近年、生成 AI の活用が、ビジネスの世界にも広がっています。ですが、生成 AI に興味があるものの、仕事でどのように活用すればいいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。
今回は、生成 AI の基本的な仕組みやメリット・デメリットのほか、具体的な活用方法についてわかりやすく解説します。生成 AI を活用する上で注意しておきたい点もまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
生成 AI とは、コンピューターが情報をアウトプットする技術のこと
生成 AI(ジェネレーティブ AI)とは、学習データをもとにコンピューターが新たな情報を生成してアウトプットする技術のこと。
生成 AI は、文章や画像、動画、プログラムコードなどを生み出すことができ、与えられたデータの特徴やデータ同士の関係性を学習し、新たなコンテンツを作り出せることが強みです。
生成 AI が注目される背景
生成 AI の技術そのものは、1960年代から研究・開発が続けられてきました。ですが、近年ではアウトプットの精度が向上したことや学習量が飛躍的に多くなったことで注目が集まっています。
これは、コンピューターの処理能力が高まったことやインターネットが世界中に広く普及したことで、AI が学習する情報量が飛躍的に増加したからです。また、ウェブブラウザなどで手軽に利用できる生成 AI ツールが開発されたことにより、多くの人が生成 AI を使うようになりました。特に、著名な Open AI 社の Chat GPT の進化はすばらしく、従来までのプラグインの代わりに GPTs と呼ばれる自分なりにカスタムできるツールも登場しています。これにより、さらに精度の高いコンテンツ生成も可能になるでしょう。
生成 AI の基本的な使い方
生成 AI の基本的な使い方としては、「文字」や「音声」で指示を出すだけです。これは、生成 AI が人間の使っている言葉(自然言語)の意味を解析できるからです。
生成 AI に与える指示は「プロンプト」と呼ばれ、人間同士で会話を交わすときと同じ言葉で AI に指示を出せます。ですから、プログラミングなどの知識がなくても、簡単に指示を出すことが可能です。
従来の AI との違い
では、従来の AI と生成 AI は、どのように違うのでしょう。従来の AI は人間が与えたデータを学習し、学習済みデータの範囲内で所定の処理を実行していました。ですが、生成 AI は人間が与えていない情報をインターネット上から探し出し、アウトプットに反映できます。これが、大きな違いと言えるでしょう。
実際、生成 AI は、開発者でさえ予測していなかった回答を提示するなど、大きな進化を遂げつつあるのです。
識別系 AI との違い
識別系 AI とは、与えられたデータと一致しているかどうかを識別できる AI のことです。例えば、工場などでは AI カメラと連携し、事前に学習した製品データとの差分を検出することで、製品の検品を識別系 AI が行います。ですが、識別系 AI は、学習データをもとに新たなデータを生成することはできません。
つまり、識別系 AI が与えられたデータの範囲内で処理を行うのに対して、生成 AI は新たなコンテンツを生み出せる点が大きな違いなのです。
生成 AI の種類
生成 AI には、主に「画像生成 AI」「テキスト生成 AI」「動画生成 AI」「音声生成 AI」の 4 種類があります。ここでは、各種生成の特徴についてご紹介しましょう。
画像生成 AI
画像生成 AI とは、テキストプロンプトの内容に応じて画像を生成する AI のことです。文字情報のみで画像を生成できるため、絵を描くのが得意でない人でも画像を作成できます。画像生成 AI には、「Stable Diffusion」などがあります。
テキスト生成 AI
テキスト生成 AI とは、テキストプロンプトに対して回答文を生成する AI のことです。生成 AI が質問文の意味や文脈を解析するため、曖昧な質問でも対応できます。テキスト生成 AI の例としては、「ChatGPT」などがあります。
動画生成 AI
動画生成 AI とは、テキストプロンプトの内容に合った短い動画を生成する AI のことです。イメージを伝えるだけで動画が生成されるため、従来は必須だった撮影や編集といった作業が不要になります。画像生成 AI の例としては、「Make-A-Video」や「Phenaki」などがあります。
音声生成 AI
音声生成 AI とは、入力されたテキストデータや音声データをもとに、新たな音声を生成する AI のことです。入力音声の特徴を学習するため、話者が実際には話していない内容であっても新たに生成できます。音声生成 AI の例としては、「VALL-E」などがあります。
