文房具・オフィス家具・事務機器メーカー大手のコクヨ株式会社は、事業環境の激変に対応するべく、大胆な経営改革に乗り出しました。その一翼を担うグローバルステーショナリー事業本部では、全社に先駆けて Slack をテスト導入し、組織横断プロジェクト「100 均 PJ」の業務改善を進めました。リーダーとして推進チームを率いる事業推進室 事業推進ユニット エキスパートの清田 広太郎さんに、Slack の導入目的や活用法、導入効果について伺いました。
従来の倍のスピードと部門横断のプロジェクトを両立するために Slack をテスト導入
日本を代表する文房具・オフィス家具・事務機器メーカーとして 1 世紀以上の歴史を刻んできたコクヨ株式会社。同社を取り巻く事業環境は、ここ数十年の間に、人々の働き方や学び方の多様化、デジタル化の加速など、大きく変化しました。それを受けて同社は 2021 年 11 月、それまでの経営方針を大幅に見直す中期経営計画を策定。商品・サービスの提供を通じた顧客体験価値の拡張を成長戦略と位置づけ、事業の創出と領域拡大を推し進めています。
グローバルステーショナリー事業本部は、その改革の一環として再編された事業本部の 1 つです。同本部では、人々の創造性を刺激し、それぞれの個性を発揮できる文具の企画・開発、および国内外のデジタルマーケティングの強化を進めています。そのなかで、清田さんが所属する事業推進室 事業推進ユニットは、各部署の戦略の進捗管理や組織横断的なプロジェクトの計画・推進などに取り組み、全社的な変革の一翼を担っています。
なかでも、2020 年 1 月にスタートした組織横断プロジェクト「100 均 PJ」について、清田さんは「歴史があるだけに形式を重んじる当社において、実験的でベンチャー感のあるプロジェクト」と評します。
今まで 100 円ショップ向けの商品を大々的に展開していなかった同社が、新たな顧客にリーチするために立ち上げたプロジェクトです。
プロジェクトの立ち上げにあたり、運営改革全体の KPI として掲げたのが “実験倍速運営” です。
清田さんによれば、同社の従来の商品開発プロジェクトの運営は、ミスや部門間の齟齬がないよういくつもの会議を経て慎重に進める、“縦割り組織で慎重に擦り合わせをする運営”。企画から販売までに半年から 1 年はかかっていたそうです。それに対して100 円ショップへの参入には素早いスピード感が求められます。「100 均 PJ」では、企画を立ててバイヤーに提案し、採用されれば即商品化、ダメならすぐ次の企画に取りかかることで、開発期間を約半分に短縮するという、“倍速運営” を目標にしました。
また、同プロジェクトは、職種・業務ごとに編成されるいわゆる縦割り組織ではなく、営業・生産・開発など、さまざまな職種のメンバーで構成されています。それによって多角的な視点から商品開発や顧客開拓を進めるのが狙いですが、メンバーの勤務地や業務内容が異なるため、なにから議論すればいいかもわからない状況だったといいます。
部門横断でのコミュニケーションをとりながら、スピード感のある運営を実行する。こうした目標を達成するために同ユニットは全社に先駆けて Slack をテスト導入し、「100 均 PJ」における活用を開始します。
チャンネルを活用して商品準備の進捗管理や部門を超えた情報共有を効率化
同ユニットでは、Slack を大きく 3 つの領域で活用しています。
1 つめは「商品準備の進捗管理」です。「100 均 PJ」では、企画段階や商談中など、さまざまなフェーズの案件が常時 30 件以上動いています。清田さんはリーダーとしてそれぞれの進捗状況を管理するため、メールや SNS で各担当者とやり取りしていましたが、すべてを把握し対応するには煩雑な状態でした。
そこで清田さんは、「#pj-st-100均PJ-商品分科会」という Slack チャンネルを作成し、商品ごとにスレッドを立ち上げて管理を行うことにしました。
「各スレッドの最新投稿に目を通すだけで状況を把握できるため、すべての商品案を混乱なくハンドリングできるようになりました。あとからプロジェクトや企画に加わってきたメンバーでも、各スレッドを読んだり検索したりして、それまでの経緯や現状を即座に理解し、スムーズに仕事に取りかかることができています」
2 つめの活用例は、「マーケティングリサーチを通じた知識・ノウハウ共有」です。「100 均 PJ」では Slack 導入以前から、100 円ショップの売り場で競合の商品展開などの情報を収集・共有し、商品開発や提案に利用していました。しかし、営業のメンバーのみで行なっていたため、頻度や視点の多様さという面で十分ではありませんでした。
そこで、「#pj-st-100均PJ-支度部屋」というチャンネルを作成し、メンバー全員が毎月 1 回以上店頭へ行って売り場や商品の写真を撮影し、気づいたことを投稿するというルールを定めました。
今までは生産や開発などのメンバーが店頭にリサーチに行くことは、縦割り組織を基本とする同社では従来の業務として起こり得ないことでした。しかし、営業以外のメンバーが調査活動することによって、それまでにはなかった異なる点に気づき、成果につながる可能性があると清田さんは考えたのです。
