「アジャイル」という言葉は、ソフトウェアなどの開発プロジェクトで耳にします。しかし、最近は組織の仕組みに関しても用いられ「アジャイル型組織」と呼ばれ、注目されていることをご存じでしょうか。
今回は、アジャイル型組織の特徴や注目されている理由、組織形態としてのメリット・デメリットをわかりやすく解説します。アジャイル型組織へ移行するために必要な取り組みと併せて見ていきましょう。
アジャイル型組織とはすみやかな意思決定で課題を解決する組織
アジャイル型組織とは、実行と改善を短いスパンで繰り返し、すみやかな意思決定によって課題解決を実現する組織のことを指します。アジャイル型組織の特徴としては、現場に一定の権限を付与することで、従来型の組織よりも現場レベルで意思決定できる範囲を広くしている点です。
アジャイル型組織が注目される理由
アジャイル型組織が注目される理由は、ビジネスを取り巻く環境がめまぐるしく変化しているからです。スマートフォンや SNS がごく短期間で急速に普及し、消費者行動は大きく変容しました。さらに、パンデミックによる働き方や生活スタイルの変化は、消費者ニーズにも多大な影響を与えています。わずか数年後でさえも、どのようなプロダクトやサービスが求められる時代になるのか、現状の事業方針が今後も通用するのか、予測不可能な状況なのです。
このような先行きの見えない時代に持続可能な事業を築くには、起きていることに対して柔軟に対応する仕組みを構築していかなくてはなりません。そのために、アジャイル型組織が必要なのです。
ピラミッド型組織とアジャイル型組織との違い
ピラミッド型組織とアジャイル型組織の違いは、意思決定者と業務遂行の形です。
ピラミッド型組織は上意下達で、ピラミッドの頂点に位置する経営者や事業統括責任者が意思決定し、あらかじめ策定した計画に沿って業務進行を行います。
一方、アジャイル型組織ではチームごとに意思決定を行います。また、業務の進め方も、各チームで実行と学習を繰り返しながら行います。
アジャイル開発との関連性
アジャイル開発とは、全体の仕様を大まかに設計しておき、機能ごとに同時並行で開発を進めていく手法で、システムやソフトウェア開発で使われる言葉です。途中段階での仕様変更を前提としているため、顧客ニーズの急激な変化にも対応しやすい点が特徴です。
このアジャイル開発の途中段階での仕様変更を前提とした考え方を組織にあてはめたのがアジャイル型組織で、顧客ニーズの急激な変化にも対応しやすいことが共通しています。
アジャイル型組織の構成
アジャイル型組織は、分隊、支部、部隊という 3 つにグループで構成されます。分隊を最小組織として、支部という機能単位の組織、部隊はアジャイル型組織の単位です。そして、このグループを束ねるのが部隊長となり、業務に関する権限を持ちます。従来のピラミッド型組織には、この支部にあたる部分がありません。支部は機能単位の組織で、通常の縦のつながりではなく、横のつながりでスキルや情報を共有できます。
例えば、3 つの分隊にマーケティングの知識を持つメンバーがいなくても、支部にマーケティングの知識を持つメンバーがいれば、分隊を横断して業務に対応できるというわけです。
アジャイル型組織のメリット
ピラミッド型組織からアジャイル型組織へと移行することで、具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。アジャイル型組織に特有のメリットは次のとおりです。
業務遂行が柔軟になる
組織全体の意思決定を待つことなく、チーム単位で素早く対応できることが、アジャイル型組織のメリットです。チームに一定の権限が与えられているため、顧客のニーズや市場環境の変化に応じて柔軟に対応できます。
ビジョンが明確になる
アジャイル型組織のメリットには、事業のビジョンが明確になることも挙げられます。事業のビジョンを設定し、各メンバーに浸透させていくことで、チーム間で意思決定にブレが生じないようにできます。
PDCA サイクルが早くなる
実行と改善を短いスパンで繰り返せるのが、アジャイル型組織のメリットです。PDCA サイクルを高速で回すことにより、アウトプットの質が高まります。
権限がフラットに分散される
チームやメンバーに権限が移譲されるのもアジャイル型組織のメリットです。権限が分散されればフラットな組織となりますし、各メンバーは権限に応じた責任を負うことになるため、自律的な判断や行動が自然と促されます。
DX を実現する
