一人あたり年間約 70 時間の業務効率化。Slack で発展する武蔵精密工業のイノベーション計画

「Slack 導入による変革は、イノベーションを創り出せる企業に生まれ変わるという姿勢を示す、象徴的な意義があると考えています」

Musashi Seimitsu IndustryCHO(最高人事責任者)兼 CBO(最高コア事業責任者)前田 大 氏

愛知県豊橋市を拠点に国内外で大きなシェアを誇る自動車 / 二輪車向けのグローバルな部品メーカー、武蔵精密工業株式会社。情報の機密性が高い自動車関連の製造業は、社員間のコミュニケーションが分断されイノベーションが起きにくいという構造上の課題がある中、同社は長年培ってきた企業の構造を変え、ムサシ 100 年ビジョンの下でさらなるイノベーション創出を図っていくために、Slack を導入したコミュニケーションの変革を決断しました。Slack は社員間のメールに代わる新たなコミュニケーションツールとして浸透するとともに、各種申請・承認などのツールとして活用されるようになり、製造現場を含めた多方面での業務効率化が加速しているといいます。

Slack 導入のプロジェクトをリードした CHO(最高人事責任者)兼 CBO(最高コア事業責任者)前田 大さんと、IT ソリューション部グローバルインフラ & サービスグループ マネージャーの加藤 宏好さんに、Slack  がもたらした意識改革や部門ごとにおける導入効果、今後のイノベーションに向けた展望をお話いただきました。

“閉じた世界”からイノベーションを創出できるオープンな環境へ

武蔵精密工業は、創業 80 年を超える老舗自動車部品メーカーとして、世界 14 カ国 35 拠点で事業を展開。およそ 1 万 6 千人の従業員と 2022 年度の売上見込み約 3,000 億円という規模を誇るグローバル企業です。テクノロジーで社会を支えるエッセンシャルカンパニーを目指す同社は、創業 100 周年に当たる 2038 年に向けた旗印であるムサシ 100 年ビジョン「Go Far Beyond!枠を壊し冒険へ出かけよう!」のもと、自社の使命(パーパス)である「人と環境が調和した豊かな地域社会の実現」を目指しています。自動車・二輪車用部品のコア事業に加え、オープンイノベーションで社会課題の解決に貢献し、新規事業として「E モビリティ」「エネルギーソリューション」「インダストリー 4.0」「ウェルビーイング」の 4 つの領域で新たな価値の創出に注力しています。

EV にシフトし大きく変容する自動車業界で力強く成長するために、同社では社内公募型の事業創造など様々な取り組みを行っていく中、イノベーション創出においては全社的な環境整備が不可欠だと考えました。まず抜本的な改革が必要だったのは、社内コミュニケーションの方法です。「自動車業界には発表までの情報の機密性が極めて高いという特徴があります。当社にも情報の取り扱いには細心の注意を払いながら一歩ずつ開発していくという“閉じた世界”のカルチャーが根付いていました」と前田さんは振り返ります。業界の慣習として正確性を何よりも重視することから、IT 業界などで浸透しているアジャイルを前提としたコラボレーションが生まれにくい状況にあったものの、ベースとなるコミュニケーションのあり方を変えなければ、益々予測が困難となるこれからの未来での発展にはつながりません。「イノベーションを起こすためには、“閉じた世界”とは対極にあるオープンなコミュニケーションで集合知を活用していくことが求められます。みんなで知恵を出し合い、不完全な状態であってもいち早く形にし、改善を施しながら作り上げるアジャイル的な発想が必要です」(前田さん)

武蔵精密工業では、過去にシステム変革を試みた際、使い勝手や得られる効果の点で優位性が見えずに、費用を掛けて導入したソフトウェアが浸透に至らなかったという経緯がありました。そこで、今回は世界的にも主流となるような手法を導入しようと発想を切り替え、生産性向上の課題に対する海外拠点も含めたコミュニケーションの迅速化・円滑化が急務となった 2018 年に、Slack の導入に着手します。Slack は同社が重視する「フラット」「オープン」「スピーディー」にも合致するシステムであり、当時すでに業界のベストプラクティス、グローバル・スタンダードとして評価を得ていることが確かな決め手となりました。

