生産性とは、限りあるリソースをいかに有効活用して市場価値のある成果を生み出しているかを測るもの。言い換えれば、人材などの資産を企業がどれだけ効率よく活用しているかを示す指標です。生産性の向上は、企業に大きなメリットをもたらします。
成長戦略においてはあまり重視されていませんが、生産性は組織が競争力と収益力を維持するために欠かせない要素であり、特にコロナ禍ではなおさらです。実際に Pew Research の調査では、パンデミックによって貧困が悪化し、世界の中間層の成長が停滞したことがわかっています。さらに広範囲で経済的混乱も起こりました。米連邦中小企業庁によると、コロナ禍で多くの企業が事業を停止した結果、失業率は大恐慌の水準にまで達したそうです。
今日からできる生産性向上戦略
これまでの歴史から学ぶことができるとすれば、それは、私たちには立ち直る力があるということです。というのも、アメリカは大恐慌以来 13 回の不況を乗り越えてきました。現在の経済的な逆境も、いつかは過去のものになることでしょう。
企業やチームが成功を収めるためには、職場の生産性が最大限に高まるように変革していく必要があります。アメリカの労働統計局によれば、労働生産性の向上はアメリカ国内の経済成長につながっているようです。1947 年以降、アメリカにおける労働時間数の上昇は緩やかでしたが、生み出された「モノやサービスは 9 倍」になっています。つまり、企業は生産性を高めることによって、同程度の労力でもより多くを提供できるようになったのです。
生産性に影響を与える要因は、プロセス、目標、職場環境、従業員の心身の健康など多岐にわたります。ここからは、長期的に多くのメリットをもたらす生産性向上戦略を見ていきましょう。
相手に期待する内容を明確に
シンプルさは、わかりやすさを生みます。そしてわかりやすさが生み出すのは、理解と信頼です。相手に期待する内容が明確であれば、混乱もなくなります。ただし、すべてはコミュニケーションの質にかかっていることをお忘れなく。
オフィス勤務でもリモートワークでも、全社的に生産性を向上させるには、相手に期待する内容を最初からわかりやすい状態にしておくのが大切です。特にメンバーに対しては次の点を明確に伝えましょう。
- 成果物 : 成果物として、いつまでに、何を、どれだけ仕上げればよいのか
- プロセス : 期待される成果物を作るために、どんな方法、ツール、手段を用いればよいのか
- 勤務時間 : 仕事は何時から何時間行えばよいのか
- コミュニケーション頻度 : 同僚や上司にはどのくらいこまめに報告や共有を行えばよいのか
- コミュニケーションの方法 : チームミーティングはどのように行われるか。最新状況や質問、疑問の共有には、Slack などのコラボレーションツールを使うのか
従業員のエンゲージメントを維持
従業員エンゲージメントを表す数値は、厳しい現実を物語っています。Gallup の調査では、エンゲージメントが高いと考えられる従業員の割合は、アメリカで 35%、全世界では 15% にとどまることがわかりました。幸いにも、この現実を変える方法があります。先ほどの調査では、「チームエンゲージメントにばらつきがある要因の 70%」がマネージャーにあることも判明しました。 つまり、経営幹部は従業員のエンゲージメントレベルとその生産性スコアに対して、極めて大きな影響を与えているのです。
従業員エンゲージメントを高めるには、次のような方法があります。
- チームワークを奨励し、コラボレーション文化を醸成する
- 従業員のキャリアゴールだけでなく個人的な目標もサポートする
- 柔軟な仕事の進め方を認めて、創造性とイノベーションを引き出す
- 質の高い仕事をするために必要なツールを提供する
- チームメンバーにアドバイスやフィードバックを求める
- チームビルディング活動を企画する
- フィードバックを奨励すると同時に、安心してフィードバックができる職場にする
- 功績だけでなく、それを成し遂げた本人も称える
研修と振り返りを継続的に実施
法人向け研修サービスは、世界的に見て数十億ドル規模の業界です。市場・消費者データのポータルである Statista の調査によると、2008 年から 2019 年にかけて従業員 1 人あたりの社内研修支出は全世界で 20% 増加しています。また 2019 年には、従業員 1 人あたりの学習・能力開発(L&D)費用が平均で 1,308 ドルに上りました。これには理由があります。研修やワークショップ、資格の取得、振り返りの機会などは従業員の成果を最大化するためのものであり、全社の目標達成と成長には欠かせないのです。
L&D にかかる費用の上昇を考えると、投資が無駄にならないようにするのがとても重要です。『ハーバード・ビジネス・レビュー』は、「今日の企業研修の多くはあまり効果がなく、その目的やタイミング、内容の面でも不備がある」と指摘しています。 従業員は間違った内容を、間違った理由から、間違ったタイミングで学んでしまっているのです。そんな研修では、学んだ内容をすぐ忘れるのも不思議ではありません。
しかし、対策はあります。ビジネスコンサルティング企業 Collective Campus の CEO である Steve Glaveski 氏は、著作のなかで次のような「無駄のない学習方法論」を企業に提案しています。
