SaaS を継続的に利用してもらうには、カスタマーサクセスが鍵を握ります。中でも SaaS の活用が定着するまでの期間を支援する「オンボーディング」は重要なポイントのひとつです。
今回は、SaaS におけるオンボーディングの重要性や、オンボーディングに活用される KGI・KPI の指標についてわかりやすく解説します。SaaS のオンボーディングを実施する手順や成功させるポイントと併せて見ていきましょう。
オンボーディングと SaaS の関係
オンボーディングとは、ユーザーがサービスの活用方法や利便性を理解し、定着するまでの支援を指します。本来オンボーディングという言葉は、新規採用した人材に自社のカルチャーや業務の特性を理解してもらい、早期に戦力化するための取り組みを指す人事用語でした。この考え方がカスタマーサービスに派生し、ユーザーにサービスの活用方法やメリットへの理解を促すことを表すようになったのです。
SaaSにおけるオンボーディング
SaaS におけるオンボーディングは、カスタマーサクセスを実現する役割として実施されています。SaaS(Software as a Service)は、インターネットなどを経由してサーバーで稼働するソフトウェアを利用するサービスです。SaaS はメリットをもたらす反面、導入した初期段階には「操作方法がわからない」「業務の進め方が変わることに抵抗を感じる」「サービスの利便性やメリットが実感できない」など、さまざまな障害が発生しがちです。SaaS のオンボーディングは、こうした課題を解消しながら、サービスの利用を通じてユーザーが成功体験を得られるように導いてくれます。
オンボーディングの手法例
オンボーディングにはいくつかの手法があります。いずれの手法も、目的はユーザーにサービスの活用方法やメリットの理解を促すことです。裏を返すと、ユーザーが早期にサービスの利便性を実感し、スムーズに定着を図ることができるのであれば、オンボーディングにどの手法を用いても問題ありません。下記は代表的な手法の一例です。
SaaSにおけるオンボーディングの重要性とは?
SaaS において、オンボーディングが重要視されるのはなぜでしょうか。主な4つの理由について解説します。
カスタマーサクセスを成功に導く
SaaS におけるカスタマーサクセスを成功させるには、オンボーディングでユーザーにサービスの利便性を実感してもらう必要があります。サービスのメリットを十分に理解しないまま利用を取りやめてしまうことのないよう、適切なサポートを行うことが重要です。
顧客満足度を上げて解約防止につなげる
顧客満足度を上げて解約防止をするためには、オンボーディングでサービス継続のメリットを実感してもらう必要があります。買い切り型の製品やサービスとは異なり、SaaS は一般的にサブスクリプション方式によって提供されます。初期費用が低価格または無料に設定されているケースが多いため、ユーザーにとって解約ハードルが低くなっています。ですから、オンボーディングで解約防止をするのです。
LTV(顧客生涯価値)の最大化
LTV(顧客生涯価値)の最大化は、SaaS におけるオンボーディング実施の重要な目的のひとつです。LTV とは、サービスの利用開始から終了までに顧客が企業にもたらす生涯利益のことを指します。サービスが利益をもたらすのは顧客が契約している期間中のみですから、サービスを利用し続けてもらうことがLTVの最大化につながります。
アップセル・クロスセルを促進
オンボーディングを適切に行うことは、アップセル・クロスセルの促進にもつながります。ユーザーはサービスの利便性やメリットを十分に理解することで、より高度な機能や一歩進んだ利便性を求めるようになります。
SaaSのオンボーディングに使える KGI と KPI
オンボーディングの効果を計測するには、 KGI(重要目標達成指標)・KPI(重要業績評価指標)を設定することが大切です。SaaS のオンボーディングに活用される主なKGI・KPIを確認しておきましょう。
LTV
SaaS のオンボーディング効果を計測するために、LTVを KGIやKPI に設定することがあります。オンボーディングをすることで解約率を下げ、顧客単価を上げることでLTVが向上するという考え方です。
NRR
NRR(売上継続率)も、SaaS のオンボーディング効果を計測できます。NRR は月間の売上がどれだけ維持されているかを表す指標ですので、NRR が高いほど事業の成長性が高い水準で維持されていると判断できるからです。
CRR
SaaS のオンボーディング効果を、CRR(顧客維持率)で計測することもあります。CRR とは、顧客が一定期間中にどれだけ取引を継続したかを表す指標です。CRRが高いほどオンボーディングが有効に作用し、顧客のサービス継続率に寄与していると判断できます。
NPS
NPS(顧客推奨度)も、SaaS のオンボーディング効果を計測する指標のひとつです。NPS とは、顧客アンケートで親しい人にサービスをおすすめできるかを尋ねて得られた回答のことです。サービスに対する顧客の愛着度や信頼度が確認できるため、オンボーディングの効果を測るための指標として最適といえます。
チャーンレート
SaaS のオンボーディング効果を計測する指標に、チャーンレート(解約率)も利用する場合もあります。チャーンレートは一定期間内にサービスを解約した顧客の割合を示す指標で、オンボーディングが成功していればチャーンレートを抑えられるという考え方があるのです。
アップセル・クロスセル額
アップセルやクロスセルの額を、SaaS オンボーディング効果の指標とするケースがあります。アップセルやクロスセルの額が増えるということは、顧客がサービスの利用にメリットを感じ、好意的に受け止めていることを表しているからです。
オンボーディング完了率
SaaS オンボーディング効果の指標として、オンボーディング完了率も利用できます。オンボーディング完了率とは、顧客が自力でサービスを十分に活用し、メリットを得られている度合いを割合で示した指標です。早期にオンボーディング完了率が高まれば、解約のリスクを抑えることができます。
