆる部門を統括・管理する、取締役 副社長執行役員 技術管理本部 本部長の水野 高志さんは八千代エンジニヤリングが見据える展望について「創業以降の主たるミッションはインフラに係る調査や計画、設計、施工管理を行うことでしたが、近年そして今後はそれだけでは不十分です。培ってきたさまざまなノウハウを応用し、これまでは前面に出していなかった省エネや創エネ、インフラの維持管理や更新、設備保全などのサービスプロバイダーとしての立ち位置を確立することも含め、世界中で対応が進んでいるカーボンニュートラル、日本が先行して直面する本格的な人口減少など、社会が抱える課題を理解し、具体的な行動をリードしていかなくてはならないと考えています」と語ります。

こうした今ある社会課題に向き合うためには、長きにわたり蓄積してきたノウハウを持つ社内の人材だけではなく社外も含めた多様なエキスパートが協力し合い、社会インフラの状況、地域の人々の暮らし、産業の構造などを把握し、解決策を模索していくことが必要です。しかし、同社の組織は「橋梁」「道路」「ダム」など担当するインフラ施設ごとに細分化されており、縦割りの意識が拭えずにいました。

技術管理本部で組織を横断した DX を推進し、Slack の試行導入・レビュー・本格導入の指揮をとった 技術管理本部 DX 推進室 室長 畑 浩太さんはこう振り返ります。「当社は部門間の連携は取れている方だと思いますが、それでも他の部門の良い取り組みなどなかなか共有できていない状況でした。専門性を高めることを重視してきたこれまではよかったかもしれませんが、これからは違います。従来の仕事のやり方や考え方が色濃く反映された組織を変えていくためには、それに相応しいコミュニケーション文化に変革していかなければなりません」

例えば、建設業界では社内ジョイントベンチャーや社外の複数の企業とのやりとりが必要な場面が多々あります。これまではメールを使用していましたが、宛先を指定して送受信をするためにコミュニケーションが閉鎖的になり、プロジェクトの途中で参加した人はそれまでの経緯を追い、最新の情報を正しく受け取るのに時間がかかる状態でした。

従業員 1,200 名以上を抱える同社で経営、技術開発、新規市場開拓の推進を担う経営企画本部 経営戦略室 経営戦略課の後藤 里花さんは「メールに代わるツールとしてビジネスチャットも試みましたが、参加メンバーを指定してチャットルームを作成することが前提で、誰もが自由に参加できるオープンな場の実現とはなりませんでした」と言います。縦割りの組織編成と同様に、従来のコミュニケーションツールでは周囲の状況を把握することが難しく、時代に合わせた新たなビジネスを進める上での障壁となっていたのです。

分断されたコミュニケーションからオープンなコミュニケーションへ

変革を進めるにはオープンなコミュニケーションインフラが必要と考えた同社は 2021 年 6 月に Slack の導入に踏み出します。事業年度初めとなる7 月に合わせて事務局が準備され、技術管理、経営企画、事業開発といった部署が主導して 2021 年 10 月には全社導入に向けた試行導入が始動しました。9 ヶ月間の試行運用での効果検証、そして水野さんが Slack のイベントに参加したことが大きな転機となり、そこから経営層への説明を行い、採用が決定しました。

まず同社ではオープンにできるプロジェクトは Slack のパブリックチャンネルを立ち上げ、誰もが覗くことができるオープンな場とすることを基本としました。すると「どんな人がこのプロジェクトに携わっているのか」「誰にどんな強みがあるのか」を知ることができ、進捗共有の面でも、プロジェクトや話題ごとにチャンネルやスレッドを立てて、ドキュメントなどの成果物や個々のナレッジを整理しながら蓄積していくことが可能となり、誰もが共通の情報にアクセスできる状況が生まれました。また、外部とのセキュアな連携には Slack コネクトが利用できる点や、秘匿性の高いチャンネルはプライベートチャンネルにするなどの柔軟性も、公的機関や民間企業と協業してさまざまな事業を扱う同社にフィットしました。

加えて、同社では Slack は単なるコミュニケーションツールに留まらず、営業支援、スケジュール、経費精算、Web 会議など、あらゆるアプリケーションやサービスと連携し、業務ポータルのような役割を果たすことを目指しています。技術管理本部 DX 推進室 コンサルタントの宮本 冬馬さんは「コミュニケーションだけでなく業務効率化も重要な経営課題です。Slack を立ち上げておけば、複数のツールの使い分けに煩わされることなく業務を行え、ムダな工数を削減できます」と Slack の業務効率化の可能性に太鼓判を押します。

