「20 年の IT の遅れを取り戻せる手応えを感じる」 文部科学省の Slack 導入

「パソコンとスマホさえあれば、いつでもどこでも業務にあたれる環境に。Slack は働く時間と空間のハードルをぐっと下げてくれました」

Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology省改革推進・コンプライアンス室中田 欣成 氏

法令・制度をつくる政策提言をはじめ、省内外との調整など幅広い業務を行う文部科学省。特に国会会期中は、議員の質問への答弁をつくる「国会対応」に忙しく、帰宅が深夜に及ぶことも珍しくない状況でした。

2022 年 1 月、同省は省内コミュニケーションシステムを刷新。新システムのプラットフォームとして Slack の活用がスタートすると、職員間の連携がスムーズになり、あらゆるシーンで業務効率化が加速したといいます。

省改革推進・コンプライアンス室の中田欣成さん、業務改善推進員の川口真史さん、サイバーセキュリティ・情報化推進室の福井孝典さんに、中央省庁で初となるフルクラウド化の足がかりとなった Slack の具体的な活用法やシナジーについてお聞きしました。  

共同作業の効率化とコミュニケーションギャップの解消に向けて

日本の教育、科学技術・学術、スポーツ、文化の振興をリードし、常勤、非常勤併せて 3,000 人以上の職員を擁する文部科学省。そのメイン業務は法律案の作成や行政府が進める政策の遂行等です。しかし、日々の管理業務の負担が重く、実際には力を入れたい政策提言に対する時間の確保がむずかしいという課題がありました。

また、国会会期中は国会対応に追われます。国会対応とは、各府省庁が議員から前日までに質問内容を伝える事前通告を受け、それに基づく答弁原稿を作成する業務。1 つの原稿をつくるのにも大勢の職員が関わり、メールや対面で順を追って承認を踏んでいく必要があります。常に時間との勝負となるこの国会対応は、重複する作業が発生するなど進め方に非効率な部分も多く、そこには多大なエネルギーが割かれてきました。

そんな中、文部科学省では省内コンピュータシステムの処理速度の遅さが目立つようになり、システム更新の必要性が叫ばれていました。加えて、省内のコミュニケーションにも課題が見えていたと中田さんは話します。

「職員に『自由に意見を言えるか』についてのアンケートをとったところ、若手職員の『言える』の割合が低く、上司と部下、ベテランと若手間のコミュニケーションの意識にギャップがあることがわかりました。近年の新人はコミュニケーションツールとしてチャット形式のアプリケーションを自然に使いこなす一方、メールなどには慣れていない傾向も年々強くなっていました。このままではギャップが大きくなっていくという危機感がありました」

その結果、「霞が関の働き方改革」の機運の高まり、コロナ禍によるテレワーク化推進なども重なり、新しいコミュニケーションツールを含めたシステムのアップデートが喫緊のミッションとなりました。

2019 年 8 月、システム更新のための予算要求を行い、2022 年 1 月のシステム稼働を目指して更新の中身の検討をスタート。複数の選択肢がある中でも、Slack をプラットフォームとしたシステム刷新案が文科省の目指す働き方改革に合致するとして、導入が決定しました。 

20 年の IT の遅れを取り戻せる手応えを感じる Slack 導入

システム刷新にあたり、システム構築面ではセキュリティ面に細心の注意を払いました。そこで採用されたのが、公共機関ではこれまでほぼ取り入れられることがなかったゼロトラストアーキテクチャです。ネットワークの内外に関わらず暗号化と多要素のユーザー認証、統合的なログ監視などにより、安全なインターネットへのアクセスを実現し、同省は中央省庁では初となる基盤ネットワークシステムのフルクラウド化を行いました。高いセキュリティレベルを担保しながら、多様な働き方や業務効率の改善を進めるベースを整えることができたのです。

また、生産性という面では、省内でのアンケート結果を反映させたと中田さんは言います。「アンケートでは、Word や Excel などの書類を複数の職員が共同編集できるようにしてほしいという声が強く出ていました。セキュリティ面を担保した上で、オンラインで 1 つの文書をスムーズに共同編集できるように改修しました」

そして、新システムの一環としてクラウドストレージでファイルを保管・共同編集し、Slack と連携できる仕組みが整えられました。Slack 内のデータは Slack 独自の暗号化キー「Slack EKM」がかけられ、文部科学省のみが扱えるように強固に守られているため、連動したコミュニケーションも安心して進められるようになっています。

Slack の本格稼働に向けては、スムーズに開始するためのさまざまな準備が進められました。希望した約 200 人の職員が先行して Slack を利用できる環境を整え、実際の使い勝手を確認しました。Slack の担当者による説明会の開催や、使い方を解説する専用動画の作成・配布といった細やかなサポートも、職員全員に操作方法の周知をする上で役に立ったといいます。

「通常、公共機関が導入する IT は、民間企業で十分な利用実績があるものを、民間の 2 周遅れくらいでようやく採り入れるイメージがありました。それだけに、先進的なゼロトラストアーキテクチャに基づくフルクラウド化を実現できたことは画期的だと思います。Slack をプラットフォームに据えた今回のシステム刷新では、20 年の IT の遅れを一気に挽回できたような手応えがありました」(福井さん)

全職員に Slack がインストールされたスマートフォンが配布され、予定通り 2022 年 1 月から新システムが稼働。省内から募った業務改善推進員が「Slack 伝道師」となり、浸透に努めました。