ビジネスにおける生成 AI のメリット
続いては、生成 AI の活用によって得られる主なメリットを紹介します。特にビジネスにおいて、生成 AI がもたらす効果をご紹介していきますので、参考にしてください。
アイデアの創出
生成 AI をアイデア創出の「壁打ち」に使えば、短時間でより多くのアイデアを創出することも可能です。生成 AI は1つのプロンプトに対して複数の回答を提示できます。課題に対する複数の解決策を提示するよう指示することにより、さまざまな角度から生成された提案を得られるでしょう。
また、提案をさらに掘り下げる質問を重ねていくことで、アイデアをブラッシュアップすることができます。
コンテンツの作成
文章や画像・動画など、コンテンツ作成にも生成 AI を活用できます。ユーザー自身にクリエイティブスキルがなくても、作成したいイメージを AI に伝えるだけで一定水準のコンテンツを作成可能です。
また、大量のコンテンツを作成する場合、人の手で作業すると膨大な工数と時間を必要としますが、生成 AI であれば短時間で多くのコンテンツを生成できます。
顧客エンゲージメントの向上
顧客エンゲージメントの向上につなげることも、生成 AI のメリットです。生成 AI であれば、顧客の好みや購買行動・購買履歴などの分析に活用し、データにもとづいてパーソナライズされたサービスやコンテンツを提供できます。また、生成 AI を Q&A のチャットボットに活用すれば、24 時間 365 日 顧客の質問に回答できるので、顧客エンゲージメントが向上するでしょう。
型業務の効率化
定型文が中心のメール作成や文書作成などの定型業務を、生成 AI に任せられることも大きなメリットです。従業員はより高度な判断や臨機応変な対応が求められる業務に専念できるので、従業員の負担を軽減できますし、人件費の削減にも貢献します。
技術的ハードルを下げる
生成 AI は自然言語で扱えるため、高度な技術や専門知識がなくてもプログラムコードの生成が可能です。生成 AI ツールの操作は容易ですから、担当者の技術的ハードルが引き下げられるだけでなく、従業員の教育やトレーニングに要する時間や費用の軽減にもつながります。
生成 AI のデメリット
生成 AI の活用によって多くのメリットが得られる反面、生成 AI では対応できない領域があります。生成 AI を有効活用していくには AI が苦手とする領域を把握し、デメリットがあることを理解しておきましょう。
人間の感情を読み取ることができない
生成 AI では人間の言葉で指示を出しますが、言葉を「理解」しているわけではありません。単語のパターンや組み合わせを解析し、回答として適切なアウトプットを生成しているだけなのです。
生成 AI 自体が意思を備えているわけではありませんので、生成 AI は人間の感情を読み取ったり、感情を踏まえて表現したりできません。
ですが最近では、AI が言葉や概念を、具体的なものに結び付けて理解する「グラウンディング(Grounding)」という概念も取り入れようとする動きもあります。グラウンディングが実装されれば、リンゴから赤を予想するように、より人間らしい対応も可能になるかもしれません。
オリジナルコンテンツを生成できない
生成 AI はインターネット上に存在するデータからアウトプットを生成するため、完全なオリジナルコンテンツは作れません。新しい着想にもとづくオリジナルコンテンツの制作は、人間が担うしかないのが実情です。
真偽性を確認できない
生成 AI によるアウトプットが、常に正しいという保証はありません。実際、生成 AI がもっともらしい回答を提示する「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる現象もあります。
また、回答の情報源が記載されていなかったり、出典元のリンクが誤っていたりするケースも少なくありません。結果として、アウトプットの真偽性については、人間による検証が不可欠なのです。
情報漏洩やセキュリティ上の懸念がある
生成 AI を通じて、機密情報や顧客情報が漏洩するリスクもないとは言い切れません。例えば、テキストプロンプトに自社の機密情報を入力してしまった場合、生成 AI の学習データとして活用される可能性があります。そのため、ほかのユーザーが生成 AI を活用した際に、入力した機密情報が回答として提示されかねないのです。
ただ、機密情報や顧客情報が漏洩するリスクがあるからといって、生成 AI を使わずに業務効率化ができなくなっては、好ましい状況とはいえません。このような場合は、データ管理の厳しい業者を利用する方法もあります。例えば、Salesforce では、AI 使用時の顧客データを顧客自身で管理可能です。また、OpenAI などの外部モデルを使う場合も、出力と同時にプロンプトと出力を消去しますので、安心してお使いいただけます。
