IT サービスを効果的に導入し、顧客やユーザーのニーズに応えていくには、適切な企画・設計・運用・管理が欠かせません。こうした IT サービスマネジメントの成功事例をまとめたものが ITIL(アイティル)です。
今回は、 ITIL の基本的な概念や導入メリット、導入時の注意点についてわかりやすく解説します。 IT サービスマネジメント の概念と併せて見ていきましょう。
ITIL とは IT サービスにおけるガイドブック
ITIL(Information Technology Infrastructure Library)は、 IT サービスマネジメントの成功事例をまとめ、体系化したガイドラインです。 IT サービスを運用する際の標準的なフレームワークとして活用されているほか、理解度や基本的な運用に必要な知識を問う認定試験も実施されています。
ITIL の発端は、 1989 年に英国政府が発行した書籍にあります。当時の英国は経済が低迷しており、行政や経済の改革に着手する必要に迫られていました。改革の一環として、当時の電気通信局が IT サービスの管理・運用方法を見直すことによるコスト抑制やサービス品質の向上を提言したのです。この試みが成功を収めたことを受け、ノウハウや成功事例を 40 冊以上にわたる書籍にまとめていきました。この書籍群こそが、最初の ITIL だったのです。
IT サービスマネジメントの概要
ITIL は、 IT サービスマネジメントを理解する上で重要な役割を果たしています。 IT サービスマネジメントは ITSM(Information Technology Service Management)とも呼ばれ、顧客や従業員に IT サービスを快適に利用してもらうための活動のことです。
IT サービスに活用されている技術や実装されている機能が高度なものだったとしても、それらをユーザーが適切に利用できなければ快適な運用は実現できません。ユーザーにとって使い方がわかりにくかったり、不具合が頻発したりするようでは、かえってクレームや業務効率低下につながりかねないでしょう。
IT サービスを運用していくにあたって、顕在化している課題を解決するとともに、今後発生し得る問題を事前に抽出したうえで対応策を講じておくことが、 IT サービスマネジメント に取り組む主な目的です。
ITIL のバージョン
ITIL が登場して以来、 IT サービスはめざましい進化を遂げています。ツールやシステムの進化とともに、 IT サービスマネジメント に求められる要件も変化していくのは自然なことといえるでしょう。そのため、 ITIL は IT サービスの進化に合わせて改訂されてきました。続いては、 ITIL のバージョンと、それぞれの内容について解説します。
ITIL V1
ITIL V1 は、英国政府が IT を効率的かつ有効的に活用している企業の活用状況を調査し、ガイドラインとしてまとめたもので、書籍にして 40 冊を超える内容がありました。 1989 年に英国の中央コンピューター電気通信局から出版されました。
ITIL V2
ITIL V2 は、 ITIL が世界的に知られるきっかけとなったバージョンです。 ITIL V1 の不整合を見直し、 7 冊の書籍にまとめたものが、 ITIL V2 です。 ITIL V2 は、 1999 年から2004 年にかけて公開され、より実用的なガイドラインとして広く活用されるようになりました。
上記のうち、サービスサポートは「青本」、サービスデリバリは「赤本」と呼ばれ、 ITIL V2 の中核をなす書籍として位置付けられています。
ITIL V3
ITIL V2 を 5 冊の書籍にまとめたものが V3 です。 2007 年の公開後、2011 年にアップデートされています。 V3 の大きな特徴として「サービスライフサイクル」の概念が導入されたことが挙げられます。
ITIL V3 は、 IT サービスに関わる業務手順が不明確な場合や未確立の場合に有効なフレームワークです。自社における現状のプロセスに対する理解を深め、改善策を講じたい場合には ITIL V3 の活用が適していると考えられます。
ITIL V4
ITIL V4 は、 2019 年に公開された ITIL の最新バージョンで、消費者向けの IT サービスを想定して記述されています。近年、注目を集めている DX(デジタルトランスフォーメーション)やクラウドサービスの活用にも触れているため、新しい技術を活用した成功事例を知りたい場合に適しています。
ITIL V3 におけるサービスライフサイクルに相当するのが、 V4 における「サービスバリューチェーン」です。バリューチェーンとはユーザーのニーズに応えるためのサービス創造や管理を表す概念であり、 V4 が消費者向けのサービスを想定していることが色濃く表れています。
ITIL 導入のメリット
ITIL を導入することによって、企業は具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。 ITIL の主な導入メリットについて解説します。
顧客満足度の向上
ITIL の事例をもとにトラブル発生時の対応をマニュアル化しておくことで、スムーズな解決を実現しやすくなります。 IT サービス利用を通じてユーザーが不便や不自由を感じる場面が減っていけば、必然的に顧客満足度も向上していくでしょう。
また、従業員にとって IT サービスの利便性が高まることにより、業得効率の改善や生産性向上につながる効果も期待できます。結果として顧客対応が迅速になり、従来よりも余裕を持った対応がしやすくなります。顧客満足度の向上は、売上伸長やブランド力の強化といった効果をもたらすはずです。
インシデントの防止・抑制
IT サービスの運用には、インシデントが付き物です。インシデントとは、サービスの中断が想定されるようなトラブルや、サービスの品質低下につながりかねない事態が生じることを指します。結果として、サービスの一時利用停止や不具合発生の直接的な原因にもなり得るのです。
