アスクル株式会社は、事業所向け通販サービス(BtoB) の「ASKUL」、一般消費者向け通販サービス(BtoC) の「LOHACO」を提供している企業です。企業理念は「お客様のために進化する」。同社では、この進化を最高速度で実行できる企業になることを目指しています。
最高速度で進化し続けるには、すべての従業員がクリエイティブな仕事に注力できる環境が必要です。ところが現実を見ると、紙を使ったアナログの人力作業や、非効率なメールのやり取りに依存する文化が根強く残っていました。
そんななか、変革に乗り出したのが CTO の内山陽介さんです。アスクルの進化を支える環境で大切なのは「欲しい情報にすぐアクセスできる」「自由な時間を増やす」「仮説検証を高速で繰り返す」の 3 点。これを実現するツールとして、内山さんが選んだのが Slack です。日々やり取りされた情報を手軽に検索・蓄積できるうえ、豊富なインテグレーションによりあらゆる作業が 1 か所で完結でき、オリジナルのアプリも簡単に開発できる Slack は、アスクルにとってまさにぴったりのツールでした。
「DX を実現するには、システムのデジタル化でムダをなくすとともに、私たち自身がデジタル化することが必要です。この 2 つを実現するうえで力を与えてくれるツールを探していました」
メールから Slack に移行し情報共有スピードが向上
Slack の導入は 2016 年、エンジニア部門で始まりました。もともと人によって勤務時間が異なる同部門では、メンバー間の連絡を意識して徹底することが必須でした。当時のアスクルでのコミュニケーションはメールが中心。しかし受信トレイでは情報の整理が難しく重要なメールが埋もれてしまうことがしばしばあり、情報の周知にタイムラグが発生していました。またメールには用件を伝える以外にも、宛名を選択し、件名を考え、挨拶や締めの言葉をつけ加えるといった作業が伴います。こうした「本筋」とは関係のない部分に意識や手間が取られていたことで、メール返信が遅れやり取りに時間がかかっていました。
その結果、プロジェクトに関わるメンバー全員に情報がきちんと行き渡らないケースが多発。そこで内山さんは、メールからチャンネルベースのコミュニケーションプラットフォームに切り替えれば、こうした課題が解決され、仕事においても自由な時間が生まれると考えたのです。
コミュニケーションの中心をメールから Slack に切り替えたあとは、メッセージが埋もれてしまう心配はなくなり、以前よりも大事な情報を確実に周知できるようになりました。また、絵文字で気軽にリアクションできるようになったため、メールに比べて返信のハードルが下がり、反応速度もアップ。その結果、約 50 人の部署で月 300 時間分の作業を削減できたといいます。
このエンジニア部門での成果を受けて、今ではさまざまな部門での Slack の導入を進めています。2019 年には「#pj_bigpromotion」という大規模な販売対策チャンネルをスタート。このチャンネルに投稿することで、関係者全員が販促に関する情報を簡単に手に入れられるようになりました。プロジェクトに途中から参加した場合も、参加する前の情報を時系列できちんと理解できます。
「これで『聞いてないよ』という状況が起きづらくなり、同じ情報をもって販促に向かうことができるようになりました」と内山さんは評価しています。
「導入した部門からは、『Slack はなくてはならないツールになった』という声が届いています。情報共有にかかる時間が減り、その分クリエイティブな仕事に時間を割けるようになったからです」
アプリ連携で倉庫の見回り業務を年 365 時間分効率化
アスクルが掲げる「最高速度での進化」を実現するには、新たな試みの仮説検証を高速に繰り返すことが大切です。そのためには、業務を IT で効率化して自由な時間を生むことが不可欠だと考えた内山さんは、Slack をさまざまなツールと連携して業務効率化を実現しています。
そのなかで大きな成果を挙げたのが物流センターとの連携です。例えば同社の広大な物流センターでは、これまで従業員が直接見回り、異常が発生していないか確認していました。この方法では時間がかかるうえ、故障が発生してから見つかるまでにタイムラグが発生してしまいます。
そこで同社では試験的に、ASKUL Value Center 関西の物流センター内 20 か所に、装置の故障予知を知らせる仕組みを構築。設定した閾値を下回った場合には、故障予知として Slack を通じて担当者に連絡されるようにしたのです。こうすることで従業員による見回り作業がなくなり、作業の効率化はもちろん、タイムリーな修復も実現できるようになりました。その結果、削減できた作業時間は年間 365 時間。同じ仕組みを同センター内にある全 600 か所に適用した場合は 10,950 時間、さらに 9 拠点あるセンターすべてに展開すると、年に 98,550 時間もの時間を削減できる計算になります。
ほかにも活用しているのが、採用管理システムとの連携です。以前は、人事担当者から書類選考担当者への連絡はメールで行っていましたが、見逃しなどで返信に時間がかかり、採用の業務がスムーズに進まないことがありました。
Slack 導入後は、就職希望者からの申し込みを人事担当者から書類選考担当者に Slack の「#team_エンジニア中途採用面接」チャンネルで通知。面接の予定も Slack で担当者に知らせるようにしました。「今はとりわけエンジニア採用にはスピードが必要と言われています。そのスピードを実現する第一歩として、担当者同士のやり取りをスピードアップすることができました」と内山さん。
そのほかにも、Twitter との連携で LOHACO に関するツイートを巡回し、トラブルの早期発見と障害の回避につなげているほか、自社開発の 100 を超えるツールと連携させ、さまざまな業務を効率化して自由な時間を作り出しています。
「Slack とさまざまなツール連携させてあらゆる業務を効率化したおかげで、ビジネスを最高速度で進化させるための自由な時間が生まれました」
スピーディな意思決定とつながりが生む化学反応を期待
今後アスクルでは、勤怠管理や承認といった業務アプリとの連携を強化して情報を Slack に統合し、スピーディに意思決定できる環境をさらに整えることを目指しています。また、部門を横断した活用を進めるため、全社への展開を早く実施するとともに、経営層が積極的に Slack で情報発信をするよう働きかけていきたいと内山さんは考えています。
内山さんは、Slack の検索機能がもたらす効果にも期待しています。「Slack 上でのやりとりが増えれば増えるほど、 あらゆる情報が Slack に集まってきます。そこを検索すれば欲しい情報が簡単に見つかるほか、その情報を提供した社員と探している社員がつながることで、いわゆる化学反応を起こしたいと考えています」。
そのための仕掛けの 1 つが、社員それぞれの名前をつけたパブリックチャンネルです。自分の独り言を自由に発信する場を設けることで、特定の人だけではなく誰もが活発に情報を発信できる風土を作るのが狙いです。
内山さんは、「コミュニケーションをよりオープンにし、誰もが情報にアクセスできる環境をいっそう強化して、最高速度で進化し続けることを目指したい」と今後に期待しています。