数多くの研究で、ポジティブな職場文化は、そうでない場合と比べて生産性を高めることが明らかになっています。また、リモートワークには多くの利点(通勤がないなど)がある一方で、一部のリモートワーカーは帰属意識に対する満足度が低いようです。
結局のところ、どのような組織でも、同僚同士の社会的なつながりと絆が成功の土台なのです。仕事やチームメンバー、パートナー、そして組織とのつながりを感じる人は、毎日就業時間に姿を見せているだけではありません。チャンスを心待ちにし、逆境での回復力を備え、目標を速やかに達成しているのです。最近では Glassdoor のようなサイトを使って、興味のある企業の文化を簡単に把握できるようになりました。こうしたサイトでは、あらゆる階層や部門の従業員が職場文化を評価できます。
従業員満足度を優先する重要性が今ほど高まったことはありません。この傾向は、特に分散型チームで見られます。この記事では、従業員に仕事を楽しんでもらうための 5 つの戦略を、実際に従業員の士気が高い企業の事例から紹介します。
1. 従業員のワークライフバランスを促進する
リモートでの従業員体験レポートの結果によると、世界中のナレッジワーカーは、オフィスで働くよりもリモートワークの方がよいと感じています。その一方で、リモートワーカー(39%)はオフィスワーカー(31%)に比べて、毎日の労働時間が長いと回答しています。
マットレスのレビューサイト、Slumber Yard の共同創業者兼 COO である Matthew Ross 氏は、自身も共同創業者も以前は投資銀行で夜遅くまで働くのが当たり前の世界にいたと話します。「しかし今の会社では、深夜まで働くと従業員が燃え尽きてしまい、結果的に自社に対してよくない感情を抱くのではないかと懸念しました」。 Ross 氏は実際にある従業員がおそらく燃え尽き症候群と思われる理由で退職した時に「変革しなければ、ほかの従業員も辞めてしまうだろうとわかったのです」と振り返ります。
IT 監査が行われたあと、Ross 氏と共同創業者は、従業員が遅くまで残業していることに気づきました。そこで、午後 7 時から午前 5 時の間は仕事に関するメールを送信しないという新しい規則を作ったのです。
「オフタイムにメールのやり取りが見られる場合は、翌日に送信者と話し合って、規則への注意喚起を行います」と Ross 氏は言います。しかし、そのようなケースは稀で、たいていの場合、話し合いはポジティブなものになるともつけ加えました。「仕事への責任感や高い労働意欲はありがたいが、終業時間が過ぎたら自由に楽しんでほしいということを伝えています」。
Ross 氏は、従業員の勤勉な姿勢には感謝するものの、離職率の高さはコストにつながると指摘します。「新規採用者を教育するには、時間も費用もリソースもかかります」と Ross 氏は言います。「だからこそ、既存の従業員には職場から帰ったら、家族と時間を過ごしたり、仕事以外の活動に参加したりして英気を養ってほしいのです」。
規則の設定以来、Ross 氏は従業員が午前中に精力的で明るいことに気づきました。この事実から Ross 氏は、従業員の士気向上が長期的に生産性も高めると考えています。
2. 信頼構築に投資する
働き方の未来に関する Slack の調査によると、働く人の 80% が組織内の意思決定方法を知りたいと答え、87% が透明性の高い企業に今後就職したいと答えています。
リーダーへの信頼がなければ、従業員の士気は一定のレベルにしか達しません。誰もが職場で安心して自分を表現できると感じられなければ、チームのコミュニケーションやメンバーの貢献は進まないでしょう。
信頼を会社の価値観として取り入れているのは、従業員エクスペリエンス・分析プラットフォームで業界を牽引する Culture Amp です。同社では「仲間を信頼して意思決定を行う」「互いを高め合う」「自分をさらけ出す勇気を持つ」「フィードバックを通して素早く学習する」などの価値観を掲げています。 Culture Amp には #yay-we-failed
(失敗から学ぶ)と呼ばれる Slack チャンネルがあり、従業員(親しみを込めて「キャンパー」と呼ばれます)は失敗とその教訓についてオープンに話し合います。
また、#ceo
チャンネルでは、創業者兼 CEO の Didier Elzinga 氏が、「Ask Me Anything(何でも聞こう)」アンケートで寄せられた質問に答えています。
コロナ禍が始まると、Elzinga 氏はキャンパーたちとのやり取りに #ceo
チャンネルを活用し、平日は毎日 2 分間のビデオを投稿して、自らの視点や今の状況、Culture Amp の対応、計画に対する進捗などを伝えました。 こうした従業員を安心させる行動はシンプルですが、この困難な時期につながりを保つのにとても効果的でした。この取り組みが奏功したことで、バーチャルワークを続けるなかでも透明性が高まりました。
