コロナ禍をきっかけに、多くの組織がこれまでと違う新しい働き方を模索しています。なかでも、メンバーがそれぞれ離れた場所から仮想空間に集まって仕事をする「リモートワーク」は、もはやニューノーマル時代の前提になっています。
しかし不慣れなリモートワークのなかで、「以前のようなスピード感で仕事が進まない」「メンバーが何を考えているのか見えずコミュニケーションが難しい」といった課題を感じている人も多いのではないでしょうか。
そこで Slack が 6 月に実施したオンラインカンファレンス「Workstyle Innovation Day」では、学校法人近畿大学経営戦略本部長の世耕石弘さんと、株式会社ユーザベース代表取締役 COO の稲垣裕介さんを迎え、組織がコロナ禍のなかスムーズにリモート体制に移行するために必要なことについてマネジメントの視点から話を伺いました。
「大学なのにキャンパスを開けられない」という戦後初の非常事態のなか、近畿大学ではどのようにサイバー入学式や遠隔授業を実現させたのか?コロナ以前から価値観を共有することでチームをまとめてきたユーザベースでは、その後の完全在宅体制でもつながりを維持するためにどんな工夫をしたのか? 実はその背景に Slack がありました。
近畿大学が非常時でも先進的な挑戦を続けられる理由
6 つのキャンパス、7 つの水産研究所などの日本中の拠点に、法人全体で 52,000 人の学生と 9,700 人の教職員を抱える近畿大学。その巨大な規模もさることながら、日本で初めてとなるインターネットでの出願受付や、日本の大学で最もキャッシュレス化の進んだ学生食堂など、常に先進的な取り組みで注目を集めています。2019 年には日本の大学として初めて全教職員に Slack を導入することを発表し、業務効率化と仕事の見える化を目指した働き方改革としてニュースにもなりました。
トップが遠隔授業を決断後、始動までわずか 22 分
コロナ禍で、近畿大学は「大学なのにキャンパスで授業ができない」という戦後初の非常事態に立ち向かうことに。そんななか、世耕さんは「Slack がスピーディな意思決定と実行の基盤になった」と話します。
それは暫定的な休校が続いていた 3 月末。学校法人全体のトップである理事長から 1 件の Slack 投稿がありました。
「大至急、遠隔授業体制を構築してください」。
これに「動きます」と反応があるまでわずか 22 分。
「このやりとりがあるまで、現場にはまだ『待てばキャンパスを開けられるのでは?』『オンライン授業なんてできるのか』というためらいがありました。しかし Slack というオープンな場で、理事長が指示したのを全担当者が見ていたのです」。まさにこの瞬間、理事長の意思が一気に浸透し、大学全体の方向性が遠隔授業へと定まったと世耕さんは振り返ります。
いち早く決断した「サイバー入学式」
遠隔授業決定と同時期、もう 1 つ大きな決断がありました。卒業式・入学式の中止です。近畿大学は大学のなかでもいち早く、Web 配信で行う「サイバー入学式」の実施を決定・発表しました。この時もほぼすべてのやりとりが Slack 上で行われ、意思決定から発表までがスピーディに実現します。
ほかの大学に先駆けて決定し発表したことで、「サイバー入学式」という先進的なアイデアは大きくメディアに取り上げられました。そしてその結果、近畿大学は「チャレンジ精神がある大学」というイメージをより強めることができたのです。
Slack を使って学生が主体的に生み出すコミュニティに期待
こうした先進的でチャレンジ精神にあふれた挑戦を続ける近畿大学は、2020 年 7 月に Slack の導入範囲を学生・教職員 36,000 人全員に拡大しました。
実は一部学科の学生を対象に Slack を先行導入した時点で、「アカウントさえ渡せば彼らの世界が広がる」と世耕さんは目をみはったといいます。細かい使い方を指示したわけではないのに、ゼミやクラブ活動などの「オフィシャル」は Slack、「プライベート」は LINE、と切り分けて使いこなしており、公私を分けたいという学生のニーズを学生自身が満たしていったのです。
「学生から教員へ質問がある時に大学院生が間に入って新たな輪が生まれたり、今までと違う方法で学生サークルの活動ができたり。今後、学生が主体的に新しいコミュニティを創造することで『チャレンジ精神のある近畿大学』をさらに体現できると思っています」と、世耕さんは今後のインパクトに期待しています。
ルールで縛らずともリモートワークが成り立つユーザベース
経済情報のインフラとして、『SPEEDA』や『NewsPicks』など B2B、B2C の領域でサービスを世界展開してきたユーザベース。2008 年に創業した同社では、エンジニア、営業、アナリスト、編集、クリエイターなどさまざまな職種のメンバーが世界中の拠点に所属し、業務内容も環境も非常に多様です。
「多様な才能が集まって『経済情報で、世界を変える』というミッションを実現するためには、多様性を尊重しないルールでメンバーを縛ることは不要」だと話す稲垣さん。「重要なのは、全員が同じ方向を目指して行動すること」と続けます。
同社では、メンバーに求める価値観を「The 7 Values」として明確に言語化しています。「メンバーがそれぞれ各自にとって最適な働き方をしていても、『The 7 Values』を共有できているという信頼があれば、同じ目標に向かって目線を揃えて仕事をすることができる」と稲垣さん。価値観を組織全体が共有できているからこそ、自由と責任のもとリモートワークも創業初期段階で成立していました。
拠点の違うメンバーとも Slack なら感情を共有できる
同社では Slack を導入するまで、チームごとに別々のツールを使い、新しいツールが出ると誰かが試すということをくり返していました。
ある時、一部のチームが使い始めた Slack を見て、稲垣さんは「感情の表現ができるのは大きい」と感じたといいます。この時期稲垣さんには「東京でオフィスに集まっているメンバーは顔を見て感情を共有できるのに、別の拠点のメンバーはそれができない。場所によって不利があるのはよくない」という課題意識がありました。
Slack には、投稿に対して絵文字ひとつで感情を表せる「絵文字リアクション」があります。実際に使ってみた稲垣さんは、「どの拠点にいるメンバーも同じように豊かに感情を共有できる」という良さを実感。こうして Slack は 2016 年から 全社に導入されました。
在宅体制のなか全メンバーがつながった「WFH バトンリレー」
ユーザベースではいち早く 2020 年 1 月から原則全員在宅体制に移行しました。これまで世界中の拠点でリモートワークが行われ、Slack を使ったコミュニケーションも定着していたために大きな違和感はなかったとはいえ、オフィス出社を制限したのは初めてのこと。コミュニケーションの工夫が必要だと感じた稲垣さんはすぐに動き始めます。
その 1 つが「WFH バトンリレー」です。これは、WFH(Work From Home=在宅勤務)というメンバー全員にとって共通する旬な話題をテーマに、日々の工夫や考えていることをリレー形式で投稿し合う取り組みです。
投稿にはたくさんのコメントや「絵文字リアクション」がついて盛り上がり、リモートワークの中でのコミュニケーションロスを防ぐだけでなく、事業をまたいだ新しいつながりまで生まれました。組織全体でコロナ以前よりも深くつながり、物理的には離れていても心理的な距離を縮めることができたのです。
全員在宅勤務でも Slack をインフラとしてしっかりコミュニケーションできたという成功体験は、「メンバーがパフォーマンスを最大化できる働き方をさらに自由に追求していける」と稲垣さんの確信を深めています。