一部の部門で行った試行導入の段階での評価では、少なくとも 10 分/日・人程度の効果があるとの結果になりました。全社導入により、このようなコミュニケーション文化の変革と各機能の有効活用が進めば、全社で 1 日あたり約 200 時間分の業務効率化につながることになります。

 

「Slack の導入によりコミュニケーションの質が大幅に改善しました。全社で1 日約 200 時間分の業務効率化が実現できそうです」

八千代エンジニヤリング株式会社技術管理本部 DX 推進室 室長 畑 浩太 氏

社員 1 人ひとりのエンゲージメントや新たなつながりが促進

Slack で育まれているオープンなコミュニケーションは、社内のメンバーが仕事に向き合う姿勢にも、前向きな変化をもたらしています。

同社では Slack を全社導入するにあたって、一部の部門で Slack を試行導入する期間を9 ヶ月ほど設けました。その後に行った社内アンケートでは、次のような回答が寄せられました。「分からないことがあった時、誰に聞けばよいのか、そもそも聞いていいのか悩むことが多かったが、Slack なら気兼ねなく安心して発言できる」「発言してもメールでは誰からも反応がないことがよくあったが、Slack は絵文字ですぐにリアクションがもらえたり、コミュニケーションに参加してもらえるようになった」こうして発言に対する心理的安全性が高まったことで、社員同士の自由な意見交換にもつながっていると言います。

「全社公開の『#なんでも相談チャンネル』では、担当者が回答する前に、部門や役職に関係なく知識や情報を持つ人が質問に回答したり、業務のチャンネルでは、積極的に業務改善の提案やアドバイスをする光景が見られるなど、当初想像していた以上に活発なコミュニケーションが広がっていて、ユーザー数が多ければ多いほど高い効果があるツールだと実感しました」(宮本さん)

それ以外にもさまざまなチャンネルが立ち上がっており、部門を横断した横のコミュニケーションはもちろん、現場とマネジメント層など縦のコミュニケーションも活性化しています。「私自身、あるプロジェクトについて、顔を合わせたことがない他部門の若手と意見を交換する機会がありました。実際に会わずとも社内にどんな人がいるのかを知り、その仕事ぶりや個性までを知ることができる。全社を横断したジョイントベンチャーを構成する際に、今後こうしたつながりが大いに役立つはずです」と畑さんは話します。

Slack の使い方については、チーム内のコミュニケーションを Slack でやってみようと提案したり、Slack を通じて役員にメッセージを発信してもらうなど、事務局からきっかけ作りはしたものの、利用を強制するようなことは行っていないそうです。自然に新しいコミュニケーションの文化が浸透していっていると言えるでしょう。

そんな状況について畑さんは、「私が入社した頃よく見られた大机に図面を広げ、そこにみんなが集まって意見を出し合う光景が Slack 上で展開されているようなイメージです。これまでは会社に来ないと得られなかった情報が、Slack を使えばどこにいても同じように受け取れる。多様で柔軟な働き方を実現するうえでも、とても重要なポイントでした」と、Slack でのデジタルコラボレーションの成果に対しての実感を語ってくれました。

「気兼ねなく質問ができ、社内にこんな人がいるのだなという発見があります。顔は知らなくても積極的に意見交換ができる、Slack での新しいコミュニケーションが始まっています」

八千代エンジニヤリング株式会社技術管理本部 DX 推進室 室長 畑 浩太 氏

社外とつながるハブとしてよりスムーズな協業体制を

今後、同社は Slack によるコミュニケーション文化の変革を社外にも拡大していきたいと考えています。「Slack コネクトを使えば社外の人たちとも安全にコミュニケーションできるので、顧客や社外の関係者とつながって業務や新しい事業の情報共有をスムーズに行うなど、多様な活用の可能性を感じています」と水野さんは話します。

長い歴史の中で、国内外を問わずに官民さまざまな機関や企業と事業を行い、社会の基盤となるインフラ整備などを担ってきた八千代エンジニヤリング。同社は多くのノウハウや知見といった貴重な財産を未来にも活かし続けていくため、コミュニケーション文化を変革し、人と人のつながりを見直すことで各部門が継承してきたノウハウを結集させて新しい価値に変えていこうとしています。八千代エンジニヤリングの挑戦は、同社にとってだけでなく、多くの企業にとって示唆に富んだアイデアを与えてくれる、意義のある取り組みといえるでしょう。

「専門的な技術を持った企業や機関との協業をより活性化していくためにも、Slack にはさまざまな人たちをつなぐハブの役割を期待しています」

八千代エンジニヤリング株式会社取締役 副社長執行役員 技術管理本部 本部長水野 高志 氏