早期設定の完了割合
サービスの初期設定を早期に完了したユーザーの割合も、SaaS オンボーディング効果の指標にできます。初期設定が完了したユーザーのサービス活用が始まれば、メリットを実感できる状況が整うからです。
初期設定が完了するまでの時間
SaaS オンボーディング効果の指標として、初期設定の完了までにかかった時間を使うこともあります。初期設定に手間取り、長時間を要したユーザーは満足度が下がるため、オンボーディングで初期設定完了までの時間をどれだけ短縮できたかによって効果が測れるからです。
機能の利用回数
ユーザーがどの機能を何回使用したかも、SaaS のオンボーディング効果を示す指標となります。繰り返し利用されている機能ほどユーザーにとって必要性が高いと考えられることから、サービスの定着度合いを測れるからです。
サービスのセッション時間
サービスを利用しているセッション時間の長さも、SaaS のオンボーディングが功を奏しているといえます。
利用するセッション時間が長ければ、ユーザーがサービスの必要性を実感している可能性が高いからです。
アクティブユーザー数
ユーザーのうち実際にサービスを活用しているユーザーの人数を表すアクティブユーザー数も、SaaS オンボーディング効果の指標となるでしょう。アクティブユーザーが少ない場合、サービスを導入したものの活用されていないと仮定できるため、オンボーディングが成功していないと考えられるからです。
SaaS のオンボーディングを実施する手順
SaaS のオンボーディングを実施するには、具体的にどのような手順で進めればよいのでしょうか。オンボーディングの基本的な手順を紹介します。
カスタマーサクセスのプロセス整理
ユーザーがSaaS のサービスを利用し始めてから、どのようなプロセスを辿って活用・定着へと至るのかを整理します。ユーザーの視点に立ち、未知のサービスに接する際の行動をシミュレーションしておくことが大切です。想定されるユーザーの行動をフロー図にまとめておくとよいでしょう。
達成したいゴールを定義
オンボーディングのゴールを定義し、具体的に何を達成できればよいのかを明確にします。例えば、ユーザーが自力でSaaS を操作できればよいのか、特定の機能を使いこなせるようになればよいのか、ゴール地点を決めておきましょう。ゴールが曖昧だとオンボーディングの成否を判断しにくくなるため注意が必要です。
KGIとKPIを明確にする
SaaS オンボーディングの進捗状況を測るための KGI・KPI を明確にしましょう。前述した指標を参考にして、どこまで達成すべきか決めておくことが大切です。指標は多すぎても少なすぎてもオンボーディングの成果を正確に測ることができません。適度な数の評価指標を設定してください。
ユーザーセグメントに合ったタッチポイントを設定
オンボーディングのゴールを達成するために、どのような手段(タッチポイント)を使うのかを検討します。主なタッチポイントの設定方法は次の3つです。
テックタッチ、ロータッチ、ハイタッチの順にオンボーディングの精度が高まる反面、要するコスト・労力も増します。顧客としての重要性はもちろん、企業規模やリテラシーに合ったタッチポイントを設定することが大切です。
実施して改善
実際にオンボーディングを実施し、ユーザーの行動や問い合わせ内容を分析しながら改善点を探りましょう。この時、サービスを提案・導入した営業担当者から、顧客にどのような情報が必要になるかを引き継いでおきましょう。実践後は、ユーザー目線で相手がストレスを感じている点や課題となっている点を見極め、改善していくことが大切です。
SaaSのオンボーディングを成功させる5つのポイント
SaaS のオンボーディングを成功させるには、どのような点を意識すべきでしょうか。特に重要度の高い5つのポイントを紹介します。
顧客の視点に立つ
オンボーディングは SaaS を提供している企業側の論理で進めるのではなく、顧客の視点に立って進めていくことが非常に重要です。そのためには顧客のニーズや課題を徹底的に調査し、理解を深めておく必要があります。開発側の願望や先入観に囚われることのないよう、顧客視点を大切にしましょう。
顧客の継続的なフォローを意識する
SaaS のオンボーディングは「点」ではなく「線」で実施してください。顧客がサービスを利用する際に直面する課題や悩みは流動的です。ですから顧客との接点を継続的に持ち、都度求められるサポートを着実に実行しましょう。
複数のタッチモデルを組み合わせる
SaaS のオンボードを実行する手段として、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチを柔軟に組み合わせることもポイントです。例えば基本的にはテックタッチであっても、必要に応じてメールや電話によるサポートも可能な状態にしておくことで、顧客の多様なニーズに応えやすくなります。
ベネフィットをわかりやすく伝える
SaaS のオンボードでは、サービスをどのようなシーンで活用できるのか、具体的なベネフィットを伝えることで有用性を実感しやすくなります。オンボーディングの目的は、サービス利用者の定着にあります。操作方法や機能の説明に終始するのではなく、具体的なベネフィットをわかりやすく伝えていくことが重要です。
適切なツールの選定
顧客を効果的にサポートしていく SaaS のオンボードでは、サービス利用者に合った適切なツールを選ぶことが大切です。業務で日常的にメールを使用しているユーザーにはメールマガジンを配信するといったように、相手に伝わりやすいコミュニケーション方法を意識してください。
顧客の視点に立ったオンボーディングを実施しよう
オンボーディングの成否は、SaaS の利用者定着を決定づける要素です。自社の論理で進めるのではなく、顧客の視点に立ってオンボーディングを実施しましょう。今回紹介したポイントや進め方を参考に、ぜひ顧客にとって「痒いところに手が届く」オンボーディングを実現してください。
よくある質問
HOME > Slack 日本語ブログTOP >生産性> SaaS のオンボーディングが重要な理由とは?成功させるポイントを紹介