ビジネスシーンでしばしば用いられる PDCA サイクル。基本的なビジネス用語のひとつになりつつある一方で、上手に活用するのは決して容易ではありません。
今回は、 PDCA サイクルの成果を高めるポイントや、活用するメリット・デメリットについて解説します。また、 PDCA サイクルに代わる手法も紹介していますので、ぜひ業務改善に役立ててください。
PDCA サイクルとは業務改善の手法のこと
PDCA サイクルは、元々品質管理のフレームワークとして考案された業務改善の手法です。 1950 年代に W ・エドワーズ・デミングによって提唱されました。
Action が次の Plan へと反映され、円を描くように繰り返していくことから「 PDCA サイクルを回す」と表現されることもあります。このサイクルをできるだけ短いスパンで繰り返すことにより、継続的な改善が可能になるという考え方です。
PDCA サイクルの成果を高めるポイント
PDCA サイクルは品質管理だけでなく、幅広い業務の改善に役立つフレームワークです。ただし、活用方法を誤ると、効果を十分に発揮できないおそれがあります。続いては、 PDCA サイクルの成果を高めるためのポイントを解説します。
目的や目標を明確にする
PDCA サイクルの起点となるのが Plan(計画)です。取り組む業務の目的や達成するべき目標が明らかになっていなければ、そもそも計画を立てることができません。具体的かつ実現可能な目標を掲げ、その達成に向けて実行するからこそ、 PDCA サイクルの真価が発揮されます。
例えば、「顧客満足度を向上させる」といった目標は抽象的で、人によって受け止め方に幅が生じます。ある人は「感謝していただけるお客様を 1 人でも増やせれば良い」と捉える一方で、別の人は「売上や契約数に成果を反映させる必要がある」と捉えることもあるでしょう。
目指すべきゴールがまちまちでは、行動のレベルにも大きな差が広く可能性があります。目的や目標は具体的な数値で示し、何をいつまでに達成するべきかを明らかにしておくことが大切です。
計画は途中で変更しない
PDCA は、計画から実行後の評価・改善までを、一連のサイクルとして捉える必要があります。計画を途中で変更すると実行後に評価するための基準が曖昧になり、改善策も講じにくくなってしまうため注意しましょう。一度計画を立てたら、実行・評価・改善までやり遂げることが重要です。
実行段階で計画に無理があったことが発覚するようなら、そもそも適切な計画を立てられていないと判断し、新たな Plan を検討しなくてはなりません。
しかし、途中の計画変更が常態化すると PDCA サイクルを回す意識が薄れてしまい、効果を実感しにくくなる確率が高まります。結果として「 PDCA サイクルは有効ではない」「計画を立てても無駄である」といった誤った認識が生まれてしまうため、適切な計画を立てることが大切です。
定期的に評価・検証をする
実行後に評価し、改善を図ることに、 PDCA サイクルの意義があります。計画を立てただけで放置されていたり、実行したまま検証が行われていなかったりすると、次のアクションプランを改善することができません。定期的に評価・検証を行うことは、 PDCA サイクルの成果を高めるうえで必須のプロセスです。
PDCA サイクルを回す際によくある誤りとして、計画に偏って注力してしまうケースが挙げられます。明確な目的・目標を掲げることは大切なポイントですが、計画は必ず事後の検証とセットになっていることを押さえておくことが重要です。
また、評価・検証は定量的な成果だけでなく、定性的な成功要因や失敗要因も含めて実施しましょう。次のアクションプランにつなげるための改善策を挙げることが、 PDCA サイクルを回す大きな目的のひとつと捉える必要があります。
PDCA サイクルのメリット・デメリット
PDCA サイクルは以前から知られている手法ですが、万能なフレームワークではなく、近年では「PDCA サイクルはもう古い」といわれる場面も少なくありません。だからこそ、 PDCA サイクルを回す際には、活用するメリットとデメリットの両面を理解しておくことが大切です。
PDCA サイクルのメリット
まずは、 PDCA サイクルを活用するメリットを見ていきましょう。 PDCA サイクルを取り入れることによって、下記の 3 つのメリットを得ることができます。
- 目標を達成する能力が身につく
PDCA サイクルを意識して行動することによって、目標を達成する能力が身につきます。目的・目標が明らかになっていれば、現状とのギャップを埋めるために必要な行動が絞り込みやすくなるでしょう。ひとつの目標に向かって尽力し、着実に達成していく一つひとつの経験が、メンバーにとって貴重な成功体験となっていくはずです。