著作権の問題
生成 AI が利用した学習データや、生成されたアウトプットに関する著作権関連の法整備は、まだ十分に進んでいません。生成 AI はインターネット上の情報を収集してアウトプットを生成するため、気づかないうちに他社や他人の著作権を侵害している可能性も否定できないのです。
生成 AI について法律上の解釈が定まっていないことから、法的な問題が生じる可能性があるでしょう。
人の仕事を奪う可能性
生成 AI が進化するにつれて、従来は人間が行っていた仕事が生成 AI に代替される可能性があります。単純作業だけでなく、イラスト制作や文章作成のように、クリエイティブな領域の仕事も例外ではないのです。
人間でしかできない仕事が減っていくことは、生成 AI の性能や利便性が高まっていくことと表裏一体の関係にあると言えるでしょう。
生成 AI の具体的な活用方法
生成 AI には、どのような活用方法があるのでしょうか。具体例とともに、活用方法を解説します。
テキストコンテンツ作成の補助ツールとして活用する
テキストコンテンツを作成する際、生成 AI を補助ツールとして活用できます。例えば、記事コンテンツのタイトルや見出し、EC サイトの商品説明文のほか、メールの件名や本文などの案を作成する際に活用できるでしょう。
生成 AI が作成したコンテンツを取捨選択したりブラッシュアップしたりすることで、人間がゼロから考える必要がなくなります。
背景素材などの作成ツールとして活用する
ウェブサイトなどに使用する背景素材を、生成 AI で活用することも可能です。使用したい素材のイメージをテキストで指示するだけで、画像生成 AI が複数のパターンを提案してくれます。背景素材を探す時間を削減するだけでなく、有料素材を購入する必要もなくなります。
チャットボットに活用する
生成 AI をチャットボットに搭載することで、自動応答機能を実装できます。問い合わせに有人オペレーターが対応する必要がなくなるため、従業員の負担軽減につながるでしょう。
また、24 時間 365 日体制でチャットへの応答が可能になりますので、顧客満足度が向上する効果も期待できます。
ビジネスの予測に活用する
過去のデータやトレンドにもとづくビジネスの予測にも、生成 AI を活用できます。生成 AI は膨大な量のデータを学習しているため、パターンを踏まえた将来の需要予測や販売予測などに役立つのです。生成 AI を効果的に活用すれば、マーケティング戦略の策定や在庫管理の適正化を実現できるでしょう。
顧客の分析に活用する
顧客の購買行動など、顧客の分析にも生成 AI を活用できます。AI は膨大な量のデータをごく短時間で処理する能力に長けているため、人間がデータを整理すれば、長い時間を要する分析作業を大幅に短縮できるでしょう。顧客の分析がスピーディに完了すれば、迅速な意思決定をしやすくなるはずです。
製品やサービスの開発に活用する
製品やサービスのアイデア出しやコンセプト策定にも生成 AI を活用できます。顧客から得られたフィードバックや求められている製品要件を AI が学習することにより、ニーズを踏まえた提案が可能になるからです。
また、プロンプトには詳細な要件を設定できるため、アイデア出しやコンセプト策定を行うことも不可能ではありません。
会議の文字起こしに活用する
生成 AI の文字起こし機能を活用することにより、会議音声の文字起こしを自動で作成できます。さらに、文字起こしを要約したり、議事録の形式に整えたりすることもできるため、議事録作成の時間を大幅に短縮できるでしょう。
プログラミングのコード生成やデバッグに活用する
テキスト生成 AI は、プログラミングのコード生成やデバッグにも対応しています。生成したいコードの内容を指示すればコードが提示されるため、プログラミングスキルがなくてもコードの記述が可能です。また、記述済みのコードの間違いを探してもらえるので、デバッグ作業の効率化にも役立ちます。
生成 AI の種類とその仕組み
生成 AI にはさまざまな種類があり、その仕組みは生成モデルごとに異なります。生成 AI がプロンプトをもとにアウトプットを生成する過程を押さえておくことで、どの生成 AI を使うことが最適か、判断できるようになるでしょう。
VAE
VAE は「変分オートエンコーダ」とも呼ばれており、ユーザーが与えた学習データから特徴を学びコンテンツを生成します。人間の脳神経回路を数学的に再現したニューラルネットワークを使い、生成データの参考となる複数の画像から傾向を抽出しているので、似た作風のコンテンツを作り出せます。VAE を採用しているソフトウエアには Anything などがあります。
