創業 75 年の石井食品が Slack で壊した時間・世代・場所の壁

「どんな情報でもオープンにしていくことで、社内外の信頼を構築できるという考えのもと、Slack によるオープンコミュニケーションを推進しています」

Ishii Food代表取締役社長執行役員石井 智康 氏

石井食品は、企業理念に「真(ほんとう)においしいものをつくる~身体にも心にも未来にも~」を掲げ、創業 1946 年以来、厳選した食材の無添加調理※による食品を提供しています。(※石井食品での製造過程においては食品添加物を使用しておりません。)

石井食品の代表取締役社長である石井 智康さんは、創業家の 3 代目で、外資系 IT コンサルティング企業での経験を経て、2017 年に同社に入社しました。多くの企業で IT 活用が進みはじめていた当時でも、コミュニケーションの中心は電話や FAX で、デジタルツールには不慣れな組織でした。石井さんは入社後、それによって社内の情報共有やコミュニケーションに壁が生じていると気づき、Slack をはじめとするデジタルツールの導入による組織改革を推し進めました。現在は複数の拠点にまたがるすべての部門で、従業員の世代の差や勤務時間の違いを超えて、全社的に Slack の利用が拡大しています。

Slack 活用によってオープンな組織への改革を実現した具体的なノウハウとプロセスについて、石井さんにお話を伺いました。

IT 活用が進まない組織で起きた情報のサイロ化

創業から 77 年を超え、時代に合わせた食の課題に応えてきた石井食品。古くは、煮豆の真空包装技術の開発、現在は無添加調理やハンバーグ、ミートボールなどを主力とし、最近では筍ごはんなど季節の食材を使った商品展開を進めています。

2017 年に石井さんが入社した当時、社内では IT ツールの利用が進んでいませんでした。工場勤務の社員はパソコンもメールアドレスも持たないこともあり、社内コミュニケーションの中心は電話や FAX でした。また、本社のある千葉のほか、名古屋、大阪、九州など複数の拠点がある上に、社員は高校を卒業して入社する 18 歳から定年後に再雇用となった 70 歳まで幅広く、工場勤務の従業員は朝・昼・夜と異なるシフトで働いています。働く場所や時間、世代の異なる従業員同士がお互いに交流したり情報交換できる場はほとんどなく、オープンな情報のやりとりはもとより、組織としての一体感や文化の醸成も難しい状況でした。

社内の声に耳を傾けるうち、石井さんはこれまでの方法では社内のコミュニケーションや情報共有に課題があると感じていました。特に製造部門と販売部門は地理的に離れた場所で活動しているため、明確な問い合わせ先も分からず、電話による進捗確認のラリーが何度も続くなど、時間や手間がかかるといった問題が生じていました。

異なる勤務時間で生じる「時間の壁」、年齢の異なる従業員の間にある「世代の壁」、そして拠点が異なることによる「場所の壁」という 3 つの壁が社内の円滑なコミュニケーションや生産性の障壁となっていたのです。

石井さんは「私は前職で IT エンジニアとして勤務していたこともあり、パソコンやメールアドレスを持たない社員がいることはカルチャーショックでした。入社した当時は全ての部署でいろいろなコミュニケーションの齟齬があり、部署同士の連携ができていませんでした。」と当時を振り返ります。

「社内の壁を解消して情報のサイロ化を防ぎ、オープンな組織になることは、食品会社として事故や問題発生時のトレーサビリティのためにも必要であると感じていました」という、石井さん。そこで課題解決への一歩を踏み出すために、IT ツールの導入を決断します。

まずは小さな一歩から。浸透のために行ったユーザーの輪を広げる工夫

石井食品の Slack 導入は、2017 年当時、石井さんが管轄していたマーケティングチームのメンバーから試験的に開始しました。その後、徐々に周りを巻き込みながら、同社の各製品のプロジェクト単位にまでユーザーを広げ、最終的には工場部門まで全社での利用に拡大していきます。

石井さんは、言葉でツールの便利さを伝えるだけではなく、実際に手を動かしながら体験してもらうことで、裾野を広げていこうと考えました。まずは社員を招いて Slack のチャンネルについてやファイルのアップロードなど基本的な使い方を説明し、1 週間ほど使ってもらう、という活動を少しずつ展開したのです。次第に操作に慣れ、使いこなせる人が現れはじめると、チャンネルへの投稿数も自然と増えていきました。

Slack を日常的に活用し、高い利便性を体感した人たちがさらに周りの人を招待し、参加するメンバーや部門が増えると、社内の情報が Slack に集約されていきます。最新情報がリアルタイムに Slack 上に集まってくるため、利用に消極的だった人も、業務に必要な情報を得るために参加せざるを得ない、という状況が生まれたといいます。