また、 PDCA サイクルのスパンを短くすることによって、自身の取り組みを客観的に評価する頻度が高くなります。現状の行動量や努力の方向性が適切でない場合は、早期に軌道修正を図り、目標達成に有効な行動へと改善することも可能です。結果的に目標を達成できる確度が高まり、掲げた目標を達成するためのプロセスをつかみやすくなります。
- 現状の課題が明確になる
PDCA サイクルは実行と評価・改善がセットになっているため、自身の課題と改善策が可視化されるメリットがあります。もし、現状に大きな問題点がなければ、実行してきたことが適切だったと認識し、自信を持って次の行動へとつなげられるでしょう。
多くの場合、始めから計画どおりに実行できるとは限りません。求められる成果とのあいだに何らかのギャップが生じるケースがほとんどでしょう。短いスパンで PDCA サイクルを回していくことによって、ギャップを埋めるための方策を早めに講じることができます。実行と評価・改善を繰り返すことで行動を徐々に最適化し、求められる成果を高められる行動へと近づけていけるはずです。
- 経験を活かす力が身につく
PDCA サイクルを実践するメリットとして、経験を活かす力が身につくことが挙げられます。経験を活かすには、実行したことに対する振り返りが欠かせません。一方で、完了したタスクや業務に対する振り返りは、意識しなければ実践するのは難しい場合があります。
実行したことのうち、良い点はさらに強化し、失敗した点は原因を特定するとともに、改善を図る必要があります。成功・失敗の両面を次の計画・行動へとつなげることで、経験が具体的な経験値となって蓄積されていくのです。ささいな行動やタスクであっても常に振り返りを行い、改善策を見いだす習慣を身につけていくことによって、経験を活かす力を体得することができるでしょう。
PDCA サイクルのデメリット
PDCA サイクルは、上手に活用すれば有効に機能するフレームワークですが、デメリットとなりかねない点も持ち合わせています。次に挙げる 2 点は、「PDCA サイクルはもう古い」とされる理由にもなっているため、 PDCA サイクルの弱点として押さえておく必要があるでしょう。
- 改善に時間がかかる
PDCA サイクルは一連のサイクルを完了させ、再び計画へと立ち戻ることを前提に設計されています。実行段階で計画を変更するべきではないとされていることから、突発的な状況の変化や新たなアイデアの導入には適していないフレームワークです。仮に、実行段階で有効な改善策が見つかったとしても、評価・検証が完了するまでは取り入れることが難しいのです。したがって、改善策が行動や施策に反映されるまでには、時間を要してしまうのが難点です。
また、変化の激しい現代の事業環境においては、 PDCA サイクルの時間感覚では実態に追いつかないと指摘されることがあります。正確な検証と柔軟な軌道修正は両立が難しいため、 PDCA サイクルのフレームワークは現代のビジネスのスピードには適さない可能性があることを押さえておきましょう。
- 新たなアイデアが生まれにくい
PDCA サイクルは、実行した範囲内で検証を行うためのフレームワークです。そもそも、「改善」を目的とした手法のため、既存の発想にはなかったまったく新しいアイデアを創造するために用いる手法としては適していません。新たなアイデアを生み出すことが目的であれば、 PDCA サイクル以外の手法を導入したほうが効率的です。
既存の業務の進め方や取り組み方を改善し、生産性を高めることが業績の伸長へとつながるケースは少なくありません。ただし、近年では従来の発想にとらわれないイノベーションの推進が重要視されているのも事実です。 PDCA サイクルが改善を目的とした手法であることを念頭に置き、新たなアイデアの創造やイノベーションの推進とは、分けて考えることが求められるでしょう。
PDCA サイクルに代わる業務改善の方法
PDCA サイクルの弱点を補い、ビジネスの実態に即して対応していくために、 PDCA サイクルに代わる業務改善の手法も考案されています。
下記に挙げる 4 点は、PDCA サイクルでは対処が難しい場合に活用できる可能性のある手法です。
OODA ループ
OODA(ウーダ)ループは、個人の行動を管理し、迅速で正確な意思決定を行うためのフレームワークです。次の 4 つのプロセスを継続的に実施し、ループを回していくことで目標達成を目指します。
