過去数年にわたる環境の変化により、組織のあらゆる部門でデジタル化が進み、営業現場にも進化が求められています。2022 年 10 月 20 日に開催したイベント「Slack Sales Innovation 〜『勝つ』営業組織のための Digital HQ 〜」では、営業組織の強化のノウハウや、業務コミュニケーションを Slack に移すことで営業改革を実現しているユーザー企業の事例が共有されました。
本レポートでは、TORiX 株式会社の代表取締役 高橋 浩一さんをお招きした Opening Keynote「最強のチームセリングを実現する『成果をあげる営業チームの共通言語』とは」の内容と、その「共通言語」をスムーズに浸透させる Slack の機能や活用方法、「新しい職場」としての Digital HQ (会社を動かすデジタル中枢)についてご紹介します。
営業パーソン 5,000 人に聞いた、目標達成できるチームの特徴
TORiX 株式会社 代表取締役 高橋 浩一 さん
高橋さんは、大学卒業後、外資系の宣伝会社を経て 25 歳のときに人材教育を手掛けるアルー株式会社を創業します。3 人で始めたベンチャーでしたが、チームとして売れる営業組織のための仕組み化を進め、6 年後には 70 名、年商 10 億円に成長します。2011 年に創業した TORiX では、50 業種 3 万人以上の営業強化を支援しており、それまでの経験をもとに 2019 年に執筆した「無敗営業」(日経 BP )が大きな反響を得ています。
講演の冒頭で高橋さんは「目標達成が当たり前のチームと、目標がいつも達成できないチームの違いとして、どんなものが思い浮かびますか?」と質問を投げかけ、TORiX が行った 5,000 人の営業パーソンに対する調査結果のグラフを示しました。
調査の中で「営業で成績をあげる『勝ちパターン』が特にない」「チームで頻繁に話題になる KPI やキーアクションがない」といった回答は、目標達成が当たり前のチームでは 9 〜 10 % 程度しか見られなかったのに対し、達成できないチームではおよそ 37 〜 40 % と、4 倍ほどの大きな開きが見られました。この結果から高橋さんは、目標達成できるチームになるためには「共通言語」を持つことが重要であると結論づけています。さらに、その共通言語を浸透させるためにどうすればよいのか、高橋さんから 3 つの具体的な方法について説明がありました。
チームセリングを強化する 3 つの共通言語と定着方法
先述した TORiX の調査に基づいた分析から、強い営業チームが持つ共通言語について 3 つのアイデアが導き出されています。それは「クイックレスポンス」「本質に向けた『深掘り』」「10 分キャッチボール」だと高橋さんは言います。
冒頭のチームでの比較に続き、個人として目標達成ができている人と達成できない人を比較してみると、達成者は顧客の問い合わせや依頼に対する応答が早いことがわかっています。このことから高橋さんは、1 つ目の共通言語を「クイックレスポンス」としました。
「営業担当者との関係構築に影響したこと」について尋ねた、顧客 1 万人への調査によると、回答が一番多かった「対面商談で話した回数」に続き、「質問や要望への素早い対応」が僅差で 2 番目に多い結果となっています。応答までの期間に関しても「最初の返答は 1 日以内、解決するまで 2 日」というスピード感を 7 割の顧客が期待している、という結果も出ています。高橋さんはこの事実を強調し、「1 日以内に返答というのは多くの営業担当者が意識しているとしても、どれだけの人が『2 日で解決』までを実行できているのか。単なる即レスだけではなく、返答と解決の双方をスピーディーに実現することを念頭に置く必要があり、そのためにはコミュニケーションツールなどを駆使したスムーズなチーム連携が重要となります」と説明しました。
2 つ目の共通言語は、「本質に向けた『深掘り』」です。これは顧客からの要望に対するもので、たとえば、顧客が「6 ヶ月のプランを 7 ヶ月に変更したい」と要望を出した際に、目標達成できない営業担当者の場合、「6 ヶ月という規定なので変更できません」と正直に伝える傾向にあります。これではコミュニケーションがそこで終了してしまい、要望に応えられないばかりか、より深い情報を得ることもできません。