業務に使うツールは、慣れ親しむことで定着が進みます。そのため石井さんは、より楽しみながら積極的に使ってもらう仕掛けを作るため、Slack の絵文字に着目し、「絵文字 300 個作ろうキャンペーン」を展開します。その結果、多くのオリジナル絵文字が登録され、それらを使って気軽に楽しみながらコミュニケーションする文化が根付いていきました。同社はもともと「仕事中に遊ぶ」という考え方に否定的な雰囲気のある会社だったという石井さんですが、現在では 777 個の絵文字が登録され、年代を問わず多くの従業員が絵文字を使ったやりとりを楽しんでいます。

3 つの壁を解消した Slack。誰もがデジタルツールを活用できる組織に

Slack の利用が浸透したことで、石井さんが当初感じていたコミュニケーションの齟齬もなくなり、それまで組織に内在していた 3 つの壁が解消されていきました。

まず「時間の壁」です。それまで交流のなかったシフトの異なる従業員も、Slack の導入によって就業前後の交流や個別連絡ができるようになり、業務に関するディスカッションが活性化していきました。その結果、非同期でも行えるさまざまなアイデアが生まれ、京丹波工場では工程を学ぶための教育用動画の撮影・共有が自発的に始まりました。また、チームの枠を超えたマネージャー同士の交流も促進され、知識の共有や意見交換が活発に行われるようになっています。

さらに「世代の壁」も解消されています。オンラインで実施する毎週の全社朝会や、新入社員の内定式でも、10 代から 70 代まであらゆる世代のメンバーが業務内に雑談できる時間を設けています。そうすることで、世代を超えて社内の交流が促進されます。最初は参加に抵抗を感じる人がいても、ツールの使い方に慣れてさえしまえば、コミュニケーションは自然と活性化していきます。

石井さんは「こうした取り組みをすることで、それまで Slack を見るだけだった社員も、次第に自分から投稿するようになりました。たとえば、定年後に再雇用された 65 歳のベテランメンバーが『いい写真が撮れました』と、お孫さんの写真を投稿したことがあり、とても多くの反響がありました。そうしたことが重なり、みんながどんどん積極的に使っていくサイクルが生まれています」と効果を語りました。

そして当初石井さんが最も課題に感じていた「場所の壁」も乗り越えました。営業部門と製造部門の問合わせに Slack を活用することで、スムーズな情報共有や課題解決に役立てています。たとえ問い合わせ先が分からない場合でもチームへのオープンな質問を投げかければ、必ずメンバーの誰かが解決に導いてくれます。また、過去の質問を検索すれば履歴をすぐに参照できるため、社内の蓄積されたナレッジを課題解決のために有効活用できます。

石井さんは「たとえば、来年のおせち料理の仕様に関する質問をメンションをつけて投稿すると、直接問い合わせを受けた人に限らず、質問を見たチーム内の他のメンバーが返答をくれることもあります。これは Slack の得意分野とも言えるオープンコミュニケーションならではの効果です。誰かが回答したものを検索して一覧表示もでき、そうした使い方も進んでいます」と、スマートな連携によって対応自体のスピードも上がっていることを説明しました。

楽しく便利に使える体験によって、働く時間、若手やベテランといった世代の違いや場所も関係なく、誰もが Slack というデジタルツールを使いこなせるようになったのです。

オープンな情報共有がもたらす信頼関係と組織改革

石井食品には「工場の社員にパソコンは無理」「60 代社員にデジタルツールは無理」といった、IT ツールに対する思い込みのようなものがありました。従来と異なるやり方やツールの利用は、たとえそこにメリットがあると頭では分かっていても、このような思い込みから導入の機会を逃している企業も多いはず、と石井さんは話します。

石井さんは IT 業界での経験と同社での実体験を通し、ツールを強制するのではなく、まずは各部門の課題に耳を傾ける事が大切だと言います。その傾聴から、組織内の問題を解決する方法としてツールを提案できれば、抵抗も少なく受け入れられやすくなります。そしてユーザーが楽しく気軽に使えるような工夫を取り入れることで徐々に浸透は深まるはずです。Slack 導入の際にも石井さんは、まずは周りのメンバーから小さくスタートしました。そしてどんな社員にも気軽に使って慣れてもらうために、全社の行事やイベントでまずは体験を促し、浸透への工夫をこらした結果、人が人を呼び込み、現在は会社全体での自発的な利用が広がっています。

石井食品では「OPEN ISHII」の名のもと、製品の原材料・産地・製造日・農薬残存検査状況などの詳しい情報を公開しています。Slack を浸透させることは、オープンなコミュニケーションを推進する同社の姿勢にもつながると石井さんは考えています。

「お客様に関する重要な情報・事故が生じたときは、たとえ自社のダメージになり得る情報でもオープンにしていくことで、結果的に信頼を構築できると考えています。この考え方を Slack の利用にも採用し、よりオープンにコミュニケーションしていくということを推進しています」(石井さん)

Slack の導入によって石井食品が踏み出した小さな一歩は、オープンな情報共有によって社員同士の信頼関係を育み、大きな変革へと繋がっています。

「押しつけるのではなく傾聴すること。Slack ならどんな組織の課題解決も、小さな一歩からはじめられます」

石井食品株式会社代表取締役社長執行役員石井 智康 氏