GAN
GAN は「敵対的生成ネットワーク」とも呼ばれており、2種類のニューラルネットワークを競わせることで、データをブラッシュアップしながら画像や動画を生成します。この仕組みは、画像データの精度を高めることができるので、解像度の低い画像データから高解像度の画像を生成したり、生成画像に画風を与えたりするこができます。もちろん、テキストから画像や動画を生成することも可能です。
LLM
LLMは「大規模言語モデル」と呼ばれており、AI が単語の次に記述される単語の候補を予測し、その工程を繰り返すことで文章を生成します。
LLMには、有名な GPT-3 や GPT-4 があります。両者の違いはパラメーターの数で、GPT-4 は GPT-3 と比べて、より専門性の高い回答文の生成が可能です。
Diffusion Model
Diffusion Model は「拡散モデル」と呼ばれており、学習データに一度ノイズを追加し、そのノイズを除去するプロセスを繰り返すことで画像を生成します。GAN と同様に、ノイズの追加と除去を繰り返すことで、高解像度の画像が生成可能となっています。有名な AI 画像生成ツールであるStable Diffusion や DALL などに導入されています。
生成 AI の注意点
生成 AI を活用する際には、いくつか注意しておくべき点があります。生成 AI のメリットを引き出すためにも、下記の 5 点を押さえておくことが大切です。
適切な指示を考える
生成 AI が適切なコンテンツを生成できるかどうかは、プロンプトの精度にかかっています。プロンプトに曖昧な点が残っていると、生成 AI は学習データから不適切なコンテンツを生成してしまうのです。
人間が検証する
生成 AI によるアウトプットの真偽性は保証されていません。生成されたコンテンツを検証し、必要に応じて編集するのは人間の役割です。
コンテンツに不自然な点はないか、信頼できる情報にもとづいているか、必ず検証してください。
効果的な活用方法を検討する
生成 AI は、あらゆる業務に対応できるわけではありません。人間が適宜判断し意思決定したほうが良い業務と、生成 AI のメリットが活かせる業務を分ける必要があります。
データの取り扱いを理解する
生成 AI に与えた指示は、AI の学習データとして活用されている場合があります。社内で完結するクローズドなツールではなく、入力したプロンプトの内容がほかのユーザーに提示される可能性も否定できません。
データがどのように取り扱われているのかを理解し、機密情報や顧客情報はプロンプトに入力しないよう徹底することが重要です。
新技術にも注目する
AI は経験や感情を持たないことから、単語やフレーズの背景や文脈を捉えるのは困難です。しかし、言葉と実世界を関連付けて解釈することで、より人間らしい解釈を可能にする「グラウンディング」の技術も登場しています。
カスタマーサービスや営業活動など、ビジネス利用も期待されている技術ですから、今後も注目しておきましょう。
Slack AI でビジネスを効率化しよう
インテリジェント プロダクティビティプラットフォームの Slack には、生成 AI を活用できる「Slack AI」が備わっています。Slack AI を活用することで、下記のようにビジネスを効率化することが可能です。
なお、Slack AI では、入力されたデータを AI の学習に利用することはありません。
チャンネルの要約やスレッドの要約
Slack AI では、チャンネル内の重要な箇所に自動でハイライトを表示する「チャンネル要約」や、会話の内容把握をサポートする「スレッド要約」を活用できます。
やりとりの要旨を素早く把握しやすくなることで、業務の効率化につながるでしょう。
回答を検索し、業務を効率化する
Slack AI の「回答を検索」機能を活用すると、検索キーワードに関連するメッセージやファイルなどを素早く見つけることが可能です。
検索結果の要約を表示させることもできるため、必要な情報を素早く見つけられるでしょう。
生成 AI を活用して生産性向上を実現しよう
生成 AI を活用すれば、コンテンツを作成できるだけでなく、人が担っていたタスクを自動化できたり、新たな着想を得られたりする可能性があります。
今回ご紹介したポイントや注意点を参考に、生成 AI の基本的な仕組みや特性を踏まえて自社に合った活用方法を見つけることができれば、生産性の向上に一役買うことができるでしょう。ぜひ、生成 AI を導入し、業務に活用することを検討してください。
よくある質問
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