すべては、耳を傾けることから始まります
働き方改革を進めるうえでは、その仕事を実際に担当している従業員の意見を聞くことから始めるのがベストです。Slack でも、あらゆる規模の企業のナレッジワーカーと継続的に対話を重ね、仕事に求めること、そして毎日の業務をどう進めたいかを見出すことに日々努めています。そのためには、大企業の業務と従業員の期待がどう変化しているのかという点に常に目を配らせておくことが重要になります。
本レポートは、グローバル企業 Kelton Research の定量調査に基づくものです。この調査はナレッジワーカーとの話し合いで明確に浮かび上がった 3 つのテーマに焦点を当てています。本章では、働き方に関する世界中のデータや洞察を添えたうえで Kelton の調査結果を共有します。
その内容は、仕事と働き方に対する人々の期待について、以下のような重大な変化を示すものです。
- あらゆる分野における透明性向上への期待
- 同僚とより深くつながることの必要性
- プロセスとコラボレーションツールの改善の重要性
- こうした現場での要望の実現を妨げる分断性や食い違い
本調査が、働き方に関する話し合いを促進し、企業の皆さまが変化という課題に立ち向かっていくうえでの手助けとなれば光栄です。
また何よりも、人事・IT 部門に限らず、あらゆる部門のビジネスリーダーにも、社内外の人間関係やつながり、業務の進め方に着目した取り組みというのが、いかに組織全体に大きな影響を与えていくか、その重要性を伝えることができればと思っています。
方法論について
本調査「Slack Future of Work」は米国の 18 歳以上のナレッジワーカー 1,459 人を対象にオンラインで実施されました。誤差幅は 2.6% です。
こうした内容に対応するには、組織の大々的な変革は避けられません。
「50 年前、フォーチュン 500 企業の平均余命は 75 年でした。今では 15 年足らずです」
社内で起こる変化
こうした変革と並行して、社内で今実際に起こりつつあるのが、従業員の期待の変化です。
従業員が求めるのは、明確なミッションと目的意識に導かれた、より多様性に富むインクルーシブな職場だけではありません。消費者としての経験を通して、従業員は仕事においても「よりよい取り組み方」を求めるようになりました。モバイルアプリやソーシャルメディアプラットフォーム、e コマースなどを普段からプライベートで活用することで、グループへの参加や、アイデア・写真・ストーリーの共有など、メンバーが集まって何かを実現するという新しいコミュニケーション方法に触れる機会が増えたことがこの背景にあります。
にもかかわらず、オフィスではメールや電話会議、ミーティング、1990 年代から変わらないイントラネットの利用を強いられるのです。私たちの働き方を支える文化やシステム、ツールを変える必要があるのか?—それは当然です。大企業にとって課題となるのは、それをどう変えていくかです。
では、実際に従業員の意見を確かめてみましょう...
3 大テーマ
本調査では、あらゆる企業のさまざまな従業員の意見から明確となっている 3 つの懸念事項を検討することとしました。
1.透明性とベクトル合わせ
企業の経営陣とのつながりを強化し、戦略的・戦術的な意思決定の理解を深めること。これは、各自が仕事をするうえで必要となる情報へのアクセス改善を求める要望の一部をなすものです。ここではトップダウン型、つまり経営責任者の意思決定の透明性に焦点を当てています。
2.関係性とつながり
同僚とより深くつながりたいという要望。分散とモバイル化が進み、部門の壁に縛られないチームが増える現代では特に重要であり、かつ困難なテーマです。
3.コラボレーションツール
コミュニケーション、コラボレーション、知識共有の改善による従業員体験の向上と、より迅速で情報に基づいた意思決定の必要性。
これは、従来の働き方を支えるコミュニケーション手段が新たな需要に応えきれなくなりつつある中、従業員の中で急速に高まりつつある期待です。
テーマ 1 : 透明性とベクトル合わせ
今日の従業員らは、自らの仕事を進めていくうえで、必要な情報やメンバー、リソースをすぐに見つけられる状態を常に期待しています。
こういった期待は、業務のあらゆる側面において可視性を求めるニーズにも反映されています。
- 企業の可視化
従業員は、企業の戦略的な方向性と、その基盤となる意思決定の明確な開示を求めています。 - 市場の可視化
競合他社や新たなトレンドなど、自らの関わるビジネスや業界の背景を理解したいという希望があります。 - 同僚の可視化
