Slack Sales Elevateを活用して導入以前に比べて商談件数が2.5倍に

「商談管理の入力が簡単になり、その内容がみんなに通知される。同じ目的に向かって進んでいる一体感が醸成され、商談の入力率がさらに増える好循環になりました」

広川株式会社(広島県広島市)は広島市を拠点に、食品や石油エネルギー、LPガス、住宅設備、旅行、保険など、広川グループ7社で多岐にわたる事業を展開しています。創業は1857年。160年以上にわたって、時代の変化に柔軟に対応しながら個人向け消費財のB2B事業を中心に地域密着型で成長してきました。

しかし、少子高齢化と人口減少によって同社のビジネスモデルも変革を余儀なくされています。最も重要な課題の1つは、いわゆるソリューション提案のワンストップ化です。たとえば、事業用の潤滑油、燃料油を購入している顧客に対して火災などに備える保険商品や防災商品を提案する。多角的に展開している事業・サービスの垣根を超えて提案することで、より効率的なビジネス展開が期待できます。

そこでポイントになるのが、全社横断的な顧客情報の管理と共有です。同社は Slack を全社的に導入することで、単なる共有ではなく、情報の抽出・入力・連携などの点でも大きく進化。企業カルチャーも変えたといいます。同社 代表取締役社長の廣川正和さん、経営企画部係長の新崎順也さん、川﨑優貴さんに、導入の背景や効果などについてお聞きしました。

仕事の属人化とバラバラだったシステム・顧客情報が課題

「事業セグメント間の“壁”を取り去りたいと考えていました。つまり顧客データの一元化です。歴史が長い会社にありがちな仕事の属人化も問題でした」

こう語るのは同社 廣川正和代表取締役社長。Slack 導入以前は2つの側面から課題感をもっていたといいます。1つは情報共有のツールが仕事の属人化を助長していたこと。もう1つは顧客情報・商談の管理です。事業セグメントごとにバラバラだったシステムと顧客情報正値化が課題でした。

「コロナ禍で明確になりましたが、その人しかできない仕事は少ない方が絶対に効率的です」と廣川社長。

たとえば、数十年前に実施したリフォーム工事の詳細や顧客情報は、当時の担当者がいなくなった現在は誰もわかりません。業務の平準化・標準化を進めて情報共有しつつ、ナレッジとして蓄積してノウハウを継承していく――この仕組みを早く確立したいと考えました。

同社では情報共有のために、あるコミュニケーションツールを利用していました。しかし、「セグメントが強固な仕様で、社員が自分から該当するチャンネルに入っていかないと欲しい情報が取れませんでしたし、全員がリアルタイムの商談を見られる状態でもありませんでした」(廣川社長)と、単なる連絡ツールとして使われていた状況を振り返ります。

顧客情報・商談の管理面では、複数の事業部門がそれぞれ独自の基幹・販売システムを構築。顧客情報も部門ごとに保有していたことが最大のネックでした。そこで2017年に顧客情報の統合と商談管理のためにSales Cloudを導入しました。しかし、当初は思うように使えず、営業担当者によるSales Cloudへの入力が徹底しない状況が続いていたのです。

さまざまなツールの入口として全社で Slack 導入

大きな転機が訪れたのが2023年に開催されたDreamforceです。そこで情報を資産として活用し、生産性と社員のモチベーションを上げる Slack の活用法を提案されました。

「Slack が、Sales Cloudをはじめとしたさまざまなツールの入口になると知りました。Slack を立ち上げてスラッシュコマンドを入力するだけで、取引先や商談の入力、勤怠管理もできる−−Slack のこうした機能が、のちに変革の起爆剤になりました」(廣川社長)

その後、同社ではSlack ビジネスプラスを220アカウントとSales Cloudと連携するSlack Sales Elevateを60ライセンス導入。その1年後に、 Slack AI をアドオンしました。

ナレッジの蓄積と情報探索時間の削減に貢献

さらに、社内コミュニケーションツールを Slack に一本化、基本的にメールと電話は禁止としました。Slack 管理者として導入・運用をまとめている経営企画部係長の新崎順也さんは、その背景を次のように説明します。

「Slack に一本化することでナレッジの蓄積が進みます。生産性向上の阻害要因は総じて、情報元を探すのに時間がかかること。今は Slack に行けば必ずそこにありますから、情報の探索時間削減に役立っています」(新崎係長)

このほか、社内会議は Slack のハドルミーティングでオンライン化し、会議資料・議事録はcanvasで共有しています。また、Slack AI を活用して議事録の作成と要約を自動化しました。Slack 導入以前に課題になっていたSales Cloudの定着化・活性化に関しては、Slack Sales Elevate が大きく貢献しました。

「商談管理の入口を Slack にしたことで、『こんな提案をしました』『受注決定しました』『新規取引が始まりました』などの入力が簡単にできるようになりました。しかもそれが全員に通知されます。ここがとても大事。同じ目的に向かって進んでいる一体感が醸成され、入力件数がさらに増える好循環になりました」と廣川社長は話します。

その効果は定量的に現れています。「Slack 導入前のダッシュボード上の商談件数は平均で324件でしたが、導入・改修後の平均は813件。Slack による共有と見える化によって約2.5倍に増えました」(新崎係長)

約100台の自社保有車に Slack ワークフローを活用

Slack ワークフローは現在、情報共有や依頼・申請、Slack 運営(問い合わせなど)、Salesforce運営(車両管理、Account Engagement返信など)で30件が稼働しています。たとえば同社は、タンクローリーや営業車など約100台を保有していますが、個々の車両の車検や法定点検、リースなどをSalesforceトリガーフローで管理。期限が近づくとSlack専用チャンネルにて個々の車両管理者に自動的にアラートを出す仕組みを構築しています。また、Slackワークフローを活用してSalesforceにある車両データを更新する仕組みを構築しています。

