ビジネスツールについて調べていると、「API」という言葉を見かけることがあります。ツール同士を連携させる際に利用されている仕組みであることは推測できても、具体的な仕組みや活用するメリットが明確に説明できないという方も多いのではないでしょうか。
今回は、 API とはどういうものか、なぜ注目されているのかをわかりやすく解説します。 API の種類や活用するメリット・デメリットもご紹介しますので、ぜひビジネスツールを導入・利用する際にお役立てください。
API とはウェブサービス同士をつなぐインターフェースのこと
API とは Application Programming Interface の頭文字を取った言葉です。ソフトウェアやプログラム、ウェブサービス同士をつなぐインターフェース(接続部・接触箇所)と捉えるとわかりやすいのではないでしょうか。
本来、異なるソフトウェアやウェブサービスは、それぞれ独立したプログラムで動いています。しかし、 2 つ以上のビジネスツールを連携させることができれば、より便利に活用できるケースは少なくありません。異なるツール同士をつなぐ窓口の役割を果たすのが API なのです。
API の活用でアプリの連携や機能拡張ができる
API は自社で開発することもできますが、ツールの開発会社が公開しているものを利用することができます。
前述のとおり、API はソフトウェアが外部とやりとりする窓口の役割を果たします。API が公開されているアプリを活用すれば、ほかのアプリと連携させて機能を拡張させたり、より利便性を高めたりすることも可能です。API が公開されているツールを見かけた際は、「ほかのツールと連携して利用できる」と解釈していいでしょう。
API の種類
一口に API といっても、実はいくつかの種類に分かれています。代表的なものとしては、「Web API」「OS が提供する API」「ランタイムが提供する API」の3種類です。
Web API
Web API とは、インターネットを経由して情報のやりとりが行われる API のことを指します。近年、クラウドサービスでよく使われている API です。
API は異なるソフトウェア同士をつなぐため、一般的には接続するソフトウェア同士が同じプログラミング言語で構築されている必要があります。一方、 Web API の場合は言語が異なっていても通信できる HTTP/HTTPS という方式が採用されているのが特徴です。 HTTP/HTTPS 方式の採用により、 Web API はプログラミング言語の仕様に影響されず、汎用的に活用できます。次は、身近なウェブサービスやアプリが提供している Web API の一例です。
OS が提供する API
OS 上でプログラミングを行うために必要な API を OS が提供しています。開発者が OS の機能や情報を簡単に取得できるようにし、開発効率を高めることが主な目的です。
OS が提供する API の一例として、 Windows API が挙げられます。 Windows OS の機能のうち必要な機能だけを切り出して利用できるため、必要な機能を実装する際に一からプログラムを構築する必要がなくなります。
また、「.NET Framework」のように Windows API を活用して開発を進める際に役立つアプリケーションフレームワークも提供されています。こうした仕組みが用意されていることで、開発者は Windows OS 向けのアプリケーションをより開発しやすくなっているのです。
ランタイムが提供する API
プログラミング言語でアプリケーション開発を進める際などに活用される API もあります。ランタイムとは、プログラムを動かすために必要な環境のことです。
例えば、プログラミング言語のひとつに Java があります。 Java の開発元であるオラクルでは、アプリケーション開発者向けに複数の API を標準機能として開発・公開しています。開発者はランタイムが提供する API を活用することで開発効率を高め、生産性を向上させることが可能です。
Web API が注目されている理由
さまざまな種類がある API の中でも、近年特に注目が集まっているのが Web API です。ビジネス関連ツールを開発する場合、利用頻度が高いのは Web API でしょう。
Web API が注目されている主な理由として、次の 4 点が挙げられます。
新機能や新サービスの開発がスピーディになる
ビジネスツールには、用途に合わせてさまざまな機能が求められます。必要な機能をすべて自社で開発するとなると、膨大なコストとリソースを投じることになるでしょう。開発が完了し、リリースできるまでの期間も長期化しやすく、スピーディな提供の妨げとなるおそれがあります。
Web API を活用することによって、既存のプログラムの中から自社に必要な機能を選んで素早く実装しやすくなります。新機能や新サービスを開発する際にも、開発コストや人的・時間的リソースを節減できるのです。 Web API は、スピーディにサービス開発を進める上で重要な役割を果たし得る仕組みといえるでしょう。
顧客サービスの向上に役立つ
Web API は、顧客サービスを向上させるために活用できる仕組みです。 Web API が顧客サービス向上に役立っている例として、 EC サイトのケースを考えてみましょう。