一人あたり年間約 70 時間の効率化。Slack の活用で自動化と情報共有が促進

Slack 導入により、社員間のやり取りは基本的にすべて Slack に集約。工場の情報をエスカレーションするアプリケーションがすでにありましたが、社内人材によるプログラミングにより既存アプリを Slack に融合させるなど、従来のリソースを活かし、その他の実務においても各部門に展開していきました。

例えば、残業・休暇といった用紙での申請と押印による承認を、Slack 上のフォームでシンプルかつペーパーレスに行うシステムに変更。システムを構築し、コミュニケーションを一元化するだけではなく、実際にみんなが使いこなせるように、各部門にキーパーソンとなる担当者を任命し、専用のトレーニングを実施するなど、着実な浸透を図っていきました。各担当者は自部門での教育係として Slack の使用方法を指導し、サポートに当たることで、活用を進めるためのスムーズな連携が生まれます。また、IT 部門が工場を回り、Slack を導入する意図と背景を現場スタッフにもきちんと説明するプロセスを大切にし、全体の納得感を得た上で展開したことも、結果的にスピーディーな普及につながりました。

過去の反省点を踏まえ、新システムを全社員が使うことを重視したと IT 担当の加藤さんは話します。2018 年夏にシステムが稼働したものの、当初は 1 年近くたっても使わない部署もあり、『Slack なんて見ていない。メールでもう一度送ってくれ』といった上司の発言など、旧態依然とした状況も残っていました。それでも、人事の教育プログラムを実施し、Slack 上でのコミュニケーションの取り方について丁寧に教えるなど、根気強く利用を促していったといいます。「大きな後押しになったのは、経営幹部が自ら社内でのメール撤廃と Slack の全面活用を宣言してくれたこと。トップの意識、姿勢が示されることは極めて重要だと実感しました」(加藤さん)

Slack が浸透し、業務のコミュニケーションが変わってくると、個人の課題解決の様子や成果がよく見えるようになってきました。この見える化を人事評価にも結びつけたいと考え、同社は人事評価プログラムを Slack に融合。半年に一度の人事評価の途中期間に上司と部下の 1 on 1 を Slack で日常的に行うように調整し、目標設定と期末評価は専用ツールでしっかりインプットしながら、期末に向けて上司と部下で評価を固めていける仕組みを整えました。

さらに、コミュニケーションの手段が全社一致してシンプルになったことは、会議の削減にもつながっています。KPI と数字の報告、およびそれに対する指導を目的にした会議が Slack でのデータ共有とコメントに置き換わったことで、ここにも目に見える変化が表れているそうです。 前田さんは定型会議時間の 50 % 減という当初の目標に対しても手応えを感じていると言い、「IT 部門では毎週開催していた 1.5 時間の会議をなくすことができました。Slack が情報共有の省力化と円滑化を実現し、生産性向上に寄与していると感じています」と、その効果について説明します。 1 年にすると一人あたり約 70 時間削減となり、その時間はより生産的な作業に費やすことができるようになっています。

「IT 部門では毎週開催していた 1.5 時間の会議をなくすことができました。Slack が情報共有の省力化と円滑化を実現し、生産性向上に寄与していると感じています」

武蔵精密工業株式会社CHO(最高人事責任者)兼 CBO(最高コア事業責任者)前田 大 氏

製造現場のアラート対応や開発スピードの高速化に貢献

Slack が同社にもたらした様々なベネフィットの中で、工場ラインの異常を即座に察知できるようになった点もまた、大きな変化と効率化につながっています。工場の整備不良や品質の判断、異常のアラートといった「アクティブコール」が、Slack によって保全部門、品質部門、管理職のスマートフォンにリアルタイムで直接届くシステムを構築し、各問題への対応速度が格段に向上。かつては担当部門や管理職が事務所のパソコンでアクティブコールを察知した後、また工場へ戻って対応するといった状況が頻繁に発生していましたが、事務所と工場間の無駄な動きがなくなったことで対応者の負担も大幅に軽減されています。また、工場の点検にもタブレットで Slack を活用しており、ラインやプロジェクト単位のチャンネルに情報をアップできるので、工場運営自体の精度も高まっているといいます。シフトが異なる製造現場のスタッフも全員で瞬時に内容を把握できるようになったことで、作業の引き継ぎが迅速化し、現場の一体感も醸成されました。

