不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S(ライフルホームズ)」などを提供する株式会社 LIFULL では、コロナ禍前からリモートワークの体制を構築するなど、デジタルな仕事環境を構築してきました。2021 年 11 月からは全社のコミュニケーション基盤に Slack を導入し、業務の起点として活用しています。
LIFULL HOME’S の営業組織では Salesforce と Slack の連携を促進し、より業務全体に深く根ざした活用で営業活動の効率化に挑んでいます。これまでにも全社的な BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)をリードしてきた同社のテクノロジー本部 コーポレートエンジニアリングユニット ユニット長の籔田 綾一さんに、現在取り組んでいる営業プロセスの再構築における Slack の活用方法や効果について、具体的にお聞きしました。
アナログ業務と人的リソースの削減に向けた営業フロアのデジタル化
LIFULL HOME’S は、全国の不動産会社の物件情報を掲載するプラットフォームです。情報の掲載料や、問い合わせ(反響)課金を主な収入源とするビジネスモデルとなっています。市場について籔田さんは「不動産会社は全国に 10 万社、そのうちインターネット広告を利用しているのは 4 万〜 5 万社と言われています。当社が占める市場シェアの規模から見ても、自社の営業リソースだけで網羅することはできない巨大な市場です。さらに電話やファクス、紙の書類を中心としたアナログな業務が多く残っているというのも不動産業界の現状です」と説明しました。
大規模な市場で未だアナログツールが広く使われる不動産業界にあっても、LIFULL では効率よく業務を遂行できるよう、デジタルツールの活用に投資してきました。籔田さんは 2015 年に Salesforce Experience Cloud を使った不動産事業者向けポータルサイトを立ち上げ、2016 年にはオンライン受注システムを構築しています。2017 年からは社内に複数存在していた Salesforce 組織を統合するなど、全社的な BPR に取り組んできました。
この背景には、コロナ禍以前から LIFULL が掲げてきた「デジタルワークスペース」構想があります。これはデジタル化の推進によって、場所や時間にとらわれず働ける柔軟な環境を整備し、生産性の向上を目指す取り組みです。アナログ体質な業界においても、「まずは社内から」とデジタル化の推進に着手した同社では、その一環として 2021 年 11 月に Slack を全社で導入しました。スレッド機能や検索の利便性の高さ、オープンな情報共有といった特徴がデジタルワークスペース構想と親和性もあったことから、現在では社内コミュニケーションの中心は Slack となっています。
こうした取り組みを進める中で籔田さんは、とりわけ営業活動における最適化、効率化のために Salesforce と Slack との連携に注力しています。「アプリケーションの連携がしやすいのもデジタルワークスペースには重要な要素です。Salesforce Customer 360 のアプリケーションと Slack とのシームレスな連携によって、人が行っていた業務を代わりにシステムが行ってくれることを期待しています」と語りました。
「Salesforce Customer 360 のアプリケーションと Slack とのシームレスな連携によって、人が行っていた業務を代わりにシステムが行ってくれることを期待しています」
Salesforce と Slack の連携による通知の自動化で時間短縮と見落とし防止
LIFULL では基幹業務の一部に「Salesforce CRM」、マーケティング活動には「Marketing Cloud」や「Account Engagement」、データの可視化や分析には「Tableau」を使うなど、Salesforce Customer 360の各種アプリケーションを連携した業務改革を推進してきました。社内コミュニケーションが Slack 中心になったことで、営業活動における Salesforce 連携とのハブとしても Slack 活用が進められています。さまざまな営業プロセスの作業効率をアップさせ、これまで以上にクイックで無駄のない業務遂行ができる営業組織を目指しているのです。
そのために、営業プロセスにおけるあらゆる通知が Slack 上に集約されるシステムを設計しました。これまでのメール通知で起こっていた受け手側の見落としや、そのリマインドやフォローアップを人が行うといった無駄を削減する狙いです。Salesforce の情報更新が Slack で自動的に通知されるようになれば見落としも減り、人を介す必要もないため効率アップにつながります。
システム連携の目的の 1 つに、受注時に発生する承認プロセスの効率化があります。これまでは、営業担当が Salesforce 上に顧客からの申し込みを登録したものの、承認担当者が承認依頼のメールを見落としてしまい、処理が途中で停滞してしまうことが課題になっていました。受注後にスムーズな情報掲載ができないと、顧客からの信頼を失う恐れもあります。そこで、Salesforce と Slack を連携させて通知を自動化し、この課題解決を図っています。