EC サイトで欲しい商品を見つけたユーザーは、購入の際に決済手続きを行う必要があります。その決済が、銀行振込など EC サイト外での決済手段に限られていたとすれば、ユーザーはその場で決済手続きを完了させることができません。ネット銀行の口座で別途手続きをしたり、銀行 ATM で振込操作を行ったりしなければなりません。
しかし、 EC サイトにクレジットカード会社をはじめとするキャッシュレス決済の API が組み込まれていれば、ユーザーはその場で決済を完了させることが可能です。クレジットカード会社などが提供するセキュリティ対策が施されたAPIであれば、安全に手続きを終えることができます。
このように、 Web API を活用することで利便性を高め、顧客サービスの向上につなげることができるのです。
自社サービスのユーザー拡大が期待できる
Web API の活用は顧客サービスの向上につながるため、ユーザーの拡大にも寄与する可能性があります。ユーザーとしても、より利便性の高いサービスを利用したいと考えているため、ニーズに合った機能やサービスを提供すれば利用者の拡大が望めるでしょう。
Web API の導入によって、ユーザーが拡大した好例のひとつが家計簿アプリです。家計簿アプリは、銀行口座やクレジットカード、各種ポイントなどと連携させることで、口座情報の自動取得が可能となります。複数の口座をアプリ上で一元管理することで、買い物をした記録をまとめて確認できるため、家計の把握に役立ちます。
従来、家計簿をつける際にハードルとなっていたのが「お金の出入りを都度記録する」という手間がかかる点でした。 Web API の活用によってこの手間を大幅に減らし、ユーザーのニーズに応えることに成功したのです。現在では、 Web API による口座情報自動取得を活用した家計簿アプリの活用は、広く浸透しつつあります。
マッシュアップの可能性が広がる
Web API が注目されている背景として、マッシュアップの可能性が挙げられます。マッシュアップとは、複数のサービスを組み合わせて新たなサービスを作り出すことを表す言葉です。異なるサービス間を連携させる Web API の活用により、これまでになかった新しいサービスが生み出される可能性を秘めています。
例えば、ウェブサービス上で住所を入力する際、郵便番号から住所の一部を自動取得できる場面などが代表例です。この仕組みが実現したのは、日本郵便が公開している郵便番号データベースを Web API で連携させることにより、ウェブサイト上で活用できるようになったためです。
このように、すでに公開されている Web API を組み合わせることにより、ユーザーのニーズに応える新たなサービスを提供できる可能性があります。世の中には膨大な数の Web API が公開されているため、今後もさまざまな組み合わせによるマッシュアップが生まれていくでしょう。
API のメリット
API を活用することによって、具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。 API は、利用者と開発者の双方にとって数々のメリットをもたらします。特に押さえておきたいのは、次に挙げる 4 つのメリットです。
ソフトウェアの開発の効率を上げる
開発者側にとって API を活用する大きなメリットは、ソフトウェアの開発効率を高められることです。ソフトウェアに必要な機能を実装するにあたって、すでに外部のアプリやプログラムに該当する機能があれば、 API 連携によって必要な機能を取り入れることができます。自社で一から開発する必要がなくなり、開発に必要な工数と時間を大幅に削減できるでしょう。
また、既存のアプリやプログラムであれば、すでに数多くのユーザーが実際に活用しているケースも少なくありません。重大な不具合などは解消されている可能性が高いため、リリース前に欠かせないテスト工程も簡略化させることができます。
より短期間で確実性の高い機能を実装できるという点で、 API の活用はソフトウェアの開発効率の向上に大きく寄与しているのです。
セキュリティレベルの向上
API を活用することで、セキュリティレベルの向上が期待できる場合もあります。セキュリティレベルの高い外部アプリと連携させれば、基本的には同レベルのセキュリティを確保できるからです。
自社にサーバーを設置して運用する場合、サイバー攻撃や情報漏洩といったリスクと常に隣り合わせの状態となります。 API の活用は、より高い水準のセキュリティを必要最小限の工数で取り入れ、サービスのセキュリティレベルを向上させるうえで有効な手段といえるでしょう。
ユーザビリティの向上
外部サービスと連携することは、ユーザリビリティの向上にも役立ちます。ユーザーがすでに利用しているサービスでの登録情報を活用できるため、新規登録時などの手間を省くことができるのです。
身近な例では、ウェブサービスへ新規登録する際にユーザー情報を入力するシーンが挙げられます。氏名や住所、メールアドレスといった情報をすべて一から入力するのは、ユーザーにとって負担になりかねません。そこで、 API 連携によって Facebook や Twitter など、利用者の多い SNS の情報を活用できれば、ユーザーは登録済みの情報を反映させることができ、新たに入力する情報量を最小限に抑えられるでしょう。
