200 名の従業員を擁し、3 つの大陸にまたがって事業を展開するグローバルテクノロジーコンサルティング企業の Plative では、100 件以上のプロジェクトが同時進行しています。リモートファーストの働き方をしている同社にとって、Slack は会話、ツール、チームをタイムゾーンを超えてシームレスにつなげるコラボレーションハブになっています。ただ、そのスムーズな連携の裏側で、重要な業務フローがうまく機能しない事態が生じていました。
営業担当者は、クライアントへの訪問準備のためだけに、何時間もかけて複数の外部ツールからデータを収集していました。また、有望な見込み客を見つけるには顧客の課題を掘り下げる必要がありますが、それも手作業で行っていたため時間がかかっていました。デリバリーチームは議事録からユーザーのストーリーを導き出すのに苦労し、採用担当者はいかに履歴書を分析して、候補者をすばやく選抜するかが課題でした。
このような課題に対処するため、チームは社内向けの AI アシスタント「Plaito」を開発しました。これは大きな一歩でした。ただ、これまで使い慣れたツールに比べると、直感的でなく、スムーズさも不十分で、技術に詳しくないメンバーにはほとんど利用されませんでした。そのため同社は、強力、安全で、既存の業務フローにシームレスに組み込めるツールを求めていたのです。
「リモートファーストの働き方をしている当社にとって、すべてをつなぐ結合部になっているのが Slack です」と話すのは、SVP 兼 Head of Professional Services の Miftah Khan 氏です。「Salesforce、Jira、Zoom、GitHub など、どのツールを使っている時も、つねに Slack のウィンドウが開いています。AI もその流れの中で導入したいと考えたのは自然なことでした」
「Slack と Agentforce を選んだのは、そのプラットフォームが持つ力に魅力を感じたからです。Slack 上でエージェントが機能し、学習します。Slack と Agentforce の組み合わせにより、普段使っているその場所から直接、エージェントの UI に安全にアクセスでき、ネイティブの CRM インテグレーションも活用できます。Slack のワークフローを追加して、数日で新しいエージェントを導入することも可能です」
Slack の Agentforce でアップセルが 50% 増加
Plative は、ほかの独立したツールではなく、Slack や既存のシステムと完全に連携し、顧客データについて規制に対応した十分なセキュリティを確保できる AI を必要としていました。そこで同社は、Salesforce のネイティブ AI エージェントプラットフォームであり、Slack と緊密に連携する Agentforce に目を向けました。
そこから 1 か月も経たないうちに、同社は Agentforce の利用を開始。エージェントビルダーを使って、核となる 3 つの Slack ネイティブのエージェントを構築しました。
- Account Research Agent : 組織図から類似顧客まで、詳細なインサイトを Slack スレッドに提供してくれるエージェント。
- Call Prep Agent : カレンダーや LinkedIn、Clearbit、Apollo などのデータプロバイダーと連携して、ミーティング前に営業担当者へ情報をシームレスに提供してくれるエージェント(ちなみに、このエージェントは、Agentforce Hackathon で Kahn 氏がご子息と一緒に開発し、グランプリを受賞したものです)。
- Summary Agent : タブを切り替えることなく、取引先、商談、ケースの包括的な概要をまとめてくれるエージェント。
このようなエージェントにより、チームメンバーはツールやシステムを切り替えたり、データを探し回ったりすることなく、Slack 上で直接、必要な情報が得られるようになりました。準備が効率化し、インサイトをすばやく取得できるようになったことで、アップセル予約が 50% 増加し、営業訪問の準備時間も半減しました。
その効果はスピードだけでなく、組織の規模にも表れています。Slack に Agentforce を組み込むことで、Plative はコンサルタント 5 人につき 1 人のフルタイム従業員を別途雇用する必要がなくなりました。このように、サービスの質やクライアントの成果を犠牲にすることなく、時間の節約と従業員数の最適化を実現しています。