従業員は、さまざまな部門や分野を通じてつながり、各自の仕事に必要な情報を得たいと考えています。
この調査では、これらのうち最初の可視性である「戦略的な方向性と経営上の意思決定の透明性」に焦点を当てています。
学習し、共有する文化の構築
大企業で従来見られたトップダウンの「指揮統制」型文化は近年影を潜め、これに代わって透明性や可視性、知識共有に基づいたよりオープンな文化が定着しつつあります。こうした変革には、先駆的なビジネスリーダーや人事部門リーダーたちが大きな役割を果たしています。
「親しみやすい最高人事責任者(CHRO)であることはつまり、社内のメンバー全員が気軽にコンタクトできる存在であるということを意味します。透明性を確保し、オープンであり続けることで、管理職や取締役、上級取締役が人事トップの計画やビジョン、組織の文化に従って人材管理を行っているかどうかを把握できるようになります」
結論 :
- 透明性は重要
ナレッジワーカーは、自社のミッションと自身の業務との間につながりが欲しいと考えており、会社の戦略や役員レベルの意思決定についての開示を期待しています。 - 透明性のギャップ
82% のナレッジワーカーが組織の透明性が重要であると回答しているにもかかわらず、所属先の企業につき「非常に透明性が高い」と回答したのは全体の 19% に過ぎません。 - 大企業で顕著
大企業のナレッジワーカーは中小企業のナレッジワーカーに比べて透明性をより重視する傾向にあります(89% 対 80%)。
「透明性とは、単に経営幹部による率直なコミュニケーションだけで得られるものではありません。組織のメンバーが、ほかの部門やワーキンググループで実際に何が起こっているかを確認できる環境が必要となります」
全体像 : 80% のナレッジワーカーが、組織の意思決定の背景を詳しく知りたいと答えています。
特に、以下のような領域での可視性向上が期待されています。
75% 全体的な事業戦略
75% ビジネスチャンス
74%、71% 業界と競合他社に関する最新情報
人材の確保と定着の問題に関しては、
87% の回答者が、透明性の高い企業に今後就職したいと答えています。
透明性のもたらすバリュー
別の視点も考慮にいれるため、調査結果以外にも目を向けてみたところ、「透明性が非常に重要である」という調査の結論を裏づける証拠が得られました。
「企業文化や従業員エンゲージメントの構築のみでは組織の健全性は維持できません。共通のビジョンに沿って会社全体が同じ方向に目を向け、そのビジョンに向かって効果的に業務を実践し、イノベーションと創造的思考を通じて自らをアップデートし続けることのできる組織力が必要なのです」
「当社では、『Open Decision Framework(オープンな意思決定フレームワーク)』と呼ばれる仕組みを使い、ほかのチームや会社全体が影響を受ける意思決定をどのように行い、どのように伝えるかを決めています。そうした意思決定プロセスを通じて貴重なフィードバックを得ることができ、特定の意志決定についてそこに至った経緯や理由をよりオープンに示すことができています」
「企業のミッションやビジョン、価値観に対する相互理解と尊重こそが、活気ある企業文化の基盤となります。こうした相互のつながりを創るためには、企業側での戦略的な情報共有が欠かせません。強い文化を築くことが、階層を越えてニュース、変更、目標、成功例を適切に伝え、社内全体からフィードバックを得るうえで非常に効果的です」
テーマ 2 : 関係性とつながり
職場で過ごす時間は、人生の 3 分の 1 にも及びます。仕事上の関係であっても、人と人とのつながりは重要です。つながりが持てなければ、疎外感を受け、意欲が持てなくなる可能性も高いでしょう。
人材を惹きつけ、維持し、さらに従業員全員から最高のパフォーマンスを引き出すためには、同僚との強いつながりと信頼を育む文化を積極的に推進することが重要です。しかし、仕事に求められるスピードが上がり、チームの分散と外注化が進む現在、仕事への意欲や達成感を得るために欠かせないこうしたつながりを保つことが難しくなりつつあります。
今回の調査結果は、皆が直感的に感じていること、つまり、こうしたつながりが職場で求められているものの、実際にはそれが必ずしも得られていないという点を裏づけるものです。
結論 : 皆が抱える普遍的なニーズ
- つながりは誰にでも必要
91% の回答者が、今後は同僚との関係を深めたいと答え、89% が勤務先企業のミッションやバリューとよりつながりを感じたいと答えています。 - 人間関係の分断?