また、同社ではMarketing CloudによるB2B向けマーケティングオートメーション(MA)ツールの「Account Engagement」を活用。廣川社長名義で顧客にメールを配信しています。ここでもSlackのワークフローを活用し、独自のA、B、Cスタンプによる返信対応の自動振り分けを実現しています。

「返信メールが専用チャンネルに着信する設定をしており、管理者が返信内容を確認し、近況のご挨拶なのか、商談に繋がる問い合わせなのか、面談希望なのかによって独自の Slack スタンプを押します。すると自動で担当者に対応指示が届き、リストに案件が追加されます。管理者はスタンプを押すだけで担当者に指示を出せ、リストで案件の対応状況が簡単に確認できるのです」(廣川社長)

ここでのポイントは、いかに自動化できるかです。開発は Slack 管理者である新崎係長と経営企画部の川﨑優貴さんが自ら行っていますが、実は2人ともIT部門の出身ではありません。「ワークフローのプライベートチャンネル申請や問い合わせ・依頼系のフォーム、テレワーク業務日報、Account Engagement返信メールの振り分けなどの仕組みを手掛けました。Slack はユーザーコミュニティであるJCN(Japan Champions Network)もありますので、情報のキャッチアップがしやすくSlackの活用や運用方法を立案する際にも役立ちました。自ら学ぶ環境も整っている状況もありがたかったです」と、川﨑さんは Slack のノーコード・ローコードプラットフォームとコミュニティの存在を評価しています。

取締役会で毎月MVPを選出することで社員の目線が上がる

廣川社長は「Slack の定着化には“変化”が必要。入力してもらう、見てもらうために、いつも何か違ったアプローチや心に留めてもらう仕掛けが重要です」と力説します。

同社は2023年12月に Slack のアカウントを社員に付与し、2024年1月に全社のキックオフワークショップを行いました。その翌月末には、それまで使っていたコミュニケーションツールを完全に廃止しています。そのために、ヘルプ窓口として全社横断チャンネルを開設して Slack に関するあらゆる質問を受け付けました。バックオフィスの各部門にヘルプチャンネルを設置して各部署のスタッフと Slack 管理者が連携を強化。全社的にはハドルミーティングで勉強会を定例開催しています。

定着化に関しては、「営業担当者の成功事例を取り上げて演出することも重要」として、と次のように説明します。

「その一例が、上手にSalesforceを活用している営業担当者を毎月1人、取締役会がMVPとして選出する制度です。たくさん入力したり商談を決めた人だけを取り上げるのではなく、失注であっても商談内容をきめ細かに入力しナレッジマネジメントに貢献する人やルートセールスで他事業の商材を商談成立する人など、多面的な見方で活躍事例・成功事例を選んでいます。営業担当者は「みんなが見ている」という意識を持つことで目線が上がり、積極的な活用を促す風土の醸成にもつながります」(新崎係長)

企業のDXやデータドリブンと聞くと定量的な評価になりがちですが、現場で働く人が人間である以上、定着化・活性化にはエモーショナルな部分も欠かせない要素です。同社の場合も多くの社員を巻き込みながらワンチームで取り組んだことが成功の要因となり、企業カルチャーを変革する源泉にもなりました。

「Slack は当社の業務を変えただけでなく、カルチャーを変えました。以前のツールと比較すると確かにコストはかかりましたが、会社のカルチャーを変えて生産性を向上したこと、またSalesforceの活用促進を実現できたわけですから、計り知れない効果があったといえます。先行投資として、トータルでは決して高くはないと考えています」(廣川社長)

「Slack とSalesforceが当社のDX人材を育ててくれた」

広川グループは今後も、Slack とSalesforceを最大限に活用してさらなる業務効率化を目指していく考えです。川﨑優貴さんはAccount Engagementの活用の幅を広げたいと期待を寄せています。

「情報発信まではAccount Engagementですが、そこから先は社員がフィールドで動く必要があります。その変換部分を仕組み化するツールを Slack で作りたいですね。前述のスタンプシステムはその第一歩です。すべての対応を Slack を用いて一気通貫で処理したいと考えています。また、Account Engagementのメール記事を自動生成させるなど、AIエージェントであるAgentforceをもっと上手に活用することも課題の1つです」(川﨑優貴さん)

Slack管理者の一人である新崎係長はエネルギー事業で太陽光の設計施工管理を担当していましたし、もう一人の川﨑さんは食品事業の事務職として入社し、2度の産休・育休を経て2024年4月に Slack 管理者になりました。つまり、仕事の現場を知った人が自分で勉強しながら Slack やSalesforceの運営・管理に携わっているということです。

「このようなキャリア形成が可能になったことは、Slack とSalesforceが当社のDX人材を育ててくれたと考えることもできます」(廣川社長)

廣川社長は、Slack を通して会社の存在意義を見つめ直しています。

「彼ら・彼女らは会社の財産です。その財産を増やしていくのが私の仕事。当社の仕事をどんどん平準化・自動化して、誰でもできる仕事を増やしたい。本来、人間がやるべき仕事はイマジネーションとクリエイションです。そこに経営資源を集中できれば、当社はもっと多くの人をハッピーにできる組織になれるはずです」(廣川社長)

広川グループを成長し続ける組織にするために、Slackが果たす役割は大きいといえます。