世界がこれほどつながっている時代に、コミュニケーション「不足」に悪戦苦闘している職場はなかなか想像できないかもしれません。
しかし、現実にサイロ化は、組織の規模を問わず悩みの種になっています。サイロ化によって部門間のコミュニケーションが断絶し、企業の真の成長に不可欠なコラボレーションが阻害されてしまうからです。
では、サイロ化の現実を理解しつつ、サイロの壁を壊してつながりの強いチームを作っていくには、一体どうしたらよいのでしょうか?
1. サイロ化が問題の核心ではない可能性も
まず認識しておくべきは、業務のサイロ化は何としてでも避けなければならないものではないということです。結局、考え方が似ているチームの方がうまくいくというのは、働いていれば当然だからです。
「サイロ化はコラボレーションよりも自然なこと。いわゆる部族的メンタリティです」と指摘するのは、『Harvard Business Review Leader’s Handbook』や『The GE Work-Out』の共著者である Ron Ashkenas 氏です。「組織においても同じことで、サイロ化の解消はむしろ不自然な行動です」。
ジャーナリストの Gillian Tett 氏が 2015 年の著書『The Silo Effect』で指摘しているとおり、サイロ化は必然とも考えられます。Tett 氏は「テクノロジーが複雑化・精緻化を増していることも一因となって、仕事の専門性がますます進んでいるようです。もはやひと握りのエキスパートしか理解しえないような状況です」としたうえで、「サイロ化は世の中の秩序を保ち、暮らしや経済、制度の分類・調整に役立っています。サイロ化は、説明責任を推進するのです」と書いています。
多くの場合、サイロ化は各部署が厳しい効率化を図った結果であり、それが企業の強みを評価する際の重要指標になることもあります。『One Mission: How Leaders Build a Team of Teams』の共著者であり、米海軍特殊部隊 SEAL 元隊員の Chris Fussell 氏によれば、サイロとサイロをつなげるのに労力がかかりすぎると破綻が生じるといいます。
「ほとんどの組織にとって本当の問題は、サイロ同士につながりがないこと(中略)、そして情報の伝達が遅すぎて、それを活用できなくなること」と、Fussell 氏は 2017 年の Inc.com に掲載されたインタビューで解説しています。「要は、いかに効果的にサイロをつなぐかにかかっているのです」。
言い換えれば、目指すべきゴールは、組織内の各チームが一緒に仕事をしたいと思えるようにすること、そしてそれを簡単に実現にできるようにすることです。
2. コミュニケーションの方法を最適化する
Slack の Future of Work 調査によると、情報共有の方法を含め職場のコミュニケーションに不満を持っていると回答した人は 24% に上ります。さらに、52% が、プロセスが常に改善され続ける職場を望んでいます。
とはいえ、組織レベルで透明性とコミュニケーションを優先するには時間を要します。まずは、プロジェクト管理ツールを慎重に選択し、それに合った明確なコミュニケーションに関するベストプラクティスを用意することから始めましょう。
また、社内でどのようにコミュニケーションが図られているかを各チームが十分意識するよう促しましょう。例えば、エンジニアの A さんはチャットやテキストをコミュニケーションの手段にしたいのに、営業の B さんはコーヒーを飲みながらの進捗確認が好きといった違いがあるかもしれません。
3. トップが率先して職場の文化を整える
コラボレーションを組織の仕事の進め方の中心に据えるのであれば、従業員たちは毎日出社して互いに話をすることが「楽しみ」でなければなりません。それにはまず、以下を実行してポジティブな職場環境を作ることから始めましょう。
- 徹底した研修により、心理的な安全性とインクルージョンの職場文化を目指すという方向性を明確にする
- その文化を絶えず推進し続ける
- 有機的なコラボレーションとつながりがある職場を構築し、将来的にコミュニケーションの障害となるサイロ化を防ぐ
お互いへの情報共有が文化の一環として実践できている組織ほど、従業員は進んで情報共有する傾向があります。
4. 定期的な状況確認の機会を設定・重視する
組織の規模に関係なく、コミュニケーションを習慣として定着させましょう。会議が多すぎることのないよう、週 1 回の簡単な状況確認を予定するのも手です。どのチームがいつ連絡を取り合う必要があるかを含め、責任の詳細を明確にするために、RACI マトリックスを使うのも有効でしょう。サイロを越えた情報共有が当たり前になれば、やがて従業員はその行動を負担に思わなくなります。
「最近、大手グローバル企業の CEO と話をしたのですが、その人は毎週月曜朝にミーティングを行っているそうです」と明かすのは Ashkenas 氏。「世界各地の従業員が 20 分かけてざっと全体を見渡し、ほかの人の仕事内容や連携して対処すべき問題を全員が把握していることを確認するのです。時間は入れ替えるので、誰もがどこかしらで都合が合います」。
5. 迷ったら、立ち止まり、協力と意見を求める
これらを試してみてもサイロ同士が適切につながっていかない場合、あるいは、さらに大きな緊急の問題が発生するような場合は、もっと思い切った手段が必要になるでしょう。例えば、「GE 式ワークアウト」はその解決策になり得ます。これは、プロジェクトに共同で対処するチームや、プロジェクトの影響を受けるチームのリーダーたちが集まるという介入の手法です。その目的は次のとおりです。
- 官僚主義的な停滞を回避する
- コラボレーションによる創造的な解決法を生み出す
- その解決法をチームメンバーが即座に行動に移せるようにする
Ashkenas 氏は、「これには訓練と系統立った体制が必要」だとしたうえで、「リーダーは、サイロの壁を破るように常にメンバーを導かなければなりません。しかし、時間の経過とともに、この自然なサイロ化の傾向は克服され始めるはずです」と述べています。
6. 取り組む理由を忘れない
サイロ化の克服が「やることリスト」に新たに追加された課題のように感じ始めているなら、それは簡単ではないからです。しかし、チームがばらばらになると、組織と従業員が機能不全に陥る危険性があります。コミュニケーションのための時間に投資していくことは、長い目で見れば必ず企業のためになります。
Gillian Tett 氏は著書『The Silo Effect』のなかで、ニューヨーク市庁の各部署が情報共有を始めたことで、廃墟アパートでの死者を伴う火災の発生件数が減少した事例を紹介しています。長期的に見れば、定期的なコラボレーションが最も効率的で生産的な仕事の進め方なのです。
Ashkenas 氏は次のように説明しています。「やらない場合のコストは、やる場合のコストよりはるかに大きいものです。チームが自分たちの都合しか考えない場合、数か月後に計画が機能しないことに気づいて、最初から全部やり直すことになるでしょう。すると、予定どおりにリリースできずに顧客を失望させるなど、あらゆる種類の問題が発生します。そのリスクは想像を絶します」
とはいえ、考えすぎも禁物です。業務のサイロ化は避けられないものだとしても、ネットワークを構築し上述のような戦略を活用することで、徐々に状況に合わせてギャップを埋めていく方法を学ぶことができるはずです。