2020 年 3 月まで、仕事とは 9 時から 5 時までオフィスビルで同僚と一緒に過ごすことだったかもしれません。部門ごとにスペースが分かれていて、最上階に経営層の部屋があるというオフィスです。「コラボレーション」とは、ホワイトボードを使いながら最も主張の強い人が牛耳る話し合いを指していましたし、「意思決定」とは、経営層とのミーティングを開くことでした。
パンデミック後の世界では、ハイブリッドな働き方が主流となりました。世界的には、ナレッジワーカーの 58% がハイブリッド形式で働いています。また、リモートでのコラボレーションにはメリットが多数ありますが、チームワーク、コミュニケーション、生産性を維持しながら、リモートチームやハイブリッドチームを率いるのは容易なことではありません。
実際、リーダーシップが透明だと考える従業員は減っています。81% の経営層が、自社に影響する新しい取り組みを透明性高く共有していると考えていますが、それに同意する従業員は 58% です。また、パンデミックによって働き方や働く場所が決定的に変わる前から、ミレニアル世代の 3 分の 1 はすでに、今後 10 年の間に CEO の役割が価値を失うと予想していました。ミレニアル世代の大多数が、トップダウンのリーダーシップの役割をよしとしていないことを示唆していたのです。
従業員がますます分散するなか、透明性の高いコラボレーションモデルを選ぶ企業が増えています。俊敏性や柔軟性よりも病気でも出勤することや在職期間を重視する階層的なリーダーシップモデルや、指揮統制型リーダーシップモデルは見限られつつあるのです。
コラボレーションを重視するチームのリーダーシップとは
コラボレーションを重視するチームのリーダーシップとは、マネージャー、経営層、従業員の間にある壁を取り払い、うまく連携できるようにするマネジメント方法です。コラボレーションを重視する職場では、情報が有機的に共有され、1 人 1 人が組織全体に責任を持ちます。これは、少数の経営層が情報の流れをコントロールする従来のトップダウン型組織モデルとは対照的です。
Harvard Business Review によれば、コラボレーションを重視するリーダーは、常にチームメンバーから多様な意見やアイデアを募り、戦略を立て、問題解決にあたります。その結果、従業員エンゲージメントや信頼感が高まり、仕事を自分ごと化して進められるようになります。
コラボレーションを重視するリーダー、マネージャー、経営層は、インクルーシブな環境を生み出します。そしてそうした環境がチームに活力を与え、創造性を発揮させ、生産的で楽しい社風を育むのです。
バーチャル環境でコラボレーションを実践する方法
重要な第一歩は指揮統制型アプローチから脱却すると決めることです。特にタイムゾーンが異なるリモートチームを率いる場合、確立された働き方を変えるには労力や計画が必要です。ここでは、よりハイブリッドな職場に移行する組織において、効果のあった戦略をいくつかご紹介します。
1. すべてを見える化&目的を設定する
マネージャーにとって重要な仕事の 1 つは、見える化の推進です。ここでは、すべてを見える化して目的を設定するためのテクニックをいくつか紹介します。
- 各自の取り組みが組織の目標の達成にどのようにつながるのかを各メンバーに示す。
- チームの連携方法に関する規範や決まりを定める。例えば、Slack 社内では、Digital HQ(会社を動かすデジタル中枢)が円滑に機能するよう、働き方の未来に向けたロードマップを作成しました。
- 職務範囲と業務の報告先を明確に示す。
- さまざまなタイムゾーンで働く人に対して、勤務時間や会議時間をわかりやすく示す。
出典 : Future Forum
2. コミュニケーションを歓迎する姿勢を示す
リモートワークによって、マネジメントやリーダーシップの課題が新たに生まれました。特に顕著なのは透明性とアイデアのやり取りに関してです。コミュニケーションプラットフォームを採用し、時間や場所にとらわれずにやり取りするチームが増えるにつれ、職場の雰囲気をよくし、オープンかつインクルーシブで協力的な社内コミュニケーションを強化することがこれまで以上に大切になっています。オープンなコミュニケーションができれば、チームの透明性が高まり、メンバー全員がプロジェクトのためにナレッジやスキルを提供していると思えるようになります。