職場での「つながりが保たれている」と答えたナレッジワーカーは全体の 26% に過ぎません。 - 関係を築くために
35% のナレッジワーカーが、仕事仲間との社交行事が増えれば、つながりの感覚が強まるだろうとしており、33% が、「よりコラボレーション型の業務」が状況の改善に役立つだろうと答えています。さらに、31% が優れたコラボレーションツールを優先的に導入すべきだと回答しています。 - 会議を増やしても無意味?
ナレッジワーカーのうち、「定例会議の増加」がつながりの感覚強化に有益だと答えたのは全体の 15% に過ぎません。
人間関係とつながりがビジネスに及ぼす影響
新しい職場でつながりを築くことの必要性は、経営やリーダーシップに関するフォーラムでも活発に議論されています。
「組織のメンバー 1 人ひとりの能力を引き出す方法が見つかれば、企業の生み出す価値は増大します。10 人のうち、2 人か 3 人の力しか引き出せないとしたら、あまりにも無駄が多いと言えましょう。従業員全員が持てる力を発揮できなければ、日々、期待するレベルの業務が実現できないことになります」
「同僚とのつながりを感じている従業員は全体のわずか 24% に過ぎません」
「今日、米国の専門職の 70% が、質の低い職場文化に耐えながら仕事をするぐらいなら、大手企業であっても働きたくないと答えています」
「リモート勤務の従業員でも、まるで社内にいるかのように、組織の一部であると感じられるツールを用意することが重要です。こうした従業員が会社との距離を感じると、孤立感が芽生え、生産性が低下します」
「幸福感を生み出すのは、何よりも社会的なつながりです」
「職場にごく親しい同僚がいない、または同僚との関係が緊密でない回答者のうち、仕事にやりがいを感じると答えた比率は 12 人中わずか 1 人でした」
「職場に親しい友人がいると答えた回答者の 30% は、そうでない回答者に比べて 7 倍も仕事にやりがいを感じていました」
テーマ 3 : コラボレーションツール
ナレッジワークのダイナミクスは劇的に変化しつつありますが、それを支えるコラボレーションのためのインフラは、依然としてミーティング、電話会議とメールであり、この 10 年来変化していません。
いずれも、組織の効果的な運営に重要な役割を果たすツールではありますが、今日の従業員は、業務の遂行に役立つ新たなコラボレーションのためのツールを心から切望しています。
結論 :
- 高まる不満 : 調査対象のナレッジワーカーのうち、現在の職場のコミュニケーションツールに「非常に満足している」と答えたのは 31% に過ぎません。
- 環境のアップデートが不可欠 : 74% が今後の職場環境がよりコラボレーションしやすいものへと変化すると考えています。
- リアルタイムのコミュニケーションが必須 : 回答者の 80% が、同僚にはできるだけ早くメールに返信してほしいと考えています。そして、およそ 4 分の 3 に相当する 74% が仕事でリアルタイムにメッセージを送信できる機能を希望しています。
- コミュニケーションツールの改良 : つながりを深める方法として、職場への優れたコミュニケーションツールの導入(回答者の 31%)、会議の増加(15%)、オフィススペースのオープン化(13%)が挙げられています。
- 1 人ひとりをつなげ、チームワークを実現 : 職場のメッセージングコラボレーションアプリをコミュニケーションに使っている従業員は、オフィスでのつながりが保たれていると回答する傾向がそうでない従業員に比べて高い(30%、対して後者は 22%)ことが判明しています。
新しい働き方をつくるために
コラボレーションツールだけで職場のつながりを深めることはできませんが、こうしたツールの導入が、生産性とエンゲージメントの向上に大きな成果をもたらし得ることがさまざまな調査で明らかとなりつつあります。
「従来の人事業務において、積極的にテクノロジーを導入すべきだと言われることはありませんでした。テクノロジーが IT 部門の専売特許だった時代は終わりました。今や、人事担当者にも不可欠な要素なのです」
「組織が優れた成果を成し遂げるためには、各個人の仕事の生産性やバラバラのテクノロジーツールの活用といった従来の考え方から脱却した新しい取り組みが必要不可欠です。効果的なコラボレーションと生産性向上の実現には、文化、リーダーシップとインセンティブとを組み合わせることが欠かせません。そのためには、人事と IT の両部門が共同でチーム管理や目標設定、従業員の能力開発に関する専門知識をフル活用し、新世代型のコミュニケーションツールをシンプルかつ生産的な方法で楽しみながら使えるようにしていく必要があります」