アジャイル型組織であれば、DX を導入するハードルも下がります。意思決定プロセスがシンプルですから、DX 推進に寄与する仕組みを導入するハードルも下がります。また、少人数のチームであれば、新たな仕組みやツールを試験的に導入することも難しくありません。
明確な役割が与えられる
アジャイル型組織では、メンバーが存在意義を実感しやすくなるメリットがあります。アジャイル型組織ではメンバー各自が価値創出に直結する役割を担うため、各自がやりがいや存在意義を実感しやすくなるのです。
意思決定が早くなる
意思決定のプロセスがシンプルになることも、アジャイル型組織のメリットです。方向性が定まってから行動に移すまでの時間が短縮されることで、急激な環境変化にも対応できる組織を築けます。
生産性が高くなる
生産性が高まることも、アジャイル型組織のメリットと言えます。アジャイル型組織では、実行と改善を繰り返しながら学習していくことで、より良い業務の進め方を見つけやすくなります。結果として、各メンバーの生産性が高まり、組織全体における生産性の最大化を図ることができるでしょう。
チームメンバーの離職率が下がる
アジャイル型組織のメリットとして、離職率が下がることも考えられます。アジャイル型組織は、チームメンバーが自身の役割を明確に認識するため、高いモチベーションを維持しやすくなります。離職率が下がれば、安定的な組織運営が実現できるだけでなく、採用コストの抑制という点でも効果的です。
ナレッジの蓄積と活用ができる
ナレッジの蓄積と活用がしやすいのも、アジャイル型組織のメリットです。分隊で確立したノウハウは支部を経由して共有されるため、組織のナレッジとして蓄積していくことができます。
柔軟な働き方に対応できる
アジャイル型組織であれば、柔軟な働き方にも対応できます。各メンバーが一定の権限を持って意思決定できるため、フリーアドレスやリモートワークなど多様な働き方に対応可能です。
アジャイル型組織のデメリット
アジャイル型組織には、従来のピラミッド型組織には見られなかったデメリットも存在します。次に挙げるデメリットに注意し、あらかじめ対策を講じておくことも必要です。
マネジメント力が必要
各メンバーが自律的に判断・行動するアジャイル型組織においては、きめ細かなマネジメント力が必要不可欠です。メンバーの意思統一を図り、進捗管理やスケジュール管理を適切に行うマネジメントスキルが求められるでしょう。
向かない部門などもある
定められた手順に従って業務を正確に進める部門は、アジャイル型組織との親和性が低い可能性があります。すべての部門をアジャイル型組織へと移行するのではなく、業務の特性を慎重に見極めることが大切です。
ゴールを設定しにくい
常に実行と改善を繰り返していくことが前提のアジャイル型組織では、具体的なゴールを設定するのは容易ではありません。ビジョンを明確に掲げたうえで、メンバーにビジョンが浸透しているか注視していく必要があるでしょう。
組織づくりに時間がかかる
アジャイル型組織の理念をメンバーが十分に理解するまでに、時間がかかるという点もデメリットでしょう。組織図さえ変更すればアジャイル型組織が実現するわけではないため、時間をかけて組織づくりに取り組むスタンスが不可欠です。
現場が対応できない
アジャイル型組織に適応するには、各自の意識を改革し、相応のスキルを身につけていく必要があります。組織のあり方が急激に変わることで、現場が対応できないおそれがあるのです。
人材間のスキルギャップがある
アジャイル型組織で求められるスキル要件を満たしている人材と、そうでない人材とのギャップが表面化することも考えられます。適宜トレーニングや研修を実施するなど、スキルギャップを埋めるための方策を検討していく必要があるでしょう。
アジャイル型組織へ移行するために必要なこと
従来型の組織からアジャイル型組織へと移行するには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。必要な取り組みや対策についてご紹介しましょう。
組織づくりの計画を立案
まずは組織づくりの計画を立てましょう。なぜアジャイル型組織へ移行する必要があるのか、アジャイル型組織でどのような課題を解決したいのかを明確にします。組織の仕組みの変更を目的としないためにも、理想像やゴールを先に設定しておくことが重要です。