また、期限のリマインドにもこうした連携は役立ちます。これまで、広告掲載の申込書を送った顧客から返送が無い場合に、そのままリマインドされず掲載プロセスが止まってしまうことが発生していました。 Slack によって申込期限が迫った案件を営業担当者に自動通知できるフローを構築できれば、こうした案件が放置されることなく、必要なタイミングで顧客にアクションを促すことができます。
さらに広告掲載までにかかるリードタイムの短縮の効果も見込んでいます。申込自体は Salesforce 上の受注フローで管理していたものの、ファクスやメールによる申込については、営業担当が申込を知るまでにタイムラグがありました。そこで受注フローが始まった段階で、担当営業に Slack から通知が飛ぶように設定しました。リアルタイムに受注を把握し、初動のアクションにかかるまでの時間を短縮することで、クイックレスポンスにつながると期待しています。
リードタイムを 20%削減。スケールメリットを生む小さな効果の積み重ね
Slack を営業活動に活用するメリットについて、籔田さんは「的確な通知ができる」という点を挙げています。「これまで運用していたメーリングリストでは埋もれてしまうようなお知らせも、Slack ならメンションをつけることで適切な人にピンポイントで届けることができます。また、誰もが自主的に情報の取捨選択ができるのも魅力のひとつです」と話しました。
パブリックチャンネルによって組織を超えた情報共有ができることも大きな利点だと感じています。優秀な営業担当のベストプラクティスをまとめた資料を Slack 上で発信すれば、一気に社内に広まり、社員間でも有効活用が可能です。Slack 特有の高い透明性と検索性によって、いつでも誰でも目的の情報やアセットに簡単にアクセスできることで、営業チーム全体のパフォーマンス底上げにもつながるのです。
籔田さんはアプリケーション連携のしやすさもメリットの 1 つと考えています。「Salesforce と連携して Slack にメッセージを送るような処理も、Flow を使えば 1 行もコードを書かずに実現できます。これなら営業担当でプログラミング経験がない人でも Slack でさまざまなフローを効率化できます」(籔田さん)
「Salesforce と連携して Slack にメッセージを送るような処理も、Flow を使えば 1 行もコードを書かずに実現できます。プログラミングの経験がない人でも Slack でさまざまなフローを効率化できるのです」
こうした Slack をハブとしたシステム連携によって、受注から広告掲載などのサービス提供までの時間が短縮できると見込んでいる籔田さんは「Salesforce の受注フローと Slack の連携が進めば、受注担当者の負担が軽減されます。それまで 5 営業日かかっていたサービス開始までのリードタイムも 1 営業日分削減され、4 営業日にまで短縮できるはずです」と、実に 20%に及ぶリードタイムの削減を推測しています。
こうしたリードタイムの削減をはじめとして、取り組むデジタル変革による時間短縮や無駄の削減ひとつひとつは小さなものだとしても、LIFULL のように 1,000 人を超える組織にとっては非常に大きなスケールメリットをもたらします。籔田さんは「Slack が営業プロセスに与える 1 つひとつの小さな変化は、従業員が多くなるほど、非常に大きな効果となります。Slack は大企業においても拡張性が高く、大きなメリットを実感できると思います」と評価しました。
「Salesforce と Slack の連携によって、 5 営業日かかっていたサービス開始までのリードタイムも 1 営業日分削減されて 4 営業日にまで短縮できるはずです」
さらなる発展に向けた次のステップで業界の DX 活性化に貢献
Salesforce と Slack の連携によって、デジタル化による営業組織の効率化に向けた環境整備が着実に進む LIFULL では、さらなるデジタル変革によって、受注プロセスの短縮だけでなく、完全自動化も視野に入れた改善を目指しています。
籔田さんは「実現には時間がかかるかもしれませんが、自動化によってアウトソースしていた一部の業務をなくすことができると考えています。そうするとその分のコスト削減も期待できます。それ以外では、マーケティング活動にも注力していくつもりです。Slack を活用しながら、マーケティング施策の結果をタイムリーに反映できればさらなる成果につなげていけるでしょう」と展望を述べました。
デジタル化が進みづらい不動産業界において、先陣を切って全社的なデジタル改革に乗り出しているLIFULL。人だけでなくデータやシステムともつながる Slack を軸として、小さな効率化の積み重ねで大きなスケールメリットを生み出しました。同社の営業部門を皮切りに、将来的には業界全体がデジタル化のメリットを享受できるよう、その手本となるべくさまざまな変革に取り組んでいます。