営業活動を進めるうえで、顧客のニーズや課題を把握しておくことは重要なポイントといえます。そのため、営業フローのなかでも重要度が高いとされているのが「ヒアリング」です。
今回は、ヒアリングの基本的な流れや上手に進めるコツ、スキルを向上させるポイントについて解説します。ヒアリングに活用できるツールやフレームワークにも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
ヒアリングとは顧客情報を聞き出すこと
ヒアリングとは、営業フローにおいて顧客の悩みや課題、潜在ニーズを引き出すプロセスを指します。
まずは、営業フローのなかでヒアリングが果たす役割について整理しておきましょう。営業フローの基本的な流れは下記の通りです。
上記の通り、ヒアリングは営業フローのなかでも最初のプロセスに相当します。ここで顧客が抱えている課題を的確に見極められれば、顧客が求める企画の提案やプレゼンテーションができるでしょう。
反対に、ヒアリングが不十分だったり進め方が不適切だったりすると、顧客ニーズを見誤ってしまい、効果的な提案ができない確率が高まります。このように、ヒアリングは営業フローのなかでも顧客情報を引き出す重要なプロセスとして位置付けられているのです。
ヒアリングの流れ
続いては、具体的にヒアリングをどのように行っていけばいいのか、基本的な流れについて解説します。所属する業界や扱う商材が違っても、土台となるヒアリングの流れに大きな違いはありません。
1. アイスブレイクなどで顧客の緊張をほぐす
ヒアリングといっても、初対面の相手を質問攻めにするようでは本音を引き出すことはできません。まずは顧客の緊張をほぐし、リラックスできる雰囲気を作ることが大切です。
商談の冒頭では、しばしば「アイスブレイク」が活用されます。アイスブレイクとは、氷を解かすように緊張をほぐすための話題を提供することです。最初から本題に入るのではなく、業界の話題やオフィス周辺の地理的な話題、その日の天気といった話題を提供し、短い雑談を交わすことによって緊張をやわらげる効果が期待できます。
2. 顧客の課題を抽出・深掘りする
次に、顧客が現状抱えている課題を抽出していきます。課題を抽出するといっても「今後解決したいとお考えの課題は何ですか?」と直接的に尋ねてしまうと、相手はどう答えれば良いのか迷ってしまうかもしれません。顧客にとって確定していない未来の出来事はイメージしにくく、何をどう解決すればよいのかわからないケースが大半だからです。
そこで、まずはささいなことでも現状困っていることはないか、手近な例から話してもらうことが大切です。自社が提供可能な解決策と関連がある困り事が見つかったら、次にこれまでどのように対応してきたのかを深掘りしていきます。
そのうえで、どのような形になれば課題が解決されたといえるのか、未来の話をしていきます。このように、「現在→過去→未来」の順に話していくことで、顧客にとっての課題とその解決策が道筋として見えやすくなるでしょう。
3. 顧客の課題、悩みの解決に役立つ情報や商品を提示する
顧客が抱えている課題や悩みを解決するための手段のひとつとして、自社が提供可能な解決策を提示します。始めから商品ありきで説明するのではなく、あくまでも相手が求める解決策に合わせて提案するのがポイントです。
この段階では、「商品・サービスを購入・契約するかどうか」を決めてもらう必要はありません。興味を持ってもらえるかどうか、より詳細な説明を聞きたいと感じるかどうかを確認するだけで十分です。プレゼンテーションなど、具体的な商談のステップに進むかどうか、この時点での反応をもとに判断することになります。
4. 情報や商品についての感想、気になる点などを聞き出す
提示した情報や商品について、どう感じたかを率直に答えてもらいます。「より詳しい説明を聞きたい」といった好意的な反応が返ってくるのが理想ですが、提案を断られてしまうケースも少なくありません。その場合、気になる点や不安に感じた点を話してもらい、一つひとつ切り返しながら解消していく必要があります。
ただし、すべての不安をこの場で解決する必要はありません。気になる点が複数あるということは、次の商談機会につなげられるチャンスでもあるからです。より詳しい資料を持っていくなど、次の商談機会を取り付けることも視野に入れておくことが大切です。
5. 次の商談機会を取り付ける
初回の商談で購入・契約が決定するケースはまれで、多くの場合、次の商談機会を取り付けることになります。
そこで、より具体的な資料や他社の導入事例など、ほかにも見てもらいたい情報があると伝えたうえで、次回の商談日時を決めていきます。
上手なヒアリングのコツ
ヒアリングを効果的に進めるには、いくつかのコツがあります。限られた商談機会のなかで顧客のニーズや課題を的確に抽出し、掘り下げていくには下記のコツを押さえておくことが大切です。
事前準備
