1886 年に農機具などを扱う商店として創業した株式会社カクイチ。風雨に強い鉄骨ガレージやホースなどの農業用資材から、太陽光発電やアクアソリューションなどの環境事業まで多角的に手がける企業です。
代表取締役社長兼 CEO の田中離有さんは、同社を「老舗ベンチャー」と位置づけています。130 年以上もの歴史を受け継ぐ組織の原動力になるのはベンチャーのマインドセット。世のニーズに事業機会を見出し、新たな分野へと積極的に挑戦し続けてきたからこそ、明治から令和までの時代をくぐり抜けることができたのです。
一方、昔ながらのやり方を引き継いでしまうのが老舗企業。顧客とのやり取りは主に電話や FAXで、受注書は紙ベース。数年前まで営業メンバーはパソコンを持たず、Wi-Fi 環境すら整備されていなかったそうです。そうした IT 化の遅れは社内のコミュニケーションにも表れており、当時は社員同士で情報を共有化する意識自体もなかったそうです。
田中さんが目指したのは、「自分たちで考えて機動的に行動できる組織」。「従業員が上からの命令で動くような組織は今の時代に合わない」という危機感があり、その解決のためにはまずコミュニケーション方法を変えることが大事だと考えていました。
そうして社長決断で Slack 導入に踏み切ったカクイチ。その結果、コミュニケーションだけでなく、組織までもが大きく変革したのです。
「古い体質の会社がどうやって変わるかということが、我々のチャレンジです。古い会社だってイノベーションを起こして、夢に向かって仕事をする。これがいいと思いますね。」
組織全体で情報共有が進み意思決定が加速
もともとカクイチでのコミュニケーション方法は、メールや電話、FAX、そして口頭など「1 対 1」の閉じたものばかり。 それではその場に居合わせた当事者同士しか会話に参加できません。また、田中さんが社員に対して話をする時も「喋る側 vs 聞く側」という一方通行の対話になってしまっていました。
こうした情報共有不足は意思決定にも影響していました。情報がないことで「判断をしない」という判断が生まれ、意思決定のスピードが落ちていたのです。
Slack の導入で、このような状況はガラリと変わりました。まず、「1 対 1」だったコミュニケーションが「1 対ほか」に。Slack ではコミュニケーションのログが確実に残るため、誰もがやり取りを見て、いつでもどこからでも会話に途中参加できるようになったのです。また、「Unipos」というピアボーナスを送れるアプリを Slack と連携させることで、感謝の意をポイントと一緒に送り合い、そのやり取りを誰でも見られるようにしました。
「会話を見て、コメントしたり、リアクションを起こしたり。離れた場所にいても、一緒に会話しているような雰囲気に変わってきたと思いますね」という田中さん。前から理想としていた、言わば家族の会話のようなコミュニケーションネットワークが Slack によって出来上がったのです。
また、これまでは一部の社員しかアクセスできなかった情報がオープンになると、全国各地の現場から役立つ情報が次々にシェアされるようになりました。田中さんは「Slack により社員は情報を受け取るだけでなく、自ら面白くてためになる情報を発信するようになった」と社員のマインドが変わってきたことを評価。現場から情報が集まりやすくなったことで、意思決定スピードは 4 倍にまで大きく加速しました。
さらに、「#info-社長のつぶやき」というチャンネルもスタート。もともと田中さんが何気ないことを発信するだけのつもりだったこのチャンネルですが、メッセージ性の高いものを投稿することで、社員の 7 割ぐらいから返信やフィードバックが寄せられるようになったといいます。ほかにも「リアク字チャンネラー」という Slack の機能を使った「社長」スタンプを活用。これは社長専用のスタンプを押すことで社員に注目してほしい投稿を 1 つのチャンネルに自動転送して確認できるようにしたものです。こうして一方通行ではなく多方向のコミュニケーションが実現したことで、「Slack は非常に強力なツールであるという認識を持った」と田中さんは話します。
「Slack を導入してまだ 1 年ですが、この情報ツールがいかに組織を変革し、我々のマインドを変えるかをすごく体験しました」