API 連携によってユーザーの負担を軽減できることは、ユーザビリティ向上の観点からも重要なポイントといえます。
最新情報の取得がしやすくなる
API を活用することにより、連携先の最新情報を取得しやすくなる点も大きなメリットといえます。複数のサービスを連携している場合、各サービスの最新情報を逐一チェックするのは時間も手間もかかるでしょう。 API によって連携先の情報を取得できれば、常に最新の情報を保つことができます。
例えば、クラウド会計ソフトの多くは外部の金融機関やクレジットカード会社の API を活用できるサービスを提供しています。最新の入出金状況を一括取得できるため、ユーザーはキャッシュフローをより正確に把握しやすくなるのです。複数の口座を利用している場合、すべての口座を一元管理できるメリットをより実感しやすくなるでしょう。
このように、最新情報を取得しやすくすることで、ユーザーの利便性を大幅に引き上げられる可能性があるのです。
API のデメリット
API は多くのメリットを得られる一方で、注意しておくべきデメリット面もあります。外部のプログラムを利用する都合上、避けられないデメリットであることは念頭に置くべきでしょう。
次に挙げる 2 点に関しては、 API を利用する際に慎重な判断が求められます。
サービス停止に伴う不具合
API は、外部プログラムを利用することで機能を実装する仕組みです。現段階で公開されている API が、今後も永続的に利用できるという保証はありません。提供事業者側が API の公開を停止したり、サービス自体を終了せざるをえなくなったりした場合、アプリケーションの一部が機能しなくなるというリスクを抱えることになります。
API 連携によって活用している機能が自社のサービスにとって重要なものであったり、サービスの根幹に関わる機能であったりした場合、 API 提供元のサービス停止に伴い重大な不具合をもたらすおそれがあります。 API を活用する際には、あくまでも外部のサービスであることを十分に認識し、自社のサービス設計に及ぼす可能性のある影響について、見通しを立てておく必要があるでしょう。
トラブルによる不具合
API 提供事業者側に何らかのトラブルが発生した場合、自社のサービスにも不具合が生じる可能性があります。たとえ自社のサービス運営に問題がなかったとしても、連携している API の不具合がサービス全体に影響を与えることも想定できるのです。場合によっては、 API の機能が一時的に停止したり、復旧する目処が立たない状況が続いたりすることもあります。設備トラブルやネットワークトラブルによるサービス停止は、常に起こりうるリスクとして捉えることが大切です。
また、トラブル以外にも定期的なメンテナンスによるサービス停止も考えられます。特に、海外アプリと連携して利用する場合、提供元企業の現地時刻と日本標準時にずれが生じます。現地では深夜にメンテナンス作業を実施していても、日本では多くのユーザーが利用する時間帯にサービスが利用できなくなる可能性があるのです。こうした状況が発生した場合にどのように対処するのか、あらかじめ事業継続計画を策定しておくことが求められるでしょう。
Slack にも API が搭載されている
近年は、タスク管理ツールやプロジェクト管理ツールなど、生産性向上や業務効率化を図れるビジネスツールが多く開発されていますが、そうしたビジネスツールにも API が搭載されています。
コミュニケーションツールの Slack にも、 API が搭載されており、他社のアプリと連携させることで、業務上のやりとりを Slack に一元化することができます。
例えば、タスク管理ツールと Slack を連携させることで、タスクの期限を Slack で通知したり、 Slack からタスクを追加したりすることが可能です。プロジェクト管理ツールと連携させれば、プロジェクトの進捗を Slack 上で確認することもできます。連携させているツールを起動することなく、 Slack 上で操作できるため、効率的に業務を進められるでしょう。
さらに、 Slack では、Slack API を利用してアプリを開発することも可能です。アイデア次第で、さらなる生産性向上、業務効率化につなげることができます。
適切な API の活用がビジネスを広げる
API は外部のソフトウェアやプログラム、ウェブサービスと手軽に連携し、既存の機能を活用できる仕組みです。さまざまなビジネスツールをはじめ、サービスを開発する際には、スピーディな開発と工数・開発期間の削減に寄与する可能性のある仕組みといえます。
一方で、外部のプログラムと連携する関係上、提供元のサービス運営体制に依存する面があるのは否めません。 API のメリットだけでなく、デメリットとなりうる側面も十分に理解した上で活用していく必要があるでしょう。
今回ご紹介したポイントを参考に、ぜひビジネスツールの導入・利用時に API 連携を活用してください。 API を適切に活用することで新たな機能やサービスを実現できる可能性が広がり、顧客体験の向上を実現することができるはずです。
よくある質問
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