1 回の商談にかけられる時間は限られるため、商談前に収集可能な情報はできる限り集めておく必要があります。企業のウェブサイトなどで確認できる基本情報をはじめ、扱っている商品の概要や主力商品、近年の業績、競合他社の状況などを調査し、事前準備を進めておくことが重要です。
そのうえで、収集した情報をもとに顧客が抱えている課題やニーズに関する仮説を立て、商談の方向性を予測しておきます。商談当日に投げかける質問は、仮説を検証するためのものであることを念頭に置いて臨むようにしてください。
質問スキルの向上
状況に応じて的確な質問をするには、質問スキルを向上させることが重要です。特に下記の 2 点については、基本的な質問スキルとして押さえておく必要があります。
・ページング
会話の速度や声のトーンなど、相手のペースに合わせて話すことをページングといいます。物静かな人が騒がしい人と話すのを苦痛に感じることがあるように、自分とリズムや雰囲気が近い人と話すほうが話しやすいと感じるのが一般的です。相手のペースに合わせて話すことを心掛けることで、本音を引き出しやすくなるでしょう。
・オープンクエスチョン・クローズドクエスチョン
Yes か No で答えられない質問をオープンクエスチョン、答えられる質問をクローズドクエスチョンといいます。相手の考えや意見を聞きたい場合はオープンクエスチョン、確認事項などにはクローズドクエスチョンを用いるのが適しています。
両方をバランス良く駆使することで会話が深まり、ニーズや課題をより具体的に聞き取りやすくなるはずです。
質問より会話を意識する
ヒアリングを通じて課題やニーズを引き出すといっても、矢継ぎ早に質問ばかりされてしまうと相手は不快に感じてしまうかもしれません。一方的に質問するのではなく、会話の流れのなかで課題やニーズを引き出していくことを意識することが重要です。
例えば、日々の業務を進めるなかで、困っていることを相手が話してくれたとします。この時、「そうですか。では、次の質問ですが…」と会話が途切れてしまうと、話を聞いてもらえないという印象を与えてしまう可能性があります。
むしろ、「◯◯にお困りなのですね、具体的にはどういった場面でそのような問題が発生しているのでしょうか?」と掘り下げていくことで、より本質的なニーズを探ることが可能です。
事例を提示する
顧客が現在抱えている課題と似た事例があれば、他社事例として提示することもひとつの方法です。すでに事例があるということは、安心感を与えるだけでなく、提示される解決策に再現性があることを意味しているからです。
その際、具体的な数値など、客観的なデータを挙げると効果的でしょう。商談の相手は「自社でも同様の効果が得られるのではないか」と、無意識のうちにイメージするはずです。実際に商品やサービスを採用した場合の未来像を思い描いてもらうためにも、事例を提示するのは効果的な方法といえます。
ヒアリングスキルを向上させるポイント
ヒアリングは一見すると単純なプロセスのようですが、的確な質問をしたり、課題を効果的に掘り下げたりするには、一定以上のスキルが必要です。続いては、ヒアリングスキルを向上させるためのポイントを見ていきましょう。
ロールプレイング
ヒアリングスキルを高めるには、実践を通じて場数を踏むのが最善の方法です。しかし、商談の機会そのものが貴重であることから、模擬的にヒアリングの練習をしていく必要があります。上司や先輩社員に顧客役になってもらい、実際の商談を想定したヒアリングの練習を繰り返すことをおすすめします。
ロールプレイングを実施してみると、「質問の仕方がワンパターンになっている」「会話のテンポが良くない」といった自分自身の癖や不足しているポイントを指摘してもらうことも可能です。こうした課題を一つひとつ改善していくことで、ヒアリングスキルを高められるのです。
フィードバック
ロールプレイングや実際の商談を終えた後には、同席した上司や先輩社員からフィードバックをしてもらいましょう。客観的な視点から「あの場面ではもっと課題を掘り下げたほうが良かった」といったアドバイスを得ることで、改善すべき点が明確になります。商談やロールプレイングの数をこなすだけでなく、振り返りを行うことで着実に経験値を増やしていくことが大切です。
自身の課題を着実にクリアすることで、ヒアリングスキルが向上させることにつながります。前回のフィードバックで指摘を受けたことを次回の商談・ロールプレイングで活かすというサイクルを繰り返し、ヒアリングスキルを身に付けていくことができるのです。
ヒアリングシートの活用
顧客の課題やニーズを効果的に引き出せる流れをつかみ、繰り返すことによってヒアリングは着実に上達していきます。ヒアリングを抜け漏れなく行い、記録に残すために用いられるのが「ヒアリングシート」です。ここでは、ヒアリングシートに記載すべき項目について見ていきましょう。
現状と課題
顧客が現在どのような状況にあるか、何を課題と感じているかを引き出すことは、ヒアリングの本質的な目的といえます。ここに抜け漏れが発生すると、ヒアリングを実施した意味が薄れてしまうため、ヒアリングシートに必ず設けておきたい項目のひとつです。
