「デジタル技術の活用無くして今後の生き残りはない」という考えのもと、株式会社クレディセゾンでは独自の DX(デジタル変革)戦略「CSDX VISION」を推進しています。その要となるのが「バイモーダル戦略」です。
従来の基幹システムに代表される安定性を重視した「モード 1」、スピードや柔軟性を重視した「モード 2」という異なる開発手法を協調させることで、既存の文化や資産を生かしながら変革に取り組んでいくことを目的としており、同社ではテクノロジーセンターが中心となって推進しています。
しかし、モード 1 とモード 2 では志向も業務の進め方も異なるため、それぞれのメンバー間に文化的な壁ができがちです。推進当初、クレディセゾンで特に問題となったのが、コミュニケーションの領域でした。
クレディセゾンは Slack をコミュニ―ション基盤として積極的に活用し、このコミュニケーションにおける問題を解決するとともに、経営戦略に即した全社的な DX を推進しています。同社の専務執行役員兼テクノロジーセンター長の小野さん、同センター課長の井上さん、雨澤さんに、具体的な Slack 活用のポイントや導入効果についてお話を聞きました。
クレディセゾンを悩ませた部門間の文化の壁
1951 年の会社設立以来、クレジットカード事業を中心に「サービス先端企業」として幅広く事業を展開するクレディセゾン。2019 年 3 月に小野さんが CTO として入社してから、テクノロジーセンターは全社的なデジタル化を推進し社内の DX を先導しています。バイモーダル戦略を円滑に効果的に推し進めるためには、部門やポジションを超えた活発な議論や意見交換が重要ですが、そこで顕在化したのが、異なる部門間に存在する壁でした。従来型のメールや電話などのツールでは、そうした壁を乗り越えるコミュニケーションが困難だったのです。
小野さんは当時の状況について「挨拶などの定型文から始まるメールでは、どうしても冗長なやり取りが発生しますし、所属部署が明示されるので部門間のセクショナリズムにもつながります。また、電話でのやり取りは同一内容の問合せ対応が繰り返し発生し、ナレッジが蓄積されないことが多く、効率的なやり方とは言えませんでした」と振り返ります。
当時のコミュニケーション基盤ではこれらの解決が難しいと判断した小野さんは Slack を活用することで、業務効率化だけではなく、部門や役職を超えて多様性を重視するコミュニケーションが実現できると考え、以前の勤務先でも使用していた Slack をクレディセゾンでも全社規模に展開することを決断します。
垣根の無いプラットフォームで部署や役職を超えたコミュニケーションを実現
現在、クレディセゾンでは 3,000 アカウントの Slack をさまざまな部署やメンバーが活用しています。
導入当初は切り替えに後ろ向きなメンバーもいたそうですが、Slack を気軽に使い始められるようなアカウント付与フローを整備したことによって、最初にアクティブに行動を起こす「ファーストペンギン」となるメンバーが出現。彼らが周りを巻き込み、徐々に各部署に浸透しているそうです。
この流れについて、テクノロジーセンターでクラウドツールの管理などに携わる雨澤さんは「強制的に Slack の利用を促すのではなく、部門から要望があった際にアカウントを配布しています。Slack の便利さが口コミで広がり、『自分もぜひ使いたい』という問い合わせからユーザーが増えてきました」と語ります。
小野さんは、自然発生的に利用を希望するユーザーが増えた経緯についてを「好奇心のある人が Slack を使ってどんどん周りを巻き込みながら仕事を進めていくことで利用が広がっていきました。ファーストペンギンたちのムーブメントに乗って、さらに拡大しています」と説明します。
これに対し、井上さんはマネジメントの重要性を強調します。
「積極的に利用するインターナルエバンジェリストとなる人たちがつながることで、部門を超えたコミュニケーションへ自然に発展することを実感しました。ファーストペンギンとなる社員の存在も重要ですが、彼らの行動を許容・後押ししてくれるリーダーがいたことも大きかったと思います」(井上さん)。
また、同社では現在API を経由してさまざまなツールと Slack の連携を進めています。たとえば、テクノロジーセンターでは、ソースコード管理ツール GitHub との連携や、ポータルサイトの情報通知として SharePoint Online との連携も活用しています。
外部とのコミュニケーションには Slack コネクトを活用。「複数の企業と 1 つのチャンネルで繋がって仕事を進めているユーザーもいます。電話や会議と違って時間に縛られない。電話と違って 1 回で複数に伝えることができる。メールと比べても意思決定やアクションのスピードが格段に上がったと感じます」と井上さんは従来のコミュニケーションと比べた違いを説明します。