ITIL を適切に活用することにより、インシデントの発生防止や抑制につなげることができます。ユーザーから見た場合、安定して利用できるサービスとして映るため、サービスに対する信頼度や満足度の向上につなげることが可能です。
費用対効果の向上
ITIL にはさまざまな成功事例が記載されているため、成功事例をベースに効果的な投資判断をしやすくなります。サービス品質を向上させるために必要な投資を的確に判断できれば、費用対効果の向上につながることが期待できます。
IT サービスの導入・運用は、資金を投じれば投じるほど成功するとは限らないのが実情です。新たなツールやシステムを導入しても、サービス向上につながらないどころか、かえって混乱を招いたり、ユーザーの利用体験を損なう結果を招いたりすることも珍しくありません。適切な投資判断をするうえで、 ITIL を参照しておくことは十分な意義があると考えられます。
市場の変化への対応力の向上
現代社会は変化のスピードが速く、特にテクノロジーの進歩と移り変わりは年々加速しています。市場の変化を敏感に察知し、適切な対応を講じていくことは、持続可能な事業を営むためにも重要な視点のひとつです。
そこで、 ITIL は、 IT サービスのライフサイクルを理解するうえで役立ちます。サービスが誕生してから廃止されるまでの一連のサイクルへの理解を深められるため、市場環境を考慮したサービス提供のタイミングを見極める際に有効です。市場の変化の見極めや対応力の向上につながることは、 ITIL を導入するメリットのひとつといえます。
ITIL 導入の注意点
ITIL は、導入さえすれば効果が得られるというものではありません。導入時に注意すべきポイントを押さえ、効果を最大限に引き出すことが重要です。
3 つの「P」を意識する
ITIL を活用した適切な IT サービスマネジメントを実践するには、 3 つの「P」を意識しておく必要があります。
上記をクリアするには、ツールやシステムの導入ありきで考えるのではなく、導入・活用の本来の目的を念頭に置いて ITIL を活用していくことが大切です。ツールやシステムはあくまでも手段として用いるべきものであり、活用そのものが目的化しないよう、注意する必要があります。
情報を共有する
インシデントのリスクや具体的に起こり得る状況を把握しておくことは重要ですが、インシデントへの予防・対応を適切に実践していくには、情報の共有も欠かせないポイントといえます。インシデントの発生に備え、日頃から情報を密にとり合える環境を整えておくことが大切です。
関係者間でのコミュニケーションを活性化し、情報の共有化を促進するにはチャットツールの活用が有効です。 DM をはじめチャンネルを使ったグループチャットやハドルミーティングなど、状況に応じてコミュニケーション手段を柔軟に選択できる Slack を活用することで、インシデントへの備えを強化できるでしょう。
インシデント発生時の初動対応を周知徹底する際にも、関連するドキュメントを Slack にアップロードしておくことで、関係者がいつでも確認できる環境を整えることができます。
インシデント管理、変更管理
インシデントを回避するのと同時に、実際にインシデントが発生した場合の事後対応を考えておくことも大切なポイントです。インシデントが事業に与える影響を最小限に抑えつつ、できるだけ早期に正常な状態へと回復させていくことが求められます。
また、インシデントへの対処方法と結果を記録として残すことで、組織としての対応力を高めることができるでしょう。こうした、インシデント管理や記録等の変更管理に取り組むことで、 ITIL の趣旨を正確に反映した対応が可能となるのです。
専用ツールの活用
ITIL の実践に適したツールを導入し、有効に活用していくことも IT サービスマネジメントを実現するうえで重要なポイントです。ツールを活用することにより、イベント管理やインシデント管理を合理化できるだけでなく、関連する情報の共有化も容易になるでしょう。
ただし、専用ツールには数多くの種類があり、提供されている機能も多種多様です。自社にとって必須の機能や実現したい施策に応じて、適したツールを選定する必要があります。
多機能のツールほど使い勝手が良いとも言い切れないため、ツールに求める機能や役割を明確にしたうえで選定していくことが大切です。
ITIL の資格保有者の採用・研修
ITIL にもとづく適切な IT サービスマネジメントを実践するには、 ITIL の認定資格を取得するのも有効な方法です。資格保有者を新たに採用することにより、 IT サービス全体の質向上や組織としての対応能力を高められる可能性があります。
また、 ITIL に関する研修を実施することにより、従業員に理解を深めてもらうのもひとつの方法です。一部の部門や担当者が ITIL を理解しているだけでは、インシデントへの組織的な備えや対応を実現するのは困難です。 ITIL への理解を深める研修の機会を提供し、組織知識増強を図っていくことをおすすめします。
ITIL を活用して IT サービスの品質向上・顧客満足度の改善につなげよう
ITIL は、 IT サービスを適切に運用・管理していくうえで役立つガイドラインです。 ITIL の趣旨を正しく理解したうえで活用することにより、 IT サービスの品質向上や顧客満足度の改善につなげることができるでしょう。
今回紹介したポイントや注意点を参考に、ぜひ ITIL を適切に活用してください。従来抱えていた課題の抽出や改善、サービス向上を実現するうえで、 ITIL が効果を発揮する場面は決して少なくないはずです。
よくある質問
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