株式会社ディー・エヌ・エーは「インターネットや AI を活用し、世の中にデライトを届ける」というビジョンのもと、 IT 領域を中心に幅広い事業を展開しています。同社ではスピード感をもって事業を展開していくためのコミュニケーションツールとして、日本国内ではいち早く Enterprise Grid を導入しました。実は Enterprise Grid の導入以前も、「各部署の裁量で無償版、有償版の Slack を日本でのサービスが開始される前から導入してきました」と、 IT 戦略部 部長の大脇智洋さん。一時は無償版、有償版をあわせて 140 のワークスペースが運用されていて、アカウント数はトータルで 9000 に上っていたそうです。
「 2014 年から多くの部署で Slack が導入され、利用されてきましたが、会社の公式なツールではありませんでした。そこで業務で本格的に利用することを検討し始めたのですが、そのためには、SAML 認証※適用によるセキュティ制限が必要でしたし、1つのアカウントで複数のワークスペースに参加できるようにもしたかった。さらにすべてのメッセージを保持して、何かトラブルがあったときの電子証拠開示にも対応できることも必須でした。これらセキュリティやコーポレートガバナンスの要件を満たすのが Slack Enterprise Grid だったのです」と、大脇さんは振り返ります。
※1回の認証で許可されているすべてのサービスが使えるようになる、「シングルサインオン」を実現するしくみのひとつで、異なるセキュリティドメイン間で認証情報を連携するXMLベースの仕様。
全社的ワークスペースの設置で、公式アナウンスも容易に
2017 年 10 月に Slack Enterprise Grid が導入され、DeNA 社員は 1 つのアカウントで複数のワークスペースへのアクセスが可能になりました。ワークスペースとは企業ごとや部署ごとなど、同じ目的を共有するグループのメンバーがコミュニケーションをとり業務を行うための共有スペースです。さらに「従来のワークスぺースに加えて、全社的にアクセス可能なワークスペースが設置できるようになったことで、公式なアナウンスがしやすくなりました」と、大脇さん。全員が参加する「 DeNA ALL 」や、エンジニアの情報交換を目的とした「 DeNA Tech 」などの全社ワークスペースを開設したほか、「各ワークスペースをまたいでコミュニケーションができる共有チャンネルが利用できるようになり、異なる部署、プロジェクトのメンバーとも様々なコラボレーションができるようになったのも大きなポイントでした」。
「異なる部署、プロジェクトのメンバーとも様々なコラボレーションができるようになったのもポイント」
経営者のチャンネルを通して社員との交流を促進
「現在 DeNA では、345のワークスペースを運用しています」と IT 戦略部の佐藤大輝さん。そのうち 200 ~250 がアクティブに稼働していて、社員はプロジェクトごと、部署ごと、チームごとに、自由にワークスペースを申請できるルールになっています。申請者がそのまま運営者になるしくみで、ゲストとやり取りするためのワークスペースもあるとのこと。佐藤さんによれば、アカウントのうち約 70 % が非正規を含む社員で、残りがゲスト。ゲストが参加しているチャンネルには、それとわかるチャンネル名をつけて発言に注意することも徹底されています。 こうして現在 Slack は、国内の主要な DeNA グループ会社のほか一部海外のメンバーにも利用されています。
佐藤さんは今、グループ会社である横浜DeNAベイスターズや、川崎ブレイブサンダースでも Slack によるコミュニケーションを促進しようと、ハンズオントレーニングの実施や専用ワークスペースの作成に取り組んでいます。次に計画しているのは、経営者のチャンネルを作ること。 DeNA グループでは、すでに代表取締役会長の南場智子さんや、代表取締役社長兼CEOの守安功さんも自身のチャンネルを持ち、グループの全社員に向けて情報を発信しています。
「経営者のチャンネルには、彼らがどんなことを考えていのるかを社員へ共有したり、社員との距離を縮めたりする効果があります。何よりこのようなチャンネルがあれば多くの社員がアクセスするので、利用するきっかけづくりになります」と、佐藤さんは説明します。
社内問い合わせチャットボットなどと連携し業務を効率化
「 Slack はインテグレーションがやりやすいツールです」と、大脇さん。大脇さん、佐藤さんのIT戦略部では、晴れて公式ツールとなった Slack をさらに活用してもらうため、 Slack Enterprise Grid 導入後まもなく、アプリとの連携によるインテグレーションのアイデアをまとめました。アイデアはたくさんありましたが、実現までの難易度や業務効率化の効果をもとに優先順位を付け、優先順位の高いものから徐々に実装を進めたそうです。
その代表的なものが、2018年3月から運用されている、 社内問い合わせチャットボット、通称「マリちゃん」です。「社内 Wi-Fi のパスワードが知りたい」「社内システムのマニュアルを見たい」などの質問をマリちゃんに投げかけると、 Google による自然言語処理の API サービス「 Dialogflow 」が表現のゆらぎを吸収しつつ、事前登録した回答えてくれるというもの。 IT 関連の質問だけでなく、人事、総務など、社内の雑多な問い合わせにも対応できるようになっています。ちょっとした疑問をチャットボットで解決してもらうことで、サポート業務にかかる時間を大幅に削減できたそうです。
また、財務会計システムの NETSUITE とも連携。従来は申請→メールで通知→リンク先の WEB で承認と 3 ステップで行っていた伝票の申請、承認フローを Slack に組み込み、Slack 上で通知から承認までできるしくみも導入しました。大脇さんによれば、導入前は申請から承認まで 1 件あたり平均 5 時間程度かかっていたのが、導入後は平均 1 時間程度となり、所要時間が実に 5 分の1に短縮できたとのこと。「承認が速くなれば、それだけビジネスのスピードも上がる。かなり効果があった取り組みです」。
さらに昨年導入されたのが、「セキュリティカードのエラーを解除する bot 」です。 DeNA では入退出管理においてより高いセキュリティを確保するために、入室・退室時とも、 IC カードで認証を行わないとエラーになるしくみを導入しています。エラーになった場合は、総務担当者経由でビルの管理部門に連絡し、解除しなければならないのですが、その連絡を Slack でできるようにしたのです。当初は担当者にメンションし、手動でエラーを解除していたそうですが、エラーは 1 日に 20 ~ 30 件もあり、担当者はその作業に月に 15 ~ 20 時間も費やしていることが発覚。そこでエラー解除の工程を自動化するボットが開発されました。現在では担当者の負担が軽減されただけでなく、担当者のいない夜間や土日にもエラーに対応できるようになり、多くの社員に高評価を得ているそうです。