「例えば、競合商品の生産手法の見分け方は、生産のメンバーが売り場を見ればひと目でわかる当たり前のことですが、営業のメンバーはまったく知り得なかった知識でした」と清田さんは話します。全メンバーで市場を調査して Slack に投稿することで、各職種の暗黙知が形式知となり、チーム全体で活用できるようになりました。
3 つめの活用は、「ワークフローによる KPI の進捗管理」です。「#pj-st-100均PJ-all」というチャンネル上で、 Slack のワークフロー機能を利用して、各種 KPI の進捗管理を行っています。マーケティングリサーチに関する投稿数も KPI の 1 つです。規定回数に満たないメンバーにはリマインドのメッセージが自動配信される仕組みになっています。メンバー同士のモチベーションも向上し、リサーチ活動の促進にもつながっているそうです。
プロジェクトの “倍速運営” を実現し、売上前年同期比 138% を達成
こうした Slack 活用による成果は、実際の数字でもはっきりと表れています。Slack の本格的な利用を始めた 2022 年度の「100 均 PJ」の売上は、前年同期比 138% と大幅に向上。Slack 未導入のプロジェクト開始時の 2020 年度と 2022 年度とを比べると、「100 均 PJ」の売上は実に 388% に跳ね上がりました。専従のプロジェクトメンバーがいないにもかかわらず、それほどの成果を上げることができたのは、Slack での効率的なプロジェクト運営が大きく寄与しているといいます。
開発期間を約半分に短縮するという “倍速運営” のサイクルを実行することができたのは、他にはない Slack のコミュニケーションならではの利点でした。
「メールや SNS でメンバーとやり取りする従来の方法でも、同時に動く商品案が 1~2 件なら対応できたと思います。しかし、30 件以上もの商品案を円滑に “倍速運営” できているのは、スレッドでの進捗管理やオープンコミュニケーションによる情報共有でスピード化を促進できる Slack を使っているからこそです」
また、Slack でのやりとりを通じて、隠れていたメンバーの能力の発見にも繋がっていると感じているそうです。
「組織横断的なプロジェクトで各職種の人材が自分の専門的な知見を Slack 上で共有し合うことで、よりイノベーティブな環境が構築され、個々の人材の能力を最大限に引き出せるようになりました」
今後の展望について清田さんは、ワークフロー機能の活用範囲をさらに広げていきたい、と語ります。その 1 つとして現在進めているのが、Google スプレッドシートで管理する「100 均 PJ」の売上などの KPI を Looker Studio でグラフ化し、自動的に Slack に投稿する、という仕組みの構築です。
「それができれば、リアルの会議で KPI を確認しなくても、Slack に自動配信される最新の数値を皆が見て、自然に興味を持つようになる。自身の活動の改善につなげる関心や意欲がより高まるだろうと期待しています」
「一度に 30 件以上もの商品案を円滑に “倍速運営” できているのは、スレッドでの進捗管理やオープンコミュニケーションによる情報共有でスピード化を促進できる Slack を使っているからこそです」
コミュニケーション活性化で業務効率・生産性が向上し、メンバーとチームが成長
Slack の導入当初には、プロジェクトメンバーから「メールで十分業務が回っているのに、なぜ Slack を使わなければならないのか」という声も上がっていたそうです。しかし、メールだけの閉ざされたやり取りでは、職種や勤務地の異なる相手の業務や悩みを知ることはなかなかできません。清田さんは、“倍速運営” の実現には Slack を全員で使ってコミュニケーションのハードルを下げることが大切だと繰り返しメンバーに伝えました。同時に、プロジェクト運営や情報発信を Slack のみで行うようにし、「100 均 PJ」のメンバー全員にとって Slack が業務に必須のツールとなるよう取り組みました。
リーダーのそうした努力が奏功し、プロジェクト内での Slack に対する意識や習熟度は順調に向上。1 つのチャンネルに集まって誰もが気軽に雑談することで、相手への理解を深めたり、それぞれの職種の視点からアドバイスし合ったりできるようになりました。その結果、業務効率と生産性が高まり、メンバーとチームは確実に成長。その取り組みが経営層にも認められ、「コクヨ メリハリアワード」という社内表彰を受賞しました。
「今までは自分の業務だけに専念していた生産部門のメンバーが、工場の稼働率や営業の生産性まで考えて自分で商品を企画し、販売提案書を作るようになりました。視点や動き方が変わることで対話が生まれ、チームの結束と力がさらに強まります。Slack には、縦割り組織の壁を取り払う力があると感じています」
プロジェクトの “倍速運営” とメンバー・チームの成長を加速させた、コクヨ グローバルステーショナリー事業本部の Slack 活用術。清田さんは最後に、成功の秘訣についてこう語りました。
「昨今、アジャイルという言葉がよくいわれますが、“本当のアジャイル” というのは、Slack のようなツールを使ってまずコミュニケーションをアジャイルにするところから始めなければなりません。Slack の導入を悩んでいる方には、『悩む前に実験導入してみたらいかがでしょうか』とアドバイスしたいですね」
「Slack には、縦割り組織の壁を取り払う力があると感じています」