複数のタイムゾーンにまたがる大規模なチームの場合、全員とつながるのは難しく感じるかもしれません。Square では、Slack のパブリックチャンネルによりこれを解決しています。例えば「#
jackama
」という専用チャンネルでは、CEO の Jack Dorsey 氏が、Square の未来からグローバルなオペレーションまでチームから寄せられる質問に答えています。一方、ソフトウェア企業の Autodesk の #help
チャンネルには、従業員からの質問に対する回答が投稿され、さまざまな立場の人が必要に応じて参照しています。
3. パートナーシップスキルを伸ばす
よかれと思ってチームワークを育む取り組みを続けても、しばしば失敗に終わります。その理由の 1 つとしてパートナーシップスキルの欠如を挙げるのは、サイモン・フレイザー大学でリーダーシップおよび組織開発の教授を務める Gervase Bushe 氏です。
大げさに聞こえるかもしれませんが、チーム内でパートナーシップスキルを身につけるうえで大切なのは、人によって体験は異なると認めることです。そして、すべての体験には価値があります。上司が部下とパートナーシップを築きたいのであれば、部下の体験について話す意味がないとか、間違ったものとして済ませてはなりません。そんな風にしていては、効果的なパートナーシップが遠のくでしょう。
4. 時間を無駄にしない
「コラボレーションで挙げられる課題の 1 つは、乱雑かつ複雑になって非常に時間がかかるというものです」と、ハーバード大学で Collaborative Leadership Program の共同講師を務める Micael Lee 氏は言います。一方で同氏は、コラボレーションを重視するリーダーシップのテクニックをいくつか取り入れるために、組織全体の構造を全面的に見直す必要はないとも話します。
マネージャーも従業員も、忙しいスケジュールに余分な作業と時間が加わるのであれば、職場にコラボレーションを取り入れることに消極的になるでしょう。そこで Lee 氏は、全体像を見ること、そしてチームがコラボレーションのタスクに集中できるように業務フローやプロセスを自動化する方法を検討するようアドバイスしています。
これは、コンテキストの切り替えに費やす時間を短縮する、冗長なプロセスに対する労力を減らす、といったシンプルなものでよいのです。例えば、モバイルインターネットプロバイダーの Belong は、すべてのプロセスを Slack とつなげることで、エンジニアを面倒な管理業務から解放しました。これにより、エンジニアは価値を出す仕事に時間をかけられるようになりました。
5. 弱さを見せることを恐れない
弱さを見せることは必ずしも簡単ではありません。しかし、信頼関係を築いてチームワークを強化するうえでは不可欠です。調査によると、弱さを見せるオープンなマネージャーを持つチームは、期待を超えようと頑張ります。同僚と打ち解ける方法は次のようにいくつもあります。
- 自分自身の情報や、自分が感じていること(世界の出来事を含む)を共有する。従業員にも同じことを奨励しましょう。
- 仕事以外のことで、チームメンバーに純粋な興味を示す。
- 感情や対人関係の課題について気軽に話せる姿勢を見せる。
- 従業員の感情を把握すると同時に、自分の感情も自覚する。
出典 : Catalyst アンケート
真のコラボレーションでは、マネージャーが進んでエゴを捨てて、他者のアイデアに耳を傾け、取り入れることが求められます。また、自分のアイデアが必ずしも一番よいとは限らないことを受け入れなければなりません。マネージャーは、メンバーが職位や職歴に関係なく自分の意見を共有し、問題を特定し、解決策を生み出せるようにしましょう。
コラボレーションを重視するリーダーシップが、未来を見据えたビジネスを実現
まとめると、デジタルファーストの世界では企業が階層構造から脱却し、コラボレーションを重視したアプローチを実践する必要があります。これは特に、経営レベルで行うべきです。物理的なオフィスから Digital HQ へと職場が進化し続けるなか、企業に必要なのは、リーダーシップを命令的ではないものに切り替えることです。それにより、従業員は働き方と同僚との連携の両面において、これまでとは違う新しい方法で取り組めるようになるでしょう。