これは、チャネル変革と題したシリーズの第 2 回目です。第 1 回目では、Slack の CFO である Allen Shim が、この歴史上まれに見る時期にビジネス変革のチャンスを捉えるため、組織がどのように対応したらよいかを概説しました。今回は、Slack の Head of Internal Communications である Amanda Atkins が、組織の繁栄には透明性が鍵になることについて説明します。
世の中のコミュニケーション手法は、20 年前、10 年前、さらにはたった半年前とも劇的に異なります。重要なライフイベントの連絡には、グループでの一斉送信が利用されます。紙の招待状を送るのに従来の郵便を使用することは珍しくなっています。食事の代金や交通費を割り勘する時は、アプリを使ってお金に関する厄介な話し合いを回避して、直接精算するということが行われます。生活の細部や、考え、意見を広大なインターネット上で発信し、またほかの人からもそうした情報を絶えず得ています。最新のニュースは、翌日の新聞を待つことなく瞬時に知ることができます。
透明性の高いリアルタイムのコミュニケーションが個人の生活で当たり前になるなか、そのような新しい連携手法が職場環境にもたらす影響やメリットも明らかになっています。
私が 20 年近く、さまざまな業界の大小の企業における社内コミュニケーションを扱ってきたなかで、全体的に変わらず残っているのは次の 2 つの法則です。
- 世の中のコミュニケーション手法が進化するのに伴い、職場でのコミュニケーションに求められる役割も進化する。
- 企業が新しいコミュニケーションの規範に追従しないと、会話が止まることはないが、単に自分抜きで会話が進められてしまう。
その一方で、企業がこの現実を受け止め、その機会に乗じ、モダンなコミュニケーション手法を組織で活用するために積極的に行動すれば、すべての人に次のようなメリットがもたらされます。
- 企業のリーダーが基調を定めて独自のナラティブを設定できる。
- 従業員が話を聞いてもらっている、尊重されている、裁量権を与えられていると感じることができる。
- 問題や対立への対処が迅速に、オープンに行われる。
- 意思決定が明瞭に行われる。
- 陰口、懸念事項、不満が劇的に減り、うわさ話が止まって注意をそらす要因が少なくなる。
好ましいことが起きますね。そして一番喜ばしいのは、企業がこの変化を起こせるということです。
ただし、ソリューションに目を向ける前に、企業が社内文化の実態を受け止めて把握すること、そして準備を進めるうえでの企業の役割を見極めることが重要です。
社内文化の実態
どの企業でも、従業員は懸念事項や意見、そして誤解を抱えています。うわさ話を耳にして、ほかの従業員に広めます。決定事項や優先順位に疑問を投げかけます。ある地域で従業員をわくわくさせたニュースが、ほかの地域の従業員を困惑させることもあります。これはいつの時代もそうでした。
ここで、先ほどの段落をもう一度読んでみましょう。ただし、「企業」は「社会」に、「従業員」は「人々」に置き換えます。 それが人間の営みです。人は、従業員として企業に入っても、魔法がかかったように変わることができません。そのため、現れるコミュニケーションのパターンは同じです。
この現実に気がつかないと、揉めごとや、仕事の妨げになる要因がどんどん広がってしまうでしょう。うわさ話は長続きし、不満がくすぶります。リーダーは実態を把握していないように見え、信頼がなくなります。エンゲージメント、忠誠心、生産性は低下します。
透明性を確保するため、そして社内で最も難しい議論を推進するためには、事前の作業が必要になります。
触れてはいけない内容についての会話や、感情が爆発するような会話を見聞きしたり、それに参加したりするでしょう。気乗りしない通話をしなければならないことや、攻撃の対象にされ、進路を変えなければならなくなることもあるでしょう。それは時に居心地の悪さ、困難、ストレスを感じさせるものです。
しかし、それは多くの苦悩や手間のかかる後始末を避け、組織が健全さを保ち方向性を揃えるうえで必要な強力な基盤を作るものです。MIT Sloan Management Review によると、透明性のトレンドはすっかり定着しているといいます。そして、それに寄与したのはミレニアル世代や Z 世代の従業員だけではありません。
全体的に期待が高まっています。労働者は、企業がどのように運営されているのかを気にします。また、企業の製品やサービスについて理解を深めたいと考えています。そして、リーダーにはあらゆる製品やサービスについての疑問に、適切に受け応えてほしいと望みます。