「ファーストペンギンとなる社員の存在も重要ですが、彼らの行動を許容・後押ししてくれるリーダーがいたことも大きかったと思います」
リリース直前の「セゾンのふるさと納税」をスピーディーに改善
社内に Slack が浸透した結果、Slack 上で部門横断型のやり取りが生まれていき、風通しの良い組織へと変化していったクレディセゾン 。
「部門を越えてフィードバックやアドバイスを従業員それぞれが少しずつでも受けとることで、それが自社の業務やサービスの改善につながっていく良いサイクルが生まれました」と話す小野さんが、Slack を使って業務やサービスを改善した例として紹介するのが「セゾンのふるさと納税」のエピソードです。
「セゾンのふるさと納税」では、従来は外注していたテストサイトを自社のデジタルサービス部が作成しました。このサイトの中に、ふるさと納税の返礼品を自動でおすすめしてくれる「おまかせガチャ」というコーナーがありました。そのリリースがあと 1 週間というところで、UI / UX やデザインについて、テクノロジーセンターに最終レビューの依頼が舞い込みます。
突然の依頼ではありましたが、Slack を使って意見を募集したところ、瞬く間にチェックボタンの大きさや UX に関する改善などの提案が全部で 382 件も投稿されました。これを受けて開発チームは改善できるポイントを改善し、より完成度を上げてリリースを迎えることができたといいます。
小野さんは「業務やサービスの改善に関するアイデアを思いつけば、モード 2 のメンバーは、主管部門以外のプロジェクトやチャンネルにも自分の意見を積極的に投稿します。モード 1 のメンバーには土足で踏み込まれたように受け取り、返答に戸惑った人もいると思いますが、『反応は必須ではなく、既読スルーでもいい』と言葉をかけることで、自分と異なる価値観も改善を願っての提案だと受け入れる素地を作れるようにしました。結果として、400 近い投稿がつくほど議論が活発になりました」と当時を振り返ります。
「部門を越えてフィードバックやアドバイスを従業員それぞれが少しずつでも受けとることで、それが自社の業務やサービスの改善につながっていく良いサイクルが生まれました」
“現場の生の声” がダイレクトに意思決定につながる
小野さんは Slack の導入効果について、1 日で 1 人あたり 2 分程度コミュニケーション効率が改善すればペイできると試算しています。
実際に同社の従業員に Slack の導入効果についてのアンケートを行ったところ、「Slack が利用できなくなったら、どれくらい不便になるか」という項目に対して、「以前の状態に戻ってしまうと 10 分以上も不便になる」と回答した従業員が 84 % もいたそうで、小野さんは「定量的な効果が出ていると言える」と手応えを話します。
しかし、小野さんが最も効果を感じていると強調するのは定性的な部分だといいます。 4,000 名以上の従業員がそれぞれ関わり合いながら業務に従事しているクレディセゾン。大規模な組織ではチームや部署内で現場の声や要望をまとめてエスカレーションすると、ヒエラルキーを経由するなかで、対応が本質から外れてしまうこともあったそうです。
これに対して、「Slack では”現場の生の声”をチャンネルにいる誰もがそのまま見ることができます。これによって小さな改善のアイデアが集積され、経営判断や意思決定にも役立てられる重要な場とすることができています。このポイントに関しては、経営陣からもポジティブなフィードバックがありました」と小野さんはその効果を語ります。
Slack によるコラボレーションで、強みを活かし合う「より強い組織」へ
その他にも、戦略人事部では内定者をゲストアカウントで Slack に招待し、入社前の内定者のフォローアップに活用しています。同社の CEO である林野さんが雑談チャンネルに「皆さんの意見を聞かせてください」とカジュアルな投稿をし、そのリアクションとして社員がちょっとした冗談を投稿するなど、部門や役職を超えて、新しい業務の形や組織風土が生まれてきているといいます。
クレディセゾンにおけるバイモーダル戦略を円滑に効果的に推し進めるためには、部門やポジションを超えた活発な議論や意見交換が重要です。Slack はその根幹部分を支える重要な役割を担っています。従業員が多い組織だからこそ、テクノロジーに明るくない人でも馴染みやすいようにあえて複雑なコマンドを使用しすぎず、コミュニケーションや情報の蓄積元となるような形で運用していると語る小野さん。
同社では今後も、社員同士がその強みを活かし合うことで「より強い組織」になるべく取り組みを進めていく予定です。