かつて、ビジネスにおいて透明性はタブーとされていました。料理のレシピから従業員の給与まで、組織の運営が不透明であればあるほど、成功につながっていたのです。一般に公開しないだけでなく、従業員に対してもそうでした。
しかし現在、成功の秘訣を知られまいとしている企業では、従業員エンゲージメントの低下やブランドに対する親近感が生まれづらくなるなど、逆効果となるリスクが高まっています。人やものがますますつながるようになった社会では、透明性が新たな基準になっているのです。今急成長している企業は、すべてを公開することで経済的にも評判においても大成功しています。その内容は経営層が受け取る額、スタッフの多様性、さらには原材料の調達先やその方法まで多岐にわたります。
しかし、世間の目や競合他社に自らをさらけだすことで、一体どんな得があるというのでしょうか?この記事ではその最大のメリットについて、すでにそれを実践する企業や、さらなる透明性を求める従業員、そして企業の透明性を重視する消費者のデータを基に紹介していきます。
1. 透明性は優秀な人材を引きつける
ビジネスの透明性と従業員幸福度の相関を示すデータはとてもたくさんあります。Slack が 2018 年に行った「Future of Work」調査では、87% もの人が「次の仕事は透明性があるところがよい」と答えています。従業員フィードバックサービスを提供する TINYpulse が 4 万人以上を対象に行った別の調査によると、全般的な幸福度をもたらす最大の要因は透明性だとわかりました。
人材の流動性がかつてないほど高い現代、多くの人が倫理的な企業で働きたいと思っています。今の従業員がもっとオープンな企業で働くことを考え始めるなど、幸福度で仕事を選ぶようになると、透明性は優秀な人材を獲得するうえでますます重要な資産になるでしょう。
2. 透明性は信頼を築く
顧客の目からも、ビジネスの透明性が高いことは「倫理的」だと受け取られています。コンサルティング企業 Label Insight が実施した調査では、消費者の 94% が、透明性を打ち出しているブランドを好むことがわかりました。企業が積極的に情報公開しないと、消費者はその情報を提供している別のところに目を向けてしまいます。本来なら得られるはずだった顧客ロイヤルティがほかの企業に吸い取られてしまうのです。
ビジネスの透明性を求める声は、組織のなかからも上がっています。Slackの「Future of Work」調査では、「雇用主がどのように意思決定しているのかもっと知りたい」と答えた人が 80% にも上りました。また、55% の経営者が「自社の透明性はとても高い」と答えた一方、そう考える従業員はわずか 18% という結果になりました。
さらに、パフォーマンスの高いチームでは心理的安全性が重要視されてきています。従業員の信頼を獲得するには、ビジネスに関する情報やインサイトを見たり手に入れたりできるようにすることが非常に重要です。
「私に良いアイデアがあっても、すべての答えを知っているわけではないと認めたことで、仕事がとても楽になりました」と、写真アプリのスタートアップでクリエイティブコミュニティでもある VSCO の Vice President of People and Places を務める Katy Shields 氏は語ります。「仕事の最前線にいるのは従業員で、お客様の一番近くにいるのも従業員です。会社にとって何が一番かわかっているのは彼らでしょう。もちろん、経営層には従業員が知らない情報があるとは思いますが、従業員にも経営陣が考えつかないアイデアがあります。だからこそ、どんどん共有しあう企業文化にしたかったのです」。
3. 透明性はよりよい成果を生む
従業員の力が発揮できるのは、手に入れられる情報と、意思決定において任された範囲に限られます。そのため、VSCO では従来のトップダウン方式から非中央集権型の意思決定戦略に変えるべく、次のことを行いました。
- 社内 Wiki を作成する
- すべての Slack チャンネルをパブリックにする(予算計画とプライバシーにかかわる人事案件を除く)
- 大きいレベルでの意思決定権限を従業員に移し、経営層からの承認を待たずに革新的なアイデアを実行できるようにする
「すべての従業員が経営者目線で考えています。なぜなら、彼らが事業を営んでいるからです」と Shields 氏は話します。「早い段階から多くの権限を渡せば、自分たちで正しい方向に進んでいく文化を育むことができます。そこでは従業員が経営層の最大の支持者になるのです。もちろん、経営層がチームとしてすべきことをしていない場合、彼らは最大の批判者にもなります。従業員に主導権を渡せば、彼らは必要な情報を手に入れることができるのです」。
4. 透明性は効率を高める
靴のオンライン小売業の Zappos は、ビジネスの透明性において、企業文化の模範になるような取り組みでとても有名です。ベンダーが同社の情報にアクセスできる「ベンダーエクストラネット」のほかに、従業員が社内データベースからすべての取引、予算、経費、さらには個人の職務やチームのプロジェクトに関するすべてのドキュメントを見ることができるようにしています。20 年近くにわたって Zappos の Merchandising Team を率いてきた Fred Mossler 氏によると、このような取り組みによって従業員とビジネスパートナーが同じ認識を持つことができるようになったそうです。さらに、従業員エンゲージメントの低下や不信感、また従業員が全体像を把握していない場合に費やされたであろう時間やリソースを節約できたとも話します。
5. 透明性はビジネスの説明責任を強化する
競合優位に立つために透明性を軽視すると、健全な組織であり続けるのが難しくなります。その理由は、2001 年に出版された『ファストフードが世界を食いつくす』と 2004 年に公開された映画『スーパーサイズミー』がファストフード業界に与えた影響を見れば明らかです。この頃すでに、企業(特に大企業)は一般に広がる不信感を解消する必要に迫られていました。
従業員や一般の人が企業データをすぐに利用できるようにすれば、経営層はビジネスに関する説明責任を果たすことができるうえ、そのすべての段階が組織にとって利益になります。外部投資回収率もそれを裏付けています。また、前述の Label Insight によるものを含めた多くの調査では、消費者は透明性の高い企業の商品を購入したいと考えていることがわかっています。