50 年以上にわたり親しまれてきたヒット商品「おにぎりせんべい」を製造する株式会社マスヤ。1965 年に米菓メーカーのマスヤ食品株式会社として設立され、現在では菓⼦(⽶菓)の製造・販売をはじめ、幅広い事業を展開する10 社からなるマスヤグループに成長しました。
そんな同社で「長い間、無自覚に管理統制型のヒエラルキーに基づいた経営を行ってきた」と語るのは、株式会社マスヤグループ本社 代表取締役社⻑の浜⽥吉司さんです。2008 年には経営理念をはじめとする基本的価値観の共有に基づいた体制へと舵を切り、以来 10 年あまり取り組んできたものの、事業の数が増えグループ経営が本格化してきたことで、徐々に限界を感じるようになっていたといいます。
管理統制型では、経営層がすべての裁量(グリップ)をしっかり握ろうとするため、経営層の指示やコミットがないと誰も提案や判断ができない組織になりかねません。そこでマスヤグループが目指したのは、自律分権型の組織です。
「自律分権型組織へ進化するには社長の裁量を減らす必要がありますが、ただ単純にそれをすれば組織は倒れてしまうかもしれません」と浜田さんは話します。メンバーと経営層が現場の事実をきちんと共有して組織の自律性を解放させることで、メンバーそれぞれが自分で考えて行動する自律分権型組織に進化することができると考えています。
実は、以前ティール組織(自律分権型組織)の事実上の創始者とも言えるリカルド・セムラー氏の講演会に参加していた浜田さん。そこでセムラ―氏の口から 出た Slack という言葉がキーワードのように頭に残っていたことから、2019 年 3 月に Slack の導入を決めたのです。
「『Slack のようなツールがあるからこそ、⾃律分権型の組織はうまく回る』というセムラーさんの言葉が印象に残りました」
オープンなコミュニケーションで心理的安全性を向上
マスヤグループではかつて、Slack とは別のコミュニケーションツールを使っていましたが、実はあまりうまく機能していませんでした。そのツールでは何人がメッセージを閲覧したのかが見えてしまうため、既読数が伸びないと不信感が生まれる原因になっていたのです。さらにタスクを送ることもできたため、それを終業間近に受け取ったメンバーが帰りづらくなり、ツールを見るのが怖いと思ってしまうケースもありました。つまり、メンバーが経営層から「監視されている」と感じてしまう、いわば心理的安全性の低い状態になっていたのです。
本当の自律分権型組織を実現するためには、心理的安全性を高める必要があると気づいた浜田さん。そこで以前から頭のなかにキーワードのように残っていた Slack を導入することにしました。浜田さんが Slack に対して感じていたメリットの 1 つに、設計思想があります。Slack は既読やタスク管理といった概念がないため、メンバーの心理的安全性を下げることなく、コミュニケーションを行うことができるのではないかと考えたそうです。
導入後は、機密性の高い情報のみプライベートチャンネルを使い、それ以外はすべてオープンなパブリックチャンネルを使うという運用ルールを徹底。そうした前提のもと、自由にパブリックチャンネルを作成できるようにしたことで、各部署が業務に関する連絡や報告に Slack を使うようになっていきました。また、従業員の Slack スキルも向上していくなかで、特に任命することなく各部署にアンバサダー的な役割を担う人が出てきたといいます。
こうした流れによって「叱られるから言い方に気をつけよう」「ネガティブな情報は言わずに済ませたい」といった心理的安全性の低い職場に見られるような行動パターンが払拭され、プロジェクトなどではメンバーそれぞれが Slack を通じて積極的にコミュニケーションを取るようになりました。このように自分で考えて情報を発信し、行動に移せる自律分権型組織のマインドセットが浸透してきたのです。
「Slack を導入したことで、『ネガティブな情報は言わずに済ませたい』などといった行動パターンが払拭され、自律分権型組織のマインドセットが浸透してきました」
現場の事実の「チョイ見」で報告・会議のムダを削減
以前のマスヤグループでは、定期的な報告の場で事実を事実として正しく知ることが難しかったと浜田さんは話します。「現場からの報告では、事実だけでなくどうしても報告者の解釈が加わってしまいます。また、報告会そのものが儀式のようになり、準備にも多くの時間が費やされていたこともあって、報告のやり方に限界を感じていました」。
そこで同社では、儀式化しがちな「報告」の場を削減し、Slack のパブリックチャンネルでのやり取りに置き換えました。こうすることで、報告の場をわざわざ設けずとも、どんな立場や職種の人でもさまざまな情報をリアルタイムで「チョイ見」できる絶妙な「距離感」を実現したのです。
たとえば、営業活動チャンネルは、営業メンバーから日々の顧客とのやり取りや結果がこまめに投稿されており、浜田さんはこのチャンネルから営業現場の状況をほぼリアルタイムで確認できているそうです。
また 24 時間稼働している工場でも Slack を活用。メンバーが深夜に製造日報を投稿することで、浜田さんは翌朝すぐにスマホからその状況を把握できるようになったといいます。「日常の数分単位のスキマ時間でも情報チェックができるようになりました。出社後製造責任者の報告を待たなくても、昨夜のロス率などを知っている状況で話を始められるようになったのです」。
Slack ならチャンネル上の文脈のなかでやり取りができることもポイントです。相手と背景を十分共有している場合と、全然共有できていない場合では、同じ指示や提案でも受け止め方はまったく変わるからです。「一緒に働く者同士、背景の共有はとても大事。そのためには、事実をなるべくこまめに知っておきたいと思っています」と、浜田さんは話します。
「Slack をうまく使えば、社長が見ていることを意識させずに事実を的確に把握することができます。また誰でも必要に応じて会社の状況を確認できるようになり、それぞれが自分で考えて行動できる環境に近づきました」
メンバー間で褒め合うポジティブな文化にシフト
Slack の使い方がメンバーに浸透することで、社内の文化にも変化が生まれました。それに大きく貢献しているのが絵文字リアクションです。「OK」「ありがとうございます」といったリアクションで気軽にコミュニケーションできるようになったほか、最近では「いいぞ」「素敵です」「期待大」といった賞賛・応援につながる絵文字の利用も増加。組織のメンバー間で「褒める」「盛り上げる」というポジティブな文化が出来上がってきているそうです。
これまでの組織変革を振り返り、幅広い層のメンバーが情報をオープンにすることの重要性を実感する浜田さん。「これまでなら経営層だけが知っていたような『会社の経営の現状はどうなのか』といった情報をなるべくオープンに共有し、経営リテラシーを持ったメンバーをどんどん増やしていきたい。Slack は当社が管理統制型から自律分権型へとパラダイムシフトを進めるうえで、欠かせない役割を担っています」。
マスヤグループにおける 自律分権型への組織変革はまだ道半ば。今後は Slack コネクトを活用してグループ各社間や社外とのやり取りにおいても情報をどんどんオープンにしていきたいそうです。