一方、目標達成できる人であれば「変更したい背景をお聞かせください」と顧客の意図をより深く聞き出し、その意向に合う別のやり方を提案することで、顧客満足度のアップや案件獲得につなげるのです。高橋さんは「お客様からの要望の裏にある背景も含め、なるべくたくさんの情報を引き出すことが大切です。そして、持ち帰った豊富な情報をもとに社内の人を巻き込んで考えれば、提案のクオリティも確実に変わってきます」とアドバイスしました。
3 つ目の「10 分キャッチボール」は、顧客との接触機会と頻度に関する具体的なアイデアです。顧客の話を深掘りしたいと考えていても、この数年間はコロナ禍の影響もあり、直接会って話を聞く機会が激減しました。そのため商談の機会も減り、思うようにアプローチ出来ないと悩む営業担当者は多くいます。高橋さんは、顧客 1 万人への調査結果から、営業担当者とコンタクトする手段に「電話」と「メール」が多く挙げられることを示し、短時間の電話による商談とメールだけでなく、近年より需要が高まっているビジネスチャットなどのデジタルツールでのやりとりを組み合わせた、高い頻度のコミュニケーションが有効であると結論づけました。
一般的に顧客が営業電話をいやがる理由に、業務が邪魔されることが挙げられます。しかし高橋さんは、それを打開する方法があるといいます。まず、事前に顧客と 10 分ほどの短時間だけ電話で話す約束を取り付け、その時間内で課題や優先順位を聞き出します。そして、その後すぐにメールやビジネスチャットなどのデジタルツールで具体的な参考情報を送信するというやり方です。このような短いやりとりを何度も繰り返せば、相手の時間を大きく妨げずに顧客とのコミュニケーションが活発になり、提案しやすい関係を構築できます。
高橋さんは、これら 3 つの共通言語をチームに浸透させ、チームセリングの能力を高めるためには、施策に対して事前の仮説検証、実行状況の確認、実行後の効果計測を繰り返すことが重要とし、最後に次のようにコメントしました。
「効果測定をして、クイックレスポンスや深掘りをしている人の成績が上がっていたり、10 分キャッチボールの回数と成績に相関性が見られたりと、何かしらの結果が現れていたら、皆が実践しようと思うはずです。つまり、共通言語が浸透するためには、施策と結果がしっかりと結びついている必要があるのです。目標達成できないチームは、共通言語や KPI を持っていません。まずは、共通言語化を念頭に置いて、提案件数を増やすためのアクションを実行し、獲得件数が増えているかどうかを測れば、自然と共通言語化も促進されます」
勝つための共通言語を浸透させ、営業チームに貢献する Slack の機能
株式会社セールスフォース・ジャパン
Slack 事業統括 エンタープライズ本部 執行役員 本部長 小暮 剛史
高橋さんの話を受けて、続く講演では株式会社セールスフォース・ジャパン の Slack 事業統括 エンタープライズ本部で執行役員 本部長を務める小暮 剛史から、「勝つための共通言語」を浸透させるために活用できる Slack の機能について紹介がありました。
デジタルトランスフォーメーションへ世の中がシフトしていく中、営業チームにもデジタル環境への対応が求められています。B to B 領域における調査結果*では、社内の意思決定者のうち 4 人中 3 人がリモートでのやりとりや、オンラインでのセルフサービスを好み、購入担当者の中でも実に 7 割が、リモートワークによって購入プロセスがシンプルになったと回答、そのうち 50 % 以上は将来的にもリモートワークの継続を希望しています。
その一方で、67 % の営業マネージャーがリモートでのマネジメントに難しさを感じており、営業担当者も 65 % がリモートワークを困難だと考えている、といった調査結果もあります。この結果からも、多くの組織で営業プロセスのデジタル化に課題を抱えているのが現状といえそうです。では、高橋さんのプレゼンテーションで説明があった営業チームの課題とそれを解決する共通言語の浸透促進に、Digital HQ としての Slack はどのように貢献できるのでしょうか。
共通言語のうちの「クイックレスポンス」については、さまざまな人と情報を集約し、共有できる Slack のチャンネルコミュニケーションが役立ちます。顧客からの問い合わせや要望にすぐに回答するには、社内のメンバーとのスムーズな連携や、必要な情報をすぐに見つけ出せることが重要です。しかし近年デジタル化を進める中で、業務でやりとりするファイル形式やツールが増えすぎて必要なものを見つけ出せない、といった問題を抱えている組織も少なくありません。