社内のコミュニケーションを変革する
企業はそれぞれ異なります。ビジネス上の優先順位も、コミュニケーションやコラボレーション用のツールも、従業員の構成も異なります。しかし、どのような企業でもコミュニケーション戦略を次の 5 つの共通原則に従って構築できます。
1. 透明性が重要であることを示す
透明性は、全従業員に物事の細部 1 つ 1 つまでを知らせることではありません。透明性は、次の 4 つの大項目により成り立ちます。
- 事業の仕組みを従業員がしっかりと把握できるようにする。従業員にビジネスの全体像と業界や競合勢力を把握してもらいましょう。従業員もそれを望んでいます。大部分の労働者は、企業の事業の促進に関係する指標について知識を高めることに前向きです。その詳細を共有すれば、あらゆる面に作用する強力な基盤が作られます。それにより、困難な時期にもアジリティと回復力が発揮され、仕事を妨げる要因が減少します。また、自らの貢献が全体にどう影響するのかが見えるようになります。これを新規採用者の最初の研修に組み込むとともに、定期的に再確認してもらうようにしましょう。
- 大事なニュースは従業員に先に知らせる。あるいは、少なくとも公の告知から数分以内のタイミングを守る。「本日、X について発表する予定です(発表しました)。これによって、私たちには次のような影響があります」というように告知すれば、Twitter や Google News のアラートで自社のニュースを知るよりも、信頼感やエンゲージメントが強まります。機密扱いのプレスリリースを 9 時ちょうどに出す場合は、社内向けの告知を 9 時 01 分に投稿できるように準備しましょう。
- 公に共有できないが質問を受けると考えられることについて正直に伝える。何も語らないより、話せることと話せないことを(理由も含めて)明らかにするのは、望ましいことです。そうしないと、独自の解釈が自然と加えられ、うわさの出どころを追いかけるために余計なエネルギーを注ぐ羽目になります。
- 議論の余地を秘めている話題について事前に対策する。摩擦が生じることがわかっている新しいポリシーを制定する場合は対処する必要のある問題として表面化するのを待つのではなく、告知の時点でそれを認めましょう。「今回の変更は、残念に思う人もいると思います。なぜこの変更が重要なのかを説明します」というような説明を加えれば、仲間とわかり合う姿勢や、同調する人物だけで意思決定するのではないという姿勢を示す効果があります。
2. 従業員からの質問や懸念事項に対処するためのインフラを構築する
透明性の高い組織でも、質問や懸念事項には対処しなければなりません。拡張性のあるフレームワークなら、組織の規模や成長の速度にかかわらず、あらゆる企業がうまく導入できます。
- 日常業務の質問に対しては、繰り返し使えるフォーマットを作る。日常業務についての質問は、すべての従業員から出されます。経費報告、福利厚生、出張の予約に関するものがよい例です。このような質問に対処するにあたり、拡張性のある持続可能な方法は、専門知識を持った適任者がいつでも見張っていて問い合わせに応答できる経路をいくつか設けることです。例えば、専用のチャンネルやチームのメールエイリアスを活用してもよいでしょう。Slack 社内では繰り返し発生するリクエストのために、標準の命名規則に従って #help-finance(ヘルプ-財務)、#help-benefits(ヘルプ-福利厚生)、#help-travel(ヘルプ-出張)などのチャンネルを各チームが独自に開設しています。時が経つと、これらのチャンネルは組織内の知見が詰まった参照資料として、極めて重要な価値を発揮します。
- 日常業務から外れる質問や懸念事項のための信頼できる場所を提供する。大々的な組織改編についてアナウンスすると、従業員からは早速それについての質問が上がります。また、資金集めの決定が下された理由や、多数の候補のなかから特定の慈善活動を後援することを決めた経緯についても質問が来るでしょう。これらの質問は裏ルートや廊下での立ち話でくすぶらせたままにせず、公開フォーラムに上げて裁量権を持つ担当者に直接素早く対処してもらいます。Slack 社内では、「なんでも聞こう」(AMA)という専用のチャンネルを開設しています。ほかにもライブの Q&A フォーラムを定期的に開いたり、時間とトピックを定めたバーチャルの AMA チャンネルを開設したりするのでもよいでしょう。理想的なのは、これらすべてを実践することです。