PDCA サイクルが中長期的な改善策の考案に役立つのに対して、 OODA ループは迅速な判断・行動が求められる際に活用されます。
PDCA サイクルと OODA ループは手法として優劣がつけられるものではなく、活用する目的自体が異なる点に注意してください。状況に応じて PDCA サイクルと OODA ループを適切に使い分けることが大切です。
PDR サイクル
PDR サイクルは、仮説にもとづいて実行した結果を評価・検証することに重きを置くフレームワークです。次の 3 つのプロセスで仮説を検証します。
PDCA サイクルとの大きな違いは、計画段階に時間をかけないことです。 PDCA サイクルが計画を重視するのに対して、 PDR サイクルは「まずはやってみる」ことに重点を置く手法と捉えられます。
また、 PDCA サイクルでは実行した結果を測定・評価し、改善を講じますが、 PDR サイクルで評価する際には、客観的な意見も取り入れて改善するという違いがあります。計画を作り込まないことで、実行・評価までのサイクルを高速で回しやすいのが PDR サイクルの特徴です。
施策にスピードが求められる事業では、改善までに時間を要する PDCA サイクルが適さない場合があります。仮説をもとに評価と改善を短いスパンで繰り返したい場合は、 PDR サイクルを採用するといいでしょう。
STPD サイクル
現状をもとに対応策を考え、実行に移す手法を STPD サイクルといいます。ソニー株式会社の旧経営陣の一人である小林茂氏が提唱したフレームワークです。
STPD サイクルと PDCA サイクルの大きな違いは、計画の前に「観察」と「考察」の段階を踏んでいる点です。目標を掲げる前に現状を見定めるため、目標と現状の食い違いを防ぎやすくなります。
PDCA サイクルが品質管理に根差したフレームワークであるのに対して、 STPD サイクルは管理職などマネジメント層が現場の状況を把握した上で計画を立てるためのフレームワークといえるでしょう。目標と現状とのあいだにずれが生じるのを未然に防ぎ、無理のない計画を策定するには、 STPD サイクルの活用が適しています。
DCAP サイクル
DCAP サイクルは、 PDCA サイクルのうち 計画ではなく実行を起点にする手法です。具体的には、下記の順序で改善を図ります。
PDCA サイクルでは計画の策定を重視するため、実際に行動するまでに時間を要するケースが少なくありません。一連のサイクルを回し終えるまでに状況が変化したり、より優先すべき課題が現れたりすることもあるでしょう。変化の激しい現代においては、スピードに欠ける PDCA サイクルが適していない場面も数多くあるのが実情です。
DCAP は実行を起点にサイクルを回すため、行動した結果から新たな知見や情報を吸収したい場合に適しています。状況が随時変化する環境下で事業を推進する際には、 PDCA サイクルに代わる手法として DCAP サイクルを取り入れるのもひとつの方法です。
効果的な PDCA サイクルの運用に Slack を活用
PDCA サイクルを適切に、そして短いスパンで運用するには、タスク管理ツールやコミュニケーションツールの活用が効果的です。
Slack なら、各種ビジネスツールと連携させることで業務効率化を図ることができます。さらに、複数人で情報共有ができるグループチャット、1 対 1 でやりとりができるダイレクトメッセージのほか、音声でやりとりできるハドルミーティングや顔を見ながら話せるビデオ会議といった機能を備えているため、状況に応じたコミュニケーションが可能です。
また、Slack は、下記のような特定の業界における規制やセキュリティ基準を満たしていますから、計画の立案に必要なデータのやりとりも安心・安全です。
PDCA サイクルの効果的な活用でスムーズに業務改善を進めよう
PDCA サイクルは、現状の課題を明確にした上で目標を着実に達成していくには有効なフレームワークといえます。一方で、計画に重きを置くため、改善までに時間がかかるのが弱点です。 PDCA サイクルを取り入れる際には、メリット・デメリットの両面を理解して効果的に活用していくことが大切です。
今回紹介してきたとおり、 PDCA サイクルに代わる業務改善の手法は複数あります。状況に応じて適切な手法を使い分けられるよう、各手法の理解を深めておきましょう。最適な手法を取り入れることで、業務改善をより効果的に進められるはずです。
よくある質問
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