拠点をまたいだ事例共有により顧客対応速度がアップ
社長の決断で始まった Slack 導入プロジェクトチームに、入社後わずか半年で参加したのが経営統轄本部 IT グループの柳瀬楓さん。当時の社内を「Wi-Fi の環境すら整っておらず、電話と FAX が飛び交っていました。ここはいったい何時代なんだろうと思ったことをよく覚えている」と振り返ります。
もともと社内で PC や SNS を使いこなせるスタッフは少数派。そんななかでの Slack の導入は前途多難と思えるようなタスクでしたが、柳瀬さんは他のツールとの比較と検証を進めるうちに「Slack はどの端末でも使いやすい」ことに気づいたそうです。
そこでまず比較的 IT リテラシーの高い社員がいる 5 営業所から導入を開始。それぞれの拠点で IT アンバサダーを 2 名ずつ任命し、Slack で使っている英語由来のカタカナ言葉をすべて日本語に直してマニュアルを作り、Zoom を使って活用方法をじっくりレクチャーしました。さらに、プライベートチャンネルを簡単に作れないようすることで、パブリックチャンネルでのコミュニケーションを推進していきました。
そうして全国の拠点にいる社員が Slack 上でオープンにコミュニケーションし始めると、顧客が抱える問題を解決するスピードが飛躍的にアップ。例えばある社員が「お客さんのところでこんなことが起こってしまった、どうすればいい?」と投稿したところ、100 拠点に分散する同事業の営業メンバーが反応。「自分はこうした」「この場合はこうしたらいいよ」といった知恵が一気に集中したことがありました。
「情報共有のスピードが上がっただけでなく、各事業所で実際に何が行われているのか、何に困っているのか、どういうアイデアが生まれているのかを、見ようと思えば見える環境ができました。良いものはまねされて、それが社内でどんどん広がっています。これは今までの弊社ではありえなかったこと」と、柳瀬さんは Slack の効果を実感しています。
もともと「やるとなったら一挙にやる」というのがカクイチの社風。「とにかく使ってみる。使いづらいものは淘汰されるし、本物だったら絶対残る」という考え方です。そういう意味で Slack は「本物」だったと言えるでしょう。
「全国の知恵が 1 カ所に集約するようなことは、電話やメールだと絶対にありえないこと。そこが Slack の一番大きな利点ではないかと思います」
Slack 導入で企業文化・組織構造が大きく変革
「お互いのためになる情報を考えて発信し、良いものを評価しあう」という文化は、Slack の導入からわずか 1 年で会社全体に広まりました。今や同社における Slack の WAU(週間アクティブユーザー)は 94% 。
また、上層部だけでなく「全員が情報を持つようになったことから、中間管理職がいらない組織ができた」と田中さん。とはいえ、そのようにして従来の組織が壊れてしまうと、権限と責任が曖昧になりがちです。そうならないよう同社ではミッション型の「タスクチーム」をつくり、評価する仕組みを導入。またそれをオープンにすることで社員も会社の変革を実感できるのだといいます。
Slack がもたらす変革を体験したカクイチは、今 Slack を農業改善事業にも活用し始めています。 現在進行中のそうした試みの 1 つとして、カクイチの機材を使用している農家がフィードバックを得たり、ベストプラクティスを共有したりできるコミュニティ作りに取り組んでいます。 Slack チャンネルを使って農家が互いに情報交換できるのです。 「当社が社内を活性化し、変革できたように、Slack で農家の皆さん同士をつなげたい」と話す田中氏は、Slack でよい情報も悪い情報も共有することが農家にとって大きなメリットになる、と考えています。
さらに田中さんは、Slack が今の日本の社会を変える可能性もあると言います。「日本ではリスクコントロール型、つまり『やらないことがあたりまえ』になっている。でももっと『やってみよう』という世界がいい。 そのためには情報を持たないと。体験をシェアしてフィードバックし合っていけば、組織はどんどんよくなる。社会が明るくなると思いますね、Slack で」。