「Slack はすでに仕事の現場になっています」と語るのは、CRO の Greg DelGenio 氏です。「Slack にエージェントを組み込むことで、Salesforce や NetSuite、カレンダーといったツールを切り替える必要なく、その場でエージェントから必要な情報が得られます。緊密な連携のおかげで、エージェントが本物のチームメイトのように感じられますね」

「Agentforce のエージェントは“タコ”のようです。安全な触手で Salesforce、Jira、Google ドライブなど当社のすべてのシステムとつながり、OpenAI、Anthropic、Google、Perplexity などの優れた LLM にも手を伸ばせますから」
エンタープライズグレードの安全性からユーザーレベルの制御まで、つねに信頼性を確保
Plative にとって、なにより譲れないのが信頼性です。同社とクライアントは、ユーザーの役割を尊重し、機密データを保護し、安全に拡張できるシステムを必要としていました。Agentforce と Slack を選んだのは、AI 機能だけでなく、そのプラットフォームが持つ力も理由でした。
Agentforce には、モデルに送られる前に機密データをマスキングする Einstein Trust Layer など、エンタープライズグレードの機能があらかじめ備わっています。それに加えて、同社にとって導入の決め手となったのは、権限設定機能が組み込まれていることでした。「どのエージェントも、それを使うユーザーが閲覧を許可された情報にのみアクセスできます」と Khan 氏。「それが Slack の Agentforce を採用した大きな理由です」
Khan 氏は、これを料理を教えることに例えます。「最初に構築したエージェント Plaito 1.0 には、レシピ本を渡す必要がありました。正確な手順をエージェントに指示しなければならなかったのです」と Khan 氏。「それが Agentforce では、『冷蔵庫と食料庫はここです。さあ、何かおいしいものを作って』と言うだけです。レシピを渡す必要はありません。エージェントは推論する方法もルールも知っています。触れてはいけない食材を手に取ることもありません」
エージェントが背景を認識していることは、きわめて重要です。Slack の Agentforce では、組み込みのアクセスコントロールにより、ユーザーに閲覧権限のないデータをエージェントに表示させないよう制御できます。
同社にとって、CRM データへのネイティブ接続と、Salesforce フローや APEX クラスと簡単に連携できる機能も重要でした。これにより、既存のワークフロー内で安全に動作し、コンプライアンスに対応する強力なエージェントを柔軟に構築できます。「規制の厳しい業界において、これは非常に重要なことです」と Khan 氏は述べます。

「担当者やプロジェクトマネージャーは、Slack のエージェントに取引先のプランや進捗レポートの作成を依頼できます。エージェントは Slack 上で安全にそれに応えてくれます」
従業員による、従業員のための AI
Plative は、セキュリティだけでなく、透明性と当事者意識においても、信頼を築いています。具体的には、専用の Slack チャンネル #plaito をハブとして、誰でも AI の機能を提案したり、それに投票したりできるようになっています。つまり、同社のエージェント機能はすべて、従業員からの要望にもとづき、従業員によって形作られているのです。
この貢献の文化は、人材採用や研修にも浸透しています。「入社初日からその文化を共有しています。当社の働き方に AI は欠かせません」と Khan 氏は言います。「AI に抵抗がない人を採用し、同僚を手本にしたトレーニングを行い、成功を祝います。これが当社の戦略がうまくいっている理由でしょう。つまり、従業員による、従業員のための AI なのです」
新しい従業員は AI をすぐに使いこなせるようになり、会社全体からアイデアが出てきます。これまで数か月かかっていた新しいワークフローの設計と導入も、数日で完了するようになりました。
この先、導入を予定している機能には、議事録からの Jira ストーリーの生成、推定された顧客課題にもとづいたアウトリーチのカスタマイズ、有望な見込み客の発見、人材部門向けの履歴書からのインサイト抽出、IT、人事、営業などが持つ社内ナレッジへの自然言語によるアクセスなどがあります。これらはすべて、チームから挙がったリアルなニーズがもとになっています。
「トップダウンではありません」と Khan 氏。「Slack の Agentforce なら、実際にそれを使う人が AI を構築して、その力を存分に活用できます」