AI(人工知能)が私たちの暮らしに身近な存在となりつつある今、人間と AI の関わり方が今後どうなっていくのか、気になるという方が増えているようです。近い将来起こり得ると言われている「シンギュラリティ」も、AI とどう関わっていくべきかを考えるうえで重要な概念のひとつと言えます。
今回は、シンギュラリティの定義や現実化するとされている時期のほか、シンギュラリティの到来が世の中にもたらす影響について解説します。関わりの深い概念とされる、「プレ・シンギュラリティ」についても見ていきましょう。
シンギュラリティとは技術的特異点のこと
シンギュラリティの日本語訳は「技術的特異点」。AI が進化していく過程で、いずれ人間の知性を超える転換点が到来するのではないかと言われています。この転換点のことをシンギュラリティと呼んでいるのです。
シンギュラリティは現時点ではあくまで仮説であり、確実に訪れることがわかっているわけではありません。しかしながら、近年めざましい進歩を遂げている AI の開発状況を踏まえると、今後起こり得る現象として十分に現実味のある予測とも言われています。
シンギュラリティの定義
シンギュラリティの定義は研究者によってやや異なる面はあるものの、決して少なくない研究者が挙げている定義があります。それは、「AI 自身が AI を開発するようになる」というものです。
現在、さまざまなシーンで実用化が進んでいる AI の大半は、「特化型 AI(弱い AI)」と呼ばれるタイプです。ChatGPT がテキストベースの対話に特化した AI であるように、特化型 AI は特定の用途にのみ対応しています。
自律的に思考・判断を行い、みずからの意思で学習していくのは「汎用型 AI(強い AI)」と呼ばれるタイプの AI です。汎用型 AI が進化を重ねるにつれて、 AI がみずからプログラムを作り、人間が介在することなく AI の開発を進めるようになると言われています。シンギュラリティをもたらすのは、主に汎用型 AI と考えられているのです。
シンギュラリティはいつ起こるのか?
シンギュラリティが具体的にいつ起こるのかについては、研究者によって見解が分かれているというのが実情です。
シンギュラリティが到来する時期として最も知られているのは、2045 年です。レイ・カーツワイル氏をはじめとする多くの研究者が、コンピューターテクノロジーの進化の過程から、2045 年に技術的特異点を迎えると論じています。
また近年ではより早い時期にシンギュラリティが到来すると唱える有識者も少なくありません。スチュアート・アームストロング氏は 2040 年説を提唱しています。
さらに早い 2030 年頃に、シンギュラリティが到来すると考える有識者も存在します。神戸大学名誉教授の松田卓也氏は、シンギュラリティが 2030 年頃には訪れると予想する代表的な人物です。
このように、シンギュラリティが到来する具体的な時期に関しては、有識者の間でも数年後から 2045 年など幅広い説が提唱されています。
シンギュラリティが起こると考えられている 2 つの理由
シンギュラリティが到来する時期を予測している有識者らは、なぜシンギュラリティが起こることを前提に論じているのでしょうか。ここには主に 2 つの理由があります。
ひとつは「ムーアの法則」と呼ばれる経験則です。コンピューターの頭脳に相当する集積回路は、これまで 2 年弱の周期で進化し、そのたびに性能が倍増してきました。同等のペースで進化が続いた場合、2045 年頃までには人間の知性を超える処理能力を持った集積回路が誕生してもおかしくないとされているのです。
もうひとつの理由として、「収穫加速の法則」が挙げられます。「テクノロジーは指数関数的に発展する」ことをあらわす法則で、前述のレイ・カーツワイル氏によって提唱されました。現状のテクノロジーがこのまま指数関数的な進化を遂げるとすれば、シンギュラリティは高い確率で起こり得ると考えられているのです。
シンギュラリティが起こらないという人もいる
一方で、シンギュラリティは今後も到来しないと論じる有識者もいます。スタンフォード大学のジェリー・カプラン教授は、ロボットには独立した目標や欲求がないとし、 AI と人間を同一視することに対して否定的な見解を示しました。カプラン教授は AI 研究の世界的権威であることから、シンギュラリティに関する議論に与えた影響は決して小さなものではありません。
現状、AI が自我や意識を持ち得ることは、科学的に証明されていないのが実情です。そもそも私たちの意識がどのような仕組みで存在しているのかさえ、明確な結論には到達していません。シンギュラリティが実際に到来するかどうかは、専門家の間でも意見が分かれているのです。
シンギュラリティが来るとどうなるのか?