3. 「いつでも相談に来てください」の先へ踏み出す
「経験上、もっとも効果的なやり方は、現場で従業員の話を聞くことです」と述べるのは、独立系人材コンサルタントの Marissa Letendre 氏です。同氏はこれまで Amazon をはじめとするフォーチュン 500 企業と仕事をしてきました。「最初に始めるべきはステイインタビューです」と Letendre 氏は言います。これは特に、従業員と信頼関係がすでに構築されている企業におすすめの方法です。
ステイインタビューで Letendre 氏がよく最初にする質問は、「この職場に留まる理由は何ですか」「魔法の杖があったら何を変えますか」の 2 つです。 同氏によると、従業員が求めている変化は多くの場合、お金がかからず実現可能なものだそうです。例を挙げると、より魅力的で効果的なリーダーシップや、従業員に意見を出して影響を与える力があることなどです。
Letendre 氏は最近、従業員数 70 名の企業の最前線で働く従業員と面談を行いました。集めた情報からは、この企業は少ない予算で文化委員会を設立し、楽しめるイベントの企画や、全社の取り組みに関するブレスト、コーチングリーダーの指名などを行っていることがわかりました。そしてその副産物として、従業員の士気が高く保たれていたのです。「このような取り組みを通じて、従業員のエンゲージメントは 32%、企業全体の業績も 28% 向上しました」。
従業員の間にオープンなコミュニケーションの文化を構築するための出発点はシンプルなもので構いません。例えば経営幹部に対して誰もが率直な質問を気軽にできるオープンな公開チャンネルを作成するなどしてみましょう。
4. 従業員主導の取り組みをサポートする
PwC では、「Be Well, Work Well(心身ともに健康で、幸せに働く)」という健康経営を推進しています。実は同社の従業員は以前から個別に健康に関するクラスを受けたり、健康を維持しつつ働く方法を探したりしていました。そこで上級管理職向けに身体的、心理的、情緒的な健康に関するコースを開いたところ、評判がよく効果もあると判明。これを受けて、健康の取り組みを全社に広げることにしました。
「Be Well, Work Well」プログラムの内容は、身体的、情緒的、心理的、精神的、経済的、社会的といった健康に関する 6 つの側面に及びます。従業員がリモートワークに移行すると、この取り組みは、オンラインでの心理的サポートや危機的な状況下での育児費用還付制度にまで発展しました。このプログラムには、チームメンバーが健康的な習慣のアイデアを得られる Habit Bank(習慣バンク)もあります。
健康への取り組みに投資することによって、企業は従業員を大切にするだけでなく、従業員が求めていることに耳を傾けることもできるのです。
5. 感謝の力を軽視しない
会社のグッズの贈呈でも、表彰でも、教育リソースの提供でも、リーダーがささやかな行いで感謝の気持ちを伝えることは、従業員の士気に大きく影響します。
デザインプラットフォームの Canva のケースを見てみましょう。Canva は、常にオーストラリアの理想の企業上位にランクインしています。Canva はハイブリッドな働き方を採用して、従業員が 1 年に 8 回しか出社しなくてよいとするポリシーを確立しました。
それに伴って、お互いに感謝の気持ちを表す方法も変わりました。同社のチームでは、普段から成果を認め合うようにしています。それを実現するのが、分散したチーム向けのオンラインカルチャープラットフォーム Disco です。このアプリを Slack と連携させれば、メンバーは同僚に称賛を送ることができます。
また、Canva はマインドフルネスや瞑想のアプリに使える補助金を支給しているほか、「Messages of Appreciation(感謝のメッセージ)」と呼ばれるプロセスも整えました。これにより、従業員がプラットフォームでメッセージカードを作成し、印刷して、同僚の玄関先まで届けることができます。
チームの士気向上は継続的な取り組み
従業員の士気は、組織の健全性を測る重要な指標です。これには継続的な測定が必要で、それはたいてい組織が続く限り続けられます。従業員が感じていることについて継続的にインサイトを得るために、従業員満足度アンケートを通して従業員の気持ちを定期的に測定するのもよいでしょう(または、Trivago のケースのように、カスタムボットを使って従業員感情を把握する方法もあります)。
健全でポジティブな文化の構築は、無料グッズの配布や活発な社交活動にとどまりません。結論として、従業員の士気向上には、ポリシーの設定、キャリアの成長、学習、人材開発などの大きな施策だけでなく、ソーシャルイベントの開催、定期的な表彰、グッズの贈呈などの小さな取り組みも役立つのです。