「ゼロトラストアーキテクチャに基づくフルクラウド化と Slack をプラットフォームにしたシステム刷新によって、20 年の IT の遅れを一気に挽回できたような手応えがありました」

文部科学省サイバーセキュリティ・情報化推進室福井 孝典 氏

深夜必至の国会対応もその日にクリア。意外と変われる霞が関グランプリと河野太郎賞を受賞する事例に

本格稼働後、Slack を様々な業務のプラットフォームとして、メールや電話に頼らずにいつでも簡単にナレッジを共有できるようになりました。チャンネルでオープンかつフラットなグループ作業ができるようになったことも大きな変化です。

特に国会対応業務では、その効果が目に見えて現れたケースもありました。従来の答弁作成では、各担当職員と幹部職員の間での確認作業の往復を経て、それぞれ修正を終えた複数の原稿を統合・編集し、ようやく決定稿が完成するというプロセスが行われていました。1 つの質問に対して大勢の職員が関わることもあり、課を超える物理的な移動によるタイムロスや膨大な量の原稿のまとめ作業などに多くの時間が費やされていました。

その長年の通例が、Slack を活用したことで、一変します。Slack にグループチャンネルを作成し、答弁作成チーム、修正作業チームと内容を共有し、課をまたいで作業のフェーズに捉われない進捗の見える化を実現しました。移動のタイムロスをなくすと共に、クラウドストレージに一元管理した書類を関係者全員が共同編集をすることで、効率的な原稿作成が行えるようになりました。担当者による幹部レク、幹部による大臣レクの調整も、案件ごとに Slack 内で見える化した作業が可能となり、関係者全員の動きが省力化しました。 

「従来は、国会対応のためにいつも深夜まで作業していましたが、Slack を基点に仕事を進めることで、質問聴取から答弁作成、修正、幹部確認までをシームレスに効率化できました。ある日は、1 日 63 問という負荷の高いタスクも、日付けを越えずにクリアできるほど生産性が向上した事例もありました」と Slack の利活用をリードしてきた川口さんは話します。

この事例を含む文科省での業務改善の活動は、「プロジェクト K(新しい霞が関を創る若手の会)」が開催した「意外と変われる霞が関大賞」のイベントでプレゼンされ、グランプリと河野太郎賞をダブル受賞。有志や若手も参加した現在進行形でのボトムアップの組織改善が、行政機関の働き方改革の好例として大きな注目を集めました。

国会対応以外にも、Slack はさまざまな管理業務の効率化に寄与しています。例えば、各種名簿の更新、会議の出欠確認、出退勤管理や超勤・休暇申請などの作業も、簡単かつスムーズに行えるようになりました。

「Slack を基点に仕事を進めることで、国会対応においても部門をまたいだシームレスな効率化が実現しています。負荷の高いタスクも時間をかけずに行えるようになり、Slack 導入前には考えられないほど生産性が向上しました」

文部科学省業務改善推進員 川口 真史 氏

Slack にログインするだけですべての業務をこなせる未来の働き方へ

他の省庁に先駆けて Slack をプラットフォームとしたシステム変革を行い、生産性をアップさせると共に、機密事項や制約の遵守が必要とされる行政機関においても、より開かれた働き方改革を実践している文部科学省。

こうした Slack での柔軟性のあるやりとりは、世代間のコミュニケーションギャップにおいても思わぬ効用があったと中田さんは話します。「Slack により職員間のコミュニケーションで絵文字の利用が浸透し、年代や立場を以前ほど気にせずにリアクションできるようになりました。副大臣への絵文字リアクションをする職員も現れたりと、いい意味で省内の風通しが良くなっていると感じています。今後、課題となっていた『意見を言える』空気も醸成されていくと期待しています」

 

 

Slack の活用を拡充していくことで、今後は危機管理体制をさらに強化していきたいと福井さんは期待を込めます。とりわけ、Slack コネクトの活用による外部とのコミュニケーション環境の整備はメリットが大きいと考えているそうです。

「メールは誰から来るかわからない仕組みである以上、常にリスクと隣り合わせです。その点、Slack コネクトを使えば、認証されたメンバーに制限されるので、いつでも安心して使うことができます。外部とのコミュニケーションもすべて Slack へ一本化できれば、セキュリティ面も格段に向上するはずです」

さらに今後は、システム間でデータを連携させ、機能を拡張させる API 連携の一層の拡充も図りたいといいます。

「Slack を使う最大のメリットは API 連携にとても適している点だと考えています。始業時に Slack にログインすれば、ワークスペース内であらゆる書類作成も、省内外とのやり取りも、管理業務もすべて行えるのが理想です。API 連携、ゆくゆくは最新の AI 技術なども活用して生産性を高め、職員がより重要度の高い業務に集中して取り組むような未来の働き方は、深刻化する霞が関の人材不足解消にも寄与することでしょう」(福井さん)

行政機関の IT をリードする文部科学省が証明した「意外と変われる霞が関」。これからも安全かつオープンな環境で、Slack のポテンシャルを活かした機能拡充と、活用の浸透によって、さらに良い変化が生まれていきそうです。

※ 本事例は 2023 年 3 月時点の内容です。

「API 連携、ゆくゆくは最新の AI 技術なども活用して生産性を高め、職員がより重要度の高い業務に集中して取り組むような未来の働き方は、深刻化する霞が関の人材不足解消にも寄与することでしょう」

文部科学省サイバーセキュリティ・情報化推進室福井 孝典 氏