- 80 対 20 の原則を適用する。例えば、新しい言語を学ぶ際は、単語やフレーズのうち、よく出てくる上位 80% のものに集中します
- 学習内容を現実のシナリオに応用する。持続可能性に関するワークショップを行うのであれば、参加者がそのコンセプトを実際の具体的な場面に結びつけて考えられるようにします。あるいは、関連する経験を持つ人をゲストとして招くのもよいでしょう
- あらかじめ用意したガイドをリアルタイムで使えるアプリに組み込み、従業員が必要な時にアクセスできるようにする
- 学習内容をパーソナライズ化する。継続的なサポートを提供する。ピアラーニングを奨励する。短期間で修了できるコースを提供する
従業員の貢献を積極的に評価
従業員の満足度を維持する(生産性を向上させる)うえで確実に効果がある方法の 1 つは、優れた成果を積極的に称えることです。従業員体験に特化したソフトウェアサービス企業である O.C.Tanner の「2021 Global Culture Report」によると、従業員の貢献を積極的に評価する職場文化が根づいている企業には、次のような特徴が見られます。
- エンゲージメントの高い従業員がいる可能性が 4 倍高い
- 売上が前年より増加する可能性が 2 倍高い
- 過去 1 年間に従業員の一時解雇が行われる可能性が 73% 少ない
- 燃え尽き症候群の従業員がいる可能性が 44% 少ない
昇給などのインセンティブは一般的に意欲を引き出す効果がありますが、評価を必ずしも金銭で表す必要はありません。次のようなアイデアは、対象者がオフィス勤務かリモートワークかを問わずに取り入れられます。
- 学習機会
- 社名やロゴ入りの会社グッズ
- 時期的にふさわしいプレゼント(消毒液やマスクなどが入った安全キット)
- 映画チケット
- 会議冒頭での表彰
- 称賛の見える化(称賛ボード、同僚からのビデオクリップなど)
- ポイントやチケット(駐車スペースの利用、特別休暇、経営幹部との 1 対 1 の話し合いの機会などと交換が可能)
適切なツールやテクノロジーを導入
質の高い仕事をするには、適切なツールや機器を使える環境が必要です。ただし、それらのツールが目的に沿って使われているかどうかを確認する基準を備えなければなりません。顧客や従業員などに関する機密データを取り扱う場合はなおさらです。
次のようなツールを使うと、特に効率が求められる場面で生産性を最大限に向上できます。
- コミュニケーションとコラボレーション : Slack チャンネルを活用すれば、ステータス更新や作業中のファイルなども含め、プロジェクトのためのコミュニケーションが 1 か所にまとまるため便利です。チャンネルは必要な数だけいくつでも作成でき、過去のメッセージやその他のコンテンツも必要な時に検索できます。ビデオ会議やリモートミーティングの際は、Skype や GoToMeeting のようなツールを使えば、チームのつながりが途切れません。またこれらのツールを Slack と連携させれば、Slack から直接、ミーティングを開始したり、参加したりすることも可能です。
- プロジェクト管理 : リソース、タスクの関係性、マイルストーンなどを効果的に管理できるプロジェクト管理機能が必要なら、Wrike、Asana、Smartsheet がおすすめです。これらのツールでは、従業員のスケジュールや業務負荷を管理できるほか、プロジェクトを順調に進めるためのガントチャートの作成なども可能です。
- ヘルプデスクとチケット管理 : カスタマーサポートの業務フローを合理化し、効率的に問題を追跡・解決するツールには、Zendesk、Freshdesk、Jira Service Management があります。
- 会計処理 : 会計ソフトを導入すれば、経費や収益の管理、請求書の作成、レポートの作成、支払い催促の送信、在庫管理など、重要な複数のタスクを自動化できます。中小企業向けの会計ツールもたくさんあり、QuickBooks Online、Sage 50cloud、Wave などがよく使われているようです。
- パスワード管理 : LastPass や 1Password などのプラットフォームを使うと従業員のパスワードを安全に管理できます。複数のアカウントに対して 1 つのパスワードを覚えるだけで済むので便利です。
セキュリティ : データ漏洩や悪意のあるウイルス、スパイウェア、アドウェアから組織を守るためには、McAfee、Norton、Kaspersky などの保護対策ソフトウェアが有効です。 - 決済システム : オンライン販売サイトでは、顧客は素早く快適で安全な決済プロセスを求めています。PayPal、Amazon Pay、Apple Pay などのほかにもさまざまなオンライン決済手段があるので、自社に合う信頼できるサービスを探してみましょう。
生産性向上を優先事項に
生産性を向上させると、すぐさま劇的な改善を見込めるわけではありません。ただ、たとえ小さな変化でも大きな効果を期待できます。生産性向上のための適切なツールと戦略を導入すれば、従業員エンゲージメントが高まり、研修と能力開発の効果を最大限に引き出せるだけでなく、メンバー全員が認識を揃えやすくなるでしょう。