次に、ビジョンを具現化するために必要な部隊や支部の構造を検討していきます。部隊や支部ごとにミッションを設定し、ミッション達成を目指すうえで必須の人材やスキル、テクノロジーなどを定義してください。全体像から細部の仕組みへと、計画を詰めていくのがポイントです。
テストチームでトライアルしてみる
アジャイル型組織への移行は、最初から組織全体で進めず、小規模なテストチームでトライアルしておくことをおすすめします。部署や部門など、アジャイル型組織と親和性が高いセクションでテストチームを編成しましょう。
トライアルを行えば、想定していなかった課題や実態が見えてきます。ここで挙がった課題への対策を考えておくことで、組織全体に展開していくための足掛かりとなるはずです。
アジャイル型人材の育成環境を作る
アジャイル型組織では実行と改善を繰り返すことが前提となるため、小さな失敗はお互いに許容し合える信頼関係を構築しておく必要があります。失敗を責めるのではなく、失敗から学びや次のアクションにつながる改善策を見いだす、建設的な思考を習慣化していくことが大切です。
従業員の学習環境を整える
チームやメンバーに意思決定権を移譲するために、各メンバーに求められるスキルや判断力を向上させておく必要があります。メンバーが自発的に学べる学習環境を整備し、継続的なスキルアップが可能な状況を構築しましょう。
IT を活用する
意思決定をサポートするツールやコミュニケーションを活性化させるツールの導入も、アジャイル型組織には必要です。IT ツールは組織全体で一律に導入するのではなく、導入すべきツールや活用方法についてもチーム単位で意思決定できるようにしておく必要があります。
Slack でアジャイル型組織の生産性向上を図る方法
コミュニケーションツールとしても知られるインテリジェント プロダクティビティプラットフォームの「Slack」を活用すれば、アジャイル型組織のメリットを最大限に活かすことができます。アジャイル型組織で想定される Slack の活用方法は次のとおりです。
定型業務を自動化して効率化する
Slack には定型的なプロセスを自動化できるワークフロービルダーが備わっています。ビジネスシーンでよく活用されるワークフローのテンプレートが用意されているため、自社で必要なワークフローを簡単に自動化できるのです。また、テンプレートにはないワークフローを新たに構築することもできます。また、ワークフローを使って、毎日のスタンドアップミーティングを Slack で行うことも可能です。
チーム単位でルーティンワークを自動化していくことにより、アジャイル型組織に求められる実行や改善サイクルをいっそう加速できるでしょう。
ナレッジや会話を会社の資産として蓄積して活用する
Slack 上で交わされた会話の履歴は、検索機能を活用して素早く探すことができます。過去の会話を参照することで、必要なナレッジを必要なタイミングで得られるのです。メンバー間でのやりとりそのものがナレッジとなり、会社の資産として蓄積していくことができます。
また、Slack の canvas を活用することにより、文書や画像・動画ファイルなどを整理・管理できます。資料やワークフローを手軽に共有することで、メンバーの経験値を組織の経験値とすることも可能です。
場所や時間を問わず、社内外のメンバーと協業する
チャットは非同期コミュニケーションのため、場所や時間の制約を受けることなく協業が可能です。社内のメンバーはもちろんのこと、取引先など社外の関係者とも意見交換や情報共有を図りながら業務を進められるでしょう。共有事項は、Slack のクリップ機能を活用してメンバーに知らせることも可能です。
また、ハドルミーティングを活用すれば、離れた場所にいる相手ともすぐに音声通話やビデオ会議を行うことができます。アジャイル型組織に求められるコミュニケーションの頻度や深さを実現し、機動的な意思決定につなげられるはずです。
必要な対策を講じてアジャイル型組織への移行をスムーズに行おう
実行と改善を短いスパンで繰り返し、すみやかな意思決定によって課題解決を図るアジャイル型組織は、変化の速い現代社会にマッチした組織形態と言えます。一方で、従来のピラミッド型組織とは理念も重視されるポイントも異なることから、スムーズに移行するには必要な対策を講じておくことが重要です。
今回紹介したメリットやデメリットを踏まえつつ、アジャイル型組織への移行をスムーズに行い、持続可能な組織を築いていきましょう。
よくある質問
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