- 仲間同士で話せる専用の場所を従業員に提供する。時に、人は自分が持っている考えについて、役員レベルの回答や公式の回答を求めているわけではなく、同僚に聞いてもらいたいだけのことがあります。それはとてもすばらしいことです。専用のチャンネルなど、そのようなことを話せる場所を用意するのが有効です。従業員が企業公式の回答を得られる場所だけでなく、仲間と特定のテーマについて討論するにはどこに行けばよいかも把握できるようにしましょう。前者は #company-ama(企業-なんでも聞こう)という Slack チャンネルや、毎週バーチャルで開催する全社集会などになり、後者は Slack 社内で使っている #company-culture(企業-文化)のようなチャンネルや、テーマを決めた討論会などが該当します。時に、元の場所から別の場所に、トピックがはみ出すこともあります。それもまた、よいでしょう。
- 仕事以外の会話を交わせる場所を設けておく。人は、始業時間になったからといって日常生活から切り離されるわけではありません。身の回りで起きていることを話すはけ口を求めていたり、気にかけている話題についてほかの従業員と相談したいと考えたりしています。チームミーティングや全社集会、あるいは従業員が作成するチャンネル(#制度、#社会の公正、#技術文化など)でそのような会話を交わせるようにしておくと、従業員が何を思っているのかを知ることができます。これは、従業員に影響する社会的な問題についてもマネージャーが気にかけていると示すことにもなります。
3. 難しいテーマに優先順位をつけ、解決に漕ぎつけるためのプロセスを確立する
難しいテーマに光を当てる時は、それに対処するためのプロセスが必要です。プロセスを確立して共有し、何をしたらよいか把握できるようにしておきましょう。以下に例を紹介します。
- 質問が寄せられたら、まずは受理する。受理しないまま質問を放置すると、まったく異なる意味を示すことになります。受理したことを示すのは簡単です。Slack の投稿に :両目: の絵文字リアクションをつけるほか、「質問ありがとうございます。内容について検討し、今週中には回答をここでお知らせする予定です」と応答するのでもよいでしょう。
また、回答までの期間を約束します。質問の複雑さによって期間は変わりますが、それでも構いません。適切な見込みを設定しましょう。1 時間で回答できるのか、1 週間かかるのか、いずれにしても約束をオープンに表明し、どれくらいかかるかが伝わればよいのです。もし回答を固めるまでに当初想定したよりも時間がかかるならば、それを伝えましょう。 - 回答について適切な人物と討議する。特定のプライベートチャンネルであっても、ちょっとした通話であっても、社内のほかのリーダーと討議した場合には、回答の内容をどうするか、そして誰が投稿したらよいかの認識を揃えましょう。これによって、回答を従業員に共有する前に合意を形成し、回答に対するサポート体制を確立できます。
- 口を挟むタイミングを見極める。議論が過熱したり、即座に対処できないと思えるほどの逸脱が発生したりすることがあります。口を挟み、そのエネルギーをもっと生産的なものに向け直すのは、その時です。Slack のスレッドなら、「このトピックが多くの人にとって重要であることは承知しました。この問題の対処に全力で取り組みましょう。ただし、このスレッドでは解決できません。明日午前 10 時にライブのディスカッションフォーラムを開催します。そこでは、この問題の専門家が質問に答えることができます。参加できないメンバーのために、ディスカッションのまとめを報告します」と返信してみましょう。 あるいは、シンプルに「この質問については、次回の Q&A フォーラムで扱います」と応答してもよいでしょう。Q&A フォーラムを定期的に開催しているなら、こちらの方がうまくいきます。
4. 行動に対する期待を設定する
自社の Slack ワークスペースやその他のバーチャル空間は、企業の一部であり、従業員の行動もそれに準じる必要がある。
- 新たなコミュニケーション空間のために個別の行動ガイドラインが必要になるわけではありませんが、方向づけを行っておくのは重要です。たとえ議論を交わす場所がライブミーティング、Slack チャンネル、メール、給湯室、企業が後援する休日のパーティー、仕事に関係するほかの場所であっても、従業員の行動に期待されることが明確に伝わり、一貫性が保たれている必要があります。企業の行動規範と、組織の価値観を守りましょう。
