株式会社電通デジタルは、電通グループにおけるデジタルマーケティングの中核企業です。エージェンシー機能だけでなくコンサルティングファームや Sler の機能も併せ持つことでデジタルマーケティング促進をワンストップで提供しています。そんな同社では 2018 年 5 月 に Slack 導入プロジェクトがスタート。わずか 10 週間で全社 1,400 名(2019 年 7 月時点)の社員が使うようになり、その後約 2 ヵ月で社内コミュニケーションの質とスピードの改善に成功しました。
そんな Slack 導入プロジェクトをリードしたのがコーポレート部門情報システム部企画グループマネージャーの橋本訓(さとし)さんです。そのスムーズな全社展開の背景には業務・IT 変革推進に 20 年以上従事してきた橋本さんならではの PDCA 設計と、デジタルマーケティング企業ならではの工夫がありました。
メールは作成工数とセキュリティが課題
Slack 導入前の同社では「コミュニケーション環境整備が不十分だった」という橋本さん。当時はメールが主なコミュニケーションツールでしたが、そもそも宛先に追加した人にしか情報が共有できないばかりか、誤った宛先を追加することで発生する情報セキュリティリスクがあり「事故を予防する環境にシフトする必要があった」と橋本さんは振り返ります。さらに、当時は Slack を含むさまざまなチャットツールが部門によって個別に使われていたため、組織横断でのコミュニケーションにも課題がありました。
橋本さんが実現したかったのは、メールを送る時の宛先・件名・あいさつ文入力や送信前確認にかかる工数削減のほか、誤配信・配信エラーを減らすことで、セキュリティを向上しコミュニケーションの質を上げること。そこで、他社がどのようにコミュニケーションしているか勉強したところ、当時ネット系企業を中心に Slack が活用されていることを知ったのです。こうして電通デジタルの Slack 導入プロジェクトがスタートしました。
「ハードルを下げる」工夫で一気に全社展開
プロジェクトで目指した姿は「全社員、毎日、Slack を使う」こと。そのために橋本さんはプロジェクトのフェーズを Understand、Design、Launch の 3 段階に分けて設定しました。
まず Understand は現状理解のフェーズです。「個人的にここに一番力を入れた」という橋本さんは、普段交流のなかった部門と密にコミュニケーションし、現場のニーズを把握していきました。
続く Design のフェーズでは、すでに先行導入していた事業部のメンバーにアドバイザーとして迎え、Slack の使い方設計やガイドライン策定から組織・プロジェクト別のユースケース検討まで行いました。
Launch フェーズでは、各部門から選出した 100 名の Slack チャンピオンに対してワークショップを実施し、ポジティブな変化を進めていくスーパーユーザーとなるよう育成。彼らは社内に Slack を広める役割であると同時に、ユーザー代表としてプロジェクトにアイデアやフィードバックを出す存在でもありました。例えば、チャンネル設計の際にはチャンピオンたちを集めてアイデアソンを実施。社内にどんなコミュニケーションが存在するかについて、さまざまな部門から集まった彼らと洗い出していくことで、共通する課題や気づきが得られ、現場のユーザーが本当に使いやすいように設計することができました。
また、社内ポスターやデジタルサイネージを活用し、「Slack 7.23 導入」が常に目に入るようにしたことで自然とメンバーが Slack 導入に注目するようになりました。さらに、使い始めのハードルを下げるため、ローンチ前にランチフォトコンテストを実施。Slack のモバイルアプリをインストールし、そこから写真をアップロード、コメントや絵文字でリアクションするという一連の流れを楽しんで出来る工夫をしたことで、ローンチまでに Slack に慣れてもらうことができました。
さらに導入後も別のパターンのポスターやデジタルサイネージを展開し、「メールをする時間が減った!」「会議の時間が削減できた!」などの具体的なメリットや実際のアンケート結果を訴求。同時に、メンバーに利便性を簡単に感じてもらえるよう Slack 上でトイレの空き状況を確認できるようにもしました。こうしたデジタルマーケのプロならではの施策のおかげで Slack は一気に社内に定着し、「全社員、毎日、Slack を使う」状態が実現したのです。
目的別のコミュニケーションと効率化が実現
現在電通デジタルのワークスペースは、社内専用のもの、社外の人が参加するもの 、そして電通グループの人が参加するものに分かれています。このように参加メンバー別にワークスぺースを分けたことにより、セキュリティを心配することなく情報共有が行えるようになりました。
各ワークスペース内では目的別にチャンネルを活用しています。例えば社内専用のワークスペース「 All 」にある「 Res:Q (レスキュー)」チャンネルは、質問を投稿すると部門を問わずさまざまな回答やアイデアが返信されるというもので、非常に盛り上がっているそうです。また、「 Knowledge4 (ナレッジフォー)」チャンネルは社内専用と電通グループのワークスペースにまたがるチャンネルでナレッジ共有に活用されています。
さらに、社内専用の業務外コミュニケーション用ワークスペース「 Social 」では、サークル活動などのコミュニケーションのほか、次年度入社予定の新卒学生と HR 部門の間で活発にコミュニケーションが行われています。「チャット形式のコミュニケーションに慣れた学生にとって、Slack 上でのライトなやり取りがエンゲージメント向上につながっているようだ」と橋本さんは話します。
また、アプリ連携も積極的に活用しています。例えば Google カレンダーと Slack を連携させることで、カレンダーの予定と Slack 上のステータス表示を自動同期。そうすることで、カレンダーを見に行かなくてもメンバーの状況をすぐに把握できるほか、自然とチームメンバーの業務を理解できるようになり、透明性アップにつながりました。
さらに、Slack と Zendesk を連携し、IT 関連のすべての問い合わせを Slack チャンネルで対応できるようにもしました。以前ならば、IT 関連の問い合わせ履歴はデータベースから手作業でデータを抽出していましたが、データが一元管理されてレポート機能がすべて自動化したことにより、問い合わせからクロージングまでの一連の対応を大幅に効率化することができました。
導入後約 8 割がスピードアップを実感
導入して 2 ヵ月後、すばやい効果検証のために橋本さんは Slack チャンピオン 100 名にアンケートを実施。すると、約 80% が「チームにおけるレスポンスが早くなった」、また約 70% が「チームカルチャー、コミュニケーションが改善された」と回答し、チームの連携スピードと質の両方が改善されたことがわかりました。
その効果実感は Slack チャンピオンだけに留まりません。導入後 8 ヵ月経ったタイミングで全社アンケートを実施したところ、「反応スピードが向上した」「やり取りの心理的ハードルが低くなった」「情報が把握しやすく、探す手間が省けるようになった」「部門横断のコミュニケーションのスピードがアップした」などのポジティブな反応が得られました。
また、Slack 導入によって会議の役割も変化。会議を行う前に Slack で意見を出し合っておくことで、会議は「決定する場所」になりました。そして会議終了後は Slack にメモを投稿。このサイクルが定着したことで会議の質が上がり、意思決定スピードアップにもつながりました。
今後は Bot の導入で問い合わせ対応をさらにスピードアップさせるほか、勤怠管理などのワークフローもどんどん自動化していきたいと考えている橋本さん。今後さらなる「質の向上」と柔軟な働き方の実現に向けて、Slack で実現したいことは尽きません。