将来的にシンギュラリティが現実のものとなった場合、世の中や私たちの暮らしはどのような影響を受けるのでしょうか。予想される主な影響について解説します。
雇用が減る
シンギュラリティによる影響として懸念されていることのひとつに、雇用の減少が挙げられます。従来は人が担ってきた作業が AI に置き換えられ、無人化や省力化が進むと考えられているのです。
現在でもスーパーマーケットやコンビニエンスストアのレジは、一部が無人化されているのを見かけることがあります。 AI がレジ担当者の役割を果たすようになれば、会計を人の手で行う必要はなくなるでしょう。実用化に向けて実験が進められている自動車の自動運転も同様です。AI が危険を予測し、法令に則って自動車を操縦できるようになれば、運転手という仕事はなくなる可能性があります。
過去にオックスフォード大学の研究チームの調査で、2034 年頃には現在ある仕事のうち約 47 % が消滅するという見解も示されています。AI が人の仕事を奪うという表現を耳にすることがありますが、シンギュラリティが現実のものになれば十分に起こり得る事態と言えるでしょう。
社会制度への影響
AI が業務の生産性を向上させ、企業は最小限の人員で利益を上げられるようになれば、人が担うべき仕事は現在よりも格段に少なくなります。国民が生活できる最小限の所得を政府が支給する「ベーシックインカム」が導入され、経済格差の解決や多様なライフスタイルの実現につながるとも言われているのです。多くの人は生活費を稼ぐための労働から解放され、より自由な人生を送れるようになるとも考えられます。
ただし、ベーシックインカムを実現するには、財源など解決すべき課題も多く残されています。労働によって対価を得て生計を立てるという、長く続いてきた価値観が崩れることに戸惑いを感じる人もいるでしょう。
健康に関わる影響
シンギュラリティの到来は、医療にも大きな進歩をもたらす可能性があります。脳をコンピューターチップなどの人工物に置き換えることができるようになったり、神経インターフェースを活用した新たな義肢の開発が進んだりすることも想定されているのです。
身体機能の置き換えや身体拡張が可能になれば、私たちの健康との向き合い方も大きく変わっていくでしょう。従来は治療が困難とされていた病気を克服できるようになれば、健康寿命を延ばすことも可能になるかもしれません。
シンギュラリティの前に起こるプレ・シンギュラリティ
シンギュラリティに先立って起こる、社会や人間の在り方にもたらされる変化のことを、プレ・シンギュラリティ(前特異点)と言い、2030 年頃には到来すると唱える研究者もいます。
プレ・シンギュラリティによる主な変化として、次のようなものが挙げられます。
さらに、人間の在り方にも大きな変化がもたらされると言われています。分子レベルの微細なナノロボットが開発され、人間の記憶や思考、健康維持を支援するようになることで不老が実現するとも考えられているからです。また、人間が社会インフラを支える必要がなくなり、現存する労働の多くが不要になれば、不労を実現できる可能性もあるでしょう。
このように、シンギュラリティは決して遠い未来の出来事ではなく、わずか数年後にはその予兆とも言える変化が訪れる可能性があります。シンギュラリティの到来は、すでに秒読みの段階に入っているのかもしれません。
今こそ AI との向き合い方を真剣に考えるべきタイミング
シンギュラリティ(技術的特異点)とは、AI が人間の知性を超える転換点を指す概念です。具体的にいつ到来するかは有識者の間でもさまざまな見解があるものの、将来的に AI が私たちの暮らしを大きく変えていく可能性を秘めていることは理解しておく必要があります。
AI が人間の知性を上回る能力を持つようになった時、人間だからこそできることは何なのか、AI との向き合い方が私たち一人ひとりに問われているのではないでしょうか。
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