製品開発の分野においても、機密性の問題から、設計を担う開発部門と、それを製品化する技術部門、営業部門の分断が起こっていたため、受注に向けた各部門の連携が課題となっていましたが、Slack 導入後は受注案件ごとのプロジェクトでチャンネルを作成し、機密性を保った上で密なやり取りをするスタイルが定着しました。大人数のプロジェクトでのメールのコミュニケーションにおいては、参加メンバーの把握がむずかしくなり、予期せぬかたちで必要以上の情報が部外に流出するというミスも発生していましたが、Slack ではチャンネルごとの参加メンバーをコントロールすることができるので、そのようなリスクが大幅に回避でき、安心して関係者とコミュニケーションが取れます。前田さんはこうした環境改善についても、「Slack のセキュアな環境の下、開発・技術・営業の部門横断的なコミュニケーションが緊密になったことで、提案のスピードと品質が上がり、営業力も強化されました」と、高く評価します。

そして IT 部門との関わりにおいても、製造技術部門と連携し現場改善に利用するセンサーを 3 D プリンタで作った専用ケースを試作するなど、工場現場改善を進める上では様々な部門の協力が必要となるプロジェクトが発生します。業務を推進していく中で、当初は想定していなかった関係者が急にプロジェクトに加わることなども多々ありますが、そのようなケースにも Slack はコミュニケーションの交通整理を行ってくれると加藤さんは注目しています。「プロジェクトチームがどんどん複雑化していっても、Slack を利用すれば、みんなで本来の目的に向かって混乱なく前進していくことができます。グローバルで共通の ERP を備えていますが、システム障害やワークフローの改善などもSlack でやり取りする動きが自然に生まれました。ボーダレスなコミュニケーションによって ERP のブラッシュアップが起こっているのも、想定外の嬉しい効用です」

「Slack のセキュアな環境の下、開発・技術・営業の部門横断的なコミュニケーションが緊密になったことで、提案のスピードと品質が上がり、営業力も強化されました」

武蔵精密工業株式会社 CHO(最高人事責任者)兼 CBO(最高コア事業責任者)前田 大 氏

Slack でグローバルな協業の拡大にも挑戦

武蔵精密工業では、Slack の導入により業務に必要なコミュニケーションを極めてシンプルにわかりやすくすることで、実務面にも意識面にもたくさんの変革が生まれました。「とにかく Slack に報告を上げる、Slack を確認すればいい」という安心感が得られ、業務が効率化してミス発生のリスクが低減されただけではなく、「Slack が社員同士の距離を近づける効果をもたらすと同時に、1 対 1 の情報交換が中心の閉ざされたコミュニケーションが、大勢の意見が活発に交わされる開かれたコミュニケーションへと進化を遂げました」と、加藤さんは社内コミュニケーションの様相そのものが変化したことを実感しています。

日本の本社機能においては Slack が上手く浸透し、意識改革はもとより、場所や時間を問わないオープンでスムーズな働き方を実現するための推進力にもなっています。今後は海外でのイノベーションハブ設置の検討など、 IT によるグローバル化が進む社会において、外部パートナー企業との関係強化にも Slack を強力な武器として活用していきたいと同社は意欲を見せます。「社内での効果にとどまらず対外的な活動においても、 Slack 導入による変革は、イノベーションを創り出せる企業に生まれ変わる姿勢を示す、象徴的な意義があると考えています」(前田さん)

既存の枠組みを壊し新たな価値の創出を目指す武蔵精密工業のビジョンとその事業は、Slack で柔軟な組織体制を育みながら、未来に向けて力強い躍進を続けています。

「Slack が社員同士の距離を近づける効果をもたらすと同時に、1 対 1 の情報交換が中心の閉ざされたコミュニケーションが、大勢の意見が活発に交わされる開かれたコミュニケーションへと進化を遂げました」

武蔵精密工業株式会社IT ソリューション部グローバルインフラ & サービスグループ マネージャー加藤 宏好 氏