- 匿名にするのが最善の策でないことが多い。ほとんどすべての状況で、従業員は職場での自分の発言に責任を持つ必要があります。それによって、人は仲間とコミュニケーションを取る際や、質問を組み立てる際に、より慎重になり、深く考えるようになります。Slack のようなツールは、以下のように役立ちます。Productiv が行った最新の調査によると、Slack 利用者は類似のメッセージ製品の利用者と比べ、パブリックチャンネルをメッセージのやり取りに使用する傾向が 2 倍以上となっています。Slack では、まずパブリックチャンネルを使って仕事を進めるようにして、仲間が業務についての最新情報を常に得られるようにすることを各チームに奨励しています。例外はありますが、その時になれば判別できます。しかし多くの場合、透明性を確保し、責任を明確にすることを最初に考えましょう。
- リーダーはこの部分で重要な役割を果たす。透明性を確保したら、その結果発生する会話の内容は真摯に受け止め、尊重しなければなりません。質問が寄せられたら受理したことを示し、できる限り明瞭な回答をしましょう。また、話せることと話せないことについて率直に説明し、万人に好まれるのではない回答でも受容することが必要です。時として、何か新しいことを学んだので方針を変えよう、と説明しなければならないこともあります。それは自信に溢れたリーダーであっても難しいことがあります。しかし、困難な問題や扱いたくない問題に正面から立ち向かうことは、信頼を保つために欠かすことができません。
5. 実験し、改善を続ける
これらすべてのアイデアを文字どおりに取り入れると、魔法のようにうまくいく様子が見られるかもしれませんし、一部はうまくいくもののほかは機能しないかもしれません。それでも大丈夫です。
- 問題点を上げてもらう経路を、ふんだんに用意する。テキストでのコミュニケーションが性に合う人もいれば、ライブミーティングで手を上げて発言するのを好む人もいます。問題とその解決には意欲的に取り組むものの、バーチャルでもそれ以外でも、一切発言したくないという人もいます。すべての人のニーズを満たすには、一貫性、信頼性を確保しながら、バーチャルとライブの各種方式を含め、透明性を保って討論できるオープンな場所を複数組み合わせて提供しましょう。
- フィードバックを求める。うまくいっていること、そしてうまくいっていないことについてのフィードバックを集めましょう。それには、定期的に行う従業員へのアンケート、事例証拠、参加人数、さまざまな従業員ネットワークの状況分析などを用いることができ、これらすべてを組み合わせるのが理想的です。
- 新しいことを試みる。フォーカスグループシリーズの試み、役員のオフィスアワー、Slack の新たなアプリのインテグレーションに興味を持つことは、すばらしいことです。試みは、どれも永続させる必要はありません。ひと月、ふた月したらフィードバックを募り、続けるかどうかを決断しましょう。Slack 社内では、チャンネル内で手早くアンケートを取るといった、簡単な方法を用いることが多いです。実験し、導入するというプロセスは、組織の可視性を高めるとともに、従業員とのオープンで継続的な会話を行うという姿勢を示します。
新たな方法で事業を進めて、組織をリード
職場の透明性を高め、オープンなコミュニケーションを奨励すると、居心地の悪さを感じる機会も生じますが、組織の方向性を正確に揃え、仕事を妨げる要因を減らし、スピードを向上させるといった大きな見返りを得ることができます。また、共通理解を育み、リーダーが信用、信頼、自信をいっそう高めることができます。これらのメリットは、企業が事業を進める際の摩擦を抑えるのに役立ちます。また、優れた人材を引きつけ、職場で上げる声を聞いてほしいと願う人に勤続してもらえるような文化の形成にも役立ちます。
古い壁を取り払い、多くの声に耳を傾ける取り組みを始めると、事業に関連した新たなレベルのインサイトを利用できるようになります。従業員がありのままの自分でいられるようにすれば、自社や仲間とのつながりが深まるとわかるでしょう。また、相互の信頼に根ざして全社の会話を促進するメリットも見えてきます。
企業文化のなかにコミュニケーションの取り方に関するモダンな手法を取り入れることは、リーダーが時間とエネルギーを注ぐ価値のある活動です。それは、学習曲線を経る価値があるものです。あなたが優れたリーダーになれば、従業員もビジネスも強くなるでしょう。
その方角を目指して、今すぐにできる一歩を考えてみましょう。また、その一歩を踏み出さなかった場合のリスクを考えることはさらに重要かもしれません。