「当社の調査では、回答者の 72% が、つながりを生む職場ツールの活用にメリットを感じています」
結論
それぞれの業務上の経験や期待する内容について、ナレッジワーカーの声に耳を傾けるほど、リーダーや管理職がどのような変化を優先すべきかを明確にすることができます。今回の調査で特定した 3 つのテーマ(透明性、人間関係、コラボレーションツール改善の必要性)は、組織の変化を導くうえで重要な道案内役となることでしょう。
Good News
あらゆる業界のグローバル大企業が、以下の 3 つのすべての領域ですでに大きな進歩を遂げています。
- 透明性の強化
標準的な「全員参加」ミーティングやトップダウン型の通知に加えて、リアルタイムのメッセージングや知識共有を基盤とするコラボレーションプラットフォームやワークスペースを使ったよりオープンで柔軟なコミュニケーションを採用しています。 - つながりの強化
各チームが独自の(多くの場合、部門の壁を越えた)コラボレーションのためのスペースを設立することで、自身の業務につながるほかの業務を把握しながら、人間関係の構築もサポートしています。 - コラボレーションの強化
業務ですでに使っているアプリケーションを、よりシームレスで一貫性のあるコラボレーション用インフラストラクチャへと統合できるツールを導入しています。
また、新しいオープン型の IT デリバリーモデルの出現により、今やこうした変革は従来のエンタープライズ IT ベンダーや旧型のオフィスツールだけに限られたものではありません。代わりに、企業では新世代のオープンアプリケーションを活用しています。そうしたアプリケーションは、既存の業務ソフトウェアと簡単に連携させることができます。
「私たちの推奨する内容は次のとおり、明確なものです。組織の健全性を損益計算書と同じくらい厳格に管理し、すべての階層のリーダーたちが参画できる道筋を提供し、そして新しい働き方を取り入れてその有効性を測定できる取り組みを始めることです」
変革をサポートするために
現在起こりつつあるこの「仕事のあり方の大変革」は、あらゆる部門のビジネスリーダーにとって文化やシステム、働き方をつなげることのできる最高の機会を生み出しています。
こうした変革を IT や人事部門だけで実践することはできませんが、そこから変化が始まる可能性は十分にあります。どんな部門の責任者でも、自らのチームから取り組みを始めることで、こうしたコラボレーション型の働き方への変革の道筋を生むことができます。必要なのは、コラボレーションと従業員体験を事業目標に関連させて捉える明確な視点です。
急激な変化を踏まえて
透明性やつながり、コラボレーションのトレンドを先取りすることで、企業は人材を惹きつけ、維持し、従業員のモチベーションを高めることができます。また、イノベーション、効率性、顧客中心主義や変化の加速など、トップが求める事業面での成果についても目に見える役割を果たせるようになります。
「実際には、経営陣と現場が望むものの大半は同じです。突き詰めれば皆、スピーディに業務を遂行し、モチベーションを高く保ち、同じビジョンに向かって進み、そして自主性のある意思決定を行いたいと考えているのです」
レポートと記事
- McKinsey、OrganizationalHealth: A Fast Track to Performance Improvement
- The 2017 State of the SaaS-Powered Workplace Report、BetterCloud Monitor
- I Have a Best Friend at Work : 優れた職場グループに見られる 12 の主な特長について Gallup が調査(このテーマに関するブログ記事も参照してください)
- How collaboration and connection shape our work experience、人々の仕事に対する心持ちに最新テクノロジーが与える影響について研究した、スタンフォード大学経営科学・工学部教授兼仕事・テクノロジー・組織センターディレクター Pamela Hinds 氏に、その研究内容についてインタビュー
- Adam Grant 氏による The New York Times の記事 Friends At Work?Not So Much
- 従来型のビジネスがチームのパフォーマンスをダメにする理由、従業員の期待の移り変わりにより働き方と経営のあり方も新しく変わる必要があることについて、Deloitte の Center for the Edge 研究責任者 Andrew DeMaar 氏にインタビュー