Slack には、プロジェクトやテーマについて社内のメンバーが意見交換や情報共有ができるデジタル上の会議室のような「チャンネル」機能があります。社内に対してオープンにチャンネルを利用すれば、情報のサイロ化を解消した一元管理ができ、たとえリモート環境であっても部門を超えたナレッジ共有ができます。クイックレスポンスのスピードや精度の向上に貢献するのです。
「本質に向けた『深掘り』」についても、Slack によるオープンなコミュニケーションが効果を発揮します。文章でのやりとりより通話で相談したい場合は、手軽に音声通話やビデオ会議ができる「ハドルミーティング」が便利です。会議に参加できない人や、通話が終わったあとも深掘りしていきたい場合は、思いついたときにいつでも音声やビデオ、ファイルを投稿して情報共有できる「クリップ」を活用できます。その場で話せる同期的コミュニケーションと、時間や場所を問わない非同期なやりとりの活用で、顧客の求める本質をスムーズに捉えていくことができます。
「10 分キャッチボール」については、社外の人と Slack 環境を接続できる「Slack コネクト」が役立ちます。メッセージや絵文字を使ったインタラクティブなやりとりなら「お世話になっております」といった堅苦しいあいさつをしなくても気軽に意見交換できます。アプリの連携によってアポイントや Web 会議の設定も簡単で、確認や調整などの時間も大幅に短縮できるので効率的です。また、キャッチボールを通じて捉えた顧客の要望は、上長や同僚にも共有できるため、チームが協力しやすく一丸となって応えることができます。Slack の活用によって顧客との交流も促進され、その後の契約の継続などにも効果が期待できます。
さらに、さまざまな外部システムと連携できるのも Slack の特徴です。営業チームなら Salesforce Sales Cloud との連携によって、営業施策の結果を情報として残すことができます。
例えば、経済メディアを展開するニューズピックス社では、Slack と Salesforce を活用し、取引先に関する相談業務での情報共有や、事務手続きの自動化によって効率化が進んでいます。同社の広告制作では、業務の可視化によって、営業・制作・管理といった異なる部門のコラボレーションが強化されました。
高橋さんが示した、施策の実行状況と成果の計測による仮説検証のサイクルを実行できる Slack は、連携できる関連サービスも豊富で、チームセリングの強化に役立つはずです。
*出典
・McKinsey | These Eight Charts Show How COVID-19 Has Changed B2B Sales Forever
・LinkedIn 2021 State of Sales Report
Slack の利用によって、商談件数や成約率を高められる
これからの営業活動は個人の力に依存するのではなく、組織全体で成果を上げる仕組みを構築していく、チームセリングの考え方が必要です。チームで勝ち続ける営業組織を作った高橋さんは、共通言語の重要さを教えてくれました。
Slack を活用したクイックレスポンス、本質に向けた深掘り、適切なコミュニケーションによるビジネスへの貢献に関しては、商談サイクルが 15 % 短縮、成約率が 13 % 向上、提案までの時間が 16 % 短縮され、売り上げへのインパクトは 1.41 倍という試算が出ています。また、顧客との関係強化によって契約継続率は 2.1 % 向上、顧客生涯価値は 5.4 % 向上といった結果が得られています。
Slack はチームとのコラボレーション、顧客との対話をスマートにできる Digital HQ という新しい職場です。営業活動では、アポイント取得から提案、見積、受注、アフターフォローまでのプロセスに、組織が一丸となって取り組むことができます。
Digital HQ としての Slack が、これからのチームセリングの共通言語化に貢献し、営業組織を強くしていく。デジタル化の流れの中で、こうしたイノベーションをいち早く取り入れ、実践していける営業組織こそが、変化の激しい市場の中でビジネスの成長を支えていくと言えるでしょう。
本イベント後半では他にも、SmartHR 社 と Salesforce 社のチーム営業による成功事例の紹介、Slack と連携する Salesforce Sales Cloud で実現する営業プロセス変革、そして Slack 社のカスタマーサクセスチームとコクヨ社による顧客との新しい関係構築について具体的な話もお聞きしました。ぜひご覧ください。
イベントレポート後編はこちら。