現状感じている課題を漠然と聞き出すのではなく、現在使用しているツール名など、具体的な情報を記載する項目を設けるのがポイントです。
商材の印象・疑問点・不安点
商談の場で顧客から聞き取った商材の印象や疑問点・不安点には、重要なヒントが隠されているケースが少なくありません。特にネガティブな言葉のなかには、商材が採用に至るかどうかの明暗を分けるキーワードが潜んでいることもあり得ます。
顧客が感じている疑問点や不安点を解消するために提案した場合は、そのやりとりも含めて記録してください。次回以降の商談の際には、前回のやりとりを踏まえて進めることが大切です。
希望納期やスケジュール
顧客のなかには、現状使用しているツールの更新時期や決算期などの関係で、具体的な希望納期やスケジュールが決まっている場合があります。たとえ商材の購入や契約を前向きに検討してもらえたとしても、現実的に間に合わない納期であれば商談として成立しません。希望する納期がある場合は、その条件がマストなのかベターなのかも併せて確認するための項目を設けておくと、社内での調整もスムーズになります。
予算
顧客が想定している予算についても、聞き取るべき項目としてヒアリングシートに掲載しておく必要があります。実際の導入費用や料金プランと照らし合わせた場合に現実的な予算であるか、おすすめすべきプランの費用感とともにより明確になるはずです。予算が判明していれば、現実的な着地点を見据えてその後の商談を進めていくことができます。
意思決定の基準(キーパーソン)
顧客の意思決定の基準やキーパーソンの存在についても、聞き取るべき事項としてヒアリングシートに項目を設けておきましょう。決裁権を持つ人物が判明していれば、最終的に誰にアプローチすれば良いのかが明らかになるからです。
実際、決裁権を持たない担当者に対して熱心にプレゼンテーションを実施したものの、社内で協議した結果採用に至らなかったというケースはよく見られます。キーパーソンを見誤らないためにも、ヒアリング時に引き出しておきたい情報として、ヒアリングシートの項目に含めておくのがポイントです。
他社の検討状況
自社が提案した商品・サービスの競合商品について、顧客の検討状況を聞き取るための項目も設けておくと安心です。顧客がどのような商品・サービスと比較しているかがわかり、ニーズがより鮮明になるはずです。
また、比較検討している商品・サービスに対する優位性をアピールする際にも、重要な資料となります。具体的な商品名や企業名を記載する項目を設け、ヒアリング時に尋ねるべき事項として認識しておくことが大切です。
ヒアリングに活用できるフレームワーク
続いては、ヒアリングを実施する際、顧客が置かれている状況や課題・ニーズを引き出すために効果的なフレームワークを紹介します。商談において重要な情報を効果的に引き出すためにも、下記のフレームワークを押さえておきましょう。
3C 分析
3C 分析は、自社を取り巻く市場環境を明確にし、戦略を打ち出す際に活用できるフレームワークです。本来は自社向けに使用するものですが、訪問先企業の分析を行う際にも有効です。3Cとは次の 3 要素を指します。
訪問先企業の強みをより強化できる商材や、ターゲット層に対していっそう効果的にアプローチできる商材であれば、事業戦略上プラスになる可能性が高いと考えられます。 3C 分析を活用して、訪問先企業が置かれた状況を明確にしていきましょう。
SPIN 話法
SPIN 話法とは、一定の順序で質問を重ねていくことにより、潜在的なニーズに気づいてもらうための話法です。具体的には、次の手順で質問をしていきます。
相手を説得するのではなく、質問を重ねながら顧客自身に課題とその解決策に気づいてもらう点が大きな特徴です。顧客としても押し付けられている感覚になりにくいため、ニーズを引き出すには効果的な話法といえます。
BANT 情報
BANT 情報とは、提案に必要な情報をまとめたものです。具体的には、下記の 4 要素を表しています。
上記の情報を事前に明らかにしておくことで、成約を妨げる要因を事前に解消しやすくなります。また、受注に至るまでの戦略も立てやすくなるため、意識しておきたいフレームワークです。
MEDDIC モデル
MEDDIC モデルとは、訪問先企業の購買プロセスを把握するために必要な要素を表すフレームワークです。受注予測を高めることにより、アプローチを続けるべき相手かどうかを見極める際に活用できます。
ヒアリングスキルの向上を図り、営業フローの強化を実現しよう
ヒアリングは、顧客が抱えている課題やニーズを把握するうえで重要なプロセスといえます。的確なヒアリングが実施できるかどうかによって、商談の成否が大きく分かれるといっても過言ではありません。
今回ご紹介したポイントやフレームワークを参考に、ぜひヒアリングスキルの向上を図ってください。ヒアリングスキルが高まることによって、営業フロー全体の強化にもつながるはずです。
よくある質問
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