平均的なデスクワーカーは、「仕事のための仕事」、つまり情報の検索、繰り返し届くメールやメッセージへの返信、書類の整理といった価値の低いタスクに 1 日の時間の 3 分の 1 を費やしています。こうした単調な作業は、私たちの生産性や認知機能を低下させてしまいます。
そのような状況に役立つのが、エンタープライズ検索です。その仕組みはエージェント機能と組み合わせることで、さらに強力になります。エンタープライズ検索とは何か、Slack がこの仕組みを単なるナレッジの検索からナレッジの活用へとどのように進化させているのか、以下で詳しく見ていきましょう。
エンタープライズ検索とは
エンタープライズ検索は、たとえるならデジタルの図書館司書のような存在です。会社のあらゆるデータやナレッジを管理しているその人に聞くだけで、さまざまなソースからの情報がすぐに見つかります。具体的には、エンタープライズ検索は、リアルタイムでソースに対してクエリを実行する方法、さまざまなソースのデータを 1 つの統合システムにインデックス化する方法のいずれかで検索を行います。
エンタープライズ検索により、ユーザーは複数のアプリケーションを開いたり、同僚に尋ねたりすることなく、必要な情報を簡単に見つけられます。ナレッジへのアクセスがよりシンプルかつ迅速になることで、情報のサイロ化が解消され、生産性の向上につながります。
エンタープライズ検索が重要な理由
分断された複数のシステムに情報が散在していると、ユーザーは必要な情報を見つけるのに時間がかかり、本来の仕事に十分に集中できなくなります。それが意思決定の遅れ、信頼性や生産性の低下につながり、会社の収益にも悪影響を及ぼします。
仕事で使われるアプリケーションが増え続けるなか、エンタープライズ検索の重要性はますます高まっています。エンタープライズ検索がもたらす主な利点は、ナレッジ共有の効率化と生産性の向上です。
エンタープライズ検索がコラボレーションとイノベーションを促進
エンタープライズ検索は、ナレッジ共有を簡素化し、生産性を向上させるだけでなく、コラボレーションを変革する力を秘めています。従来の検索は 1 人で実行するものがほとんどでしたが、実際には孤立した状態で仕事はできません。Slack のようなコラボレーション型の Work OS にエンタープライズ検索が導入されることで、チームは協力して情報を見つけ、部門を超えて情報を即座に共有し、集合知をもとにした効果的なナレッジマネジメントのシステムを構築できます。これにより、アイデアが進化し、イノベーションが加速するサイクルが生まれます。
エンタープライズ検索のしくみ
エンタープライズ検索のシステムは、さまざまなソースからデータを収集・インデックス化・取得することで機能します。そのしくみを紹介します。
エンタープライズ検索システムのコンポーネントと機能
エンタープライズ検索システムでは、以下のような主要コンポーネントが連携して、情報を効率的に収集、処理し、ユーザーに提供します。
- コンテンツの認識 : エンタープライズ検索のシステムは、組織全体のデータソースに接続します。データソースの例としては、コラボレーションプラットフォーム、クラウドベースのファイルストレージプラットフォーム、メールサーバー、顧客関係管理(CRM)、コードリポジトリ、専用のビジネスアプリなどがあります。
- コンテンツの処理 : データソースに接続すると、システムがコンテンツを分析し、意味のある情報やメタデータを抽出します。たとえば、情報ソース間を関連づけるためのテキストの抽出や、会議の文字起こしからの言語や話者の検出などがこの処理に含まれます。
- インデックス化 : 処理された情報をインデックスに整理することで、迅速な検索が可能になります。最新の手法では、単純なキーワードマッチングにとどまらず、コンテンツの意味を確立したインデックス化が行われることもあります。
- クエリの処理 : 検索が行われると、システムがそのクエリを分析し、ユーザーがどの情報を探しているのかを正確に理解します。高度なシステムでは、キーワードマッチングだけでなく、自然言語処理(NLP)を用いて会話形式での質問を解釈し、多くの場合、より正確な検索結果を返します。
- マッチングとランキング : さらに、システムは関連するコンテンツを特定し、関連性、最新性、ユーザー権限、ユーザーの役割や検索履歴にもとづくパーソナライゼーションなどを考慮して、結果をランクづけします。
たとえば、Slack を Work OS として利用している場合、エンタープライズ検索を使うことで、ビジネスシステム、会話、アップロードされたファイルや、チャンネル・スレッド・canvas で共有されたコンテンツから、リアルタイムで回答を見つけられます。つまり、ワークスペースを離れることなく、仕事の流れの中で組織のナレッジに即座にアクセスできます。
さまざまな種類のエンタープライズ検索
エンタープライズ検索のさまざまなバリエーションを理解することで、組織のニーズに合った方法を選択できるようになります。その種類のいくつかを紹介します。
- 内部検索 : 1 つのアプリケーションやシステム内の検索に焦点を当てるベーシックな方法です。検索する範囲は限定されますが、広さよりも深さが重視される場合に適しています。
- 統合検索 : 一元化されたインデックスを作成するのではなく、複数のシステムに同時にクエリを送信し、得られた結果を統合する方法です。リアルタイムの情報にアクセスできる反面、事前にインデックスを作成する方法よりも時間がかかる場合があります。
- AI を活用した検索 : AI を用いてコンテキストを解釈し、ユーザーのニーズを予測して、より関連性の高い結果を提供する最新の手法です。たとえば、Slack の AI を活用した検索機能は、自然言語による質問を理解し、ユーザーの行動から学習します。検索結果の要約を作成することも可能です。
- クラウドベースの検索 : ソリューションを自社のサーバーではなくクラウドでホストすることで、拡張性の確保、メンテナンスの負担軽減、ほかのクラウドサービスとの容易な連携を実現できます。
- インデックス検索 : 特定のデータセットやリポジトリ内のすべてのコンテンツに対して、インデックスを作成する方法です。これにより、ユーザーはクエリに対して関連性の高い情報をすばやく簡単に見つけることができます。
- サイロ化した検索 : 理想的ではないものの、多くの組織では依然としてシステムごとに別々の検索ツールが用いられています。このアプローチでは、どの情報にどのツールを使うかをユーザーが把握しておかなければなりません。このことはナレッジの抽出において課題となる可能性があります。
AI によるエンタープライズ検索の変革
AI の活用により、エンタープライズ検索でできることが根本から変わりました。手動では難しかった情報間のつながりの発見が容易になったのです。
従来の検索では、何を探しているのか、それはどこにあるのかを、ユーザーが正確に把握しておく必要がありました。適切なキーワードを使ったとしても、本当に必要な情報を見つけるには、結果を入念に絞り込まなければなりません。複数のプラットフォームで同じような手順を繰り返し、自分で情報をつなぎ合わせる必要もありました。
AI を活用したエンタープライズ検索は、このプロセスを次のような方法で変革します。
- 自然言語処理(NLP): AI 検索は、正確なキーワードを求めるのではなく、会話形式で質問を理解します。ユーザーはたとえば「四半期の予算レビューの状況は?」のように尋ねることができます。探しているドキュメントにどのようなキーワードが含まれているか推測する必要はありません。
- 意図の認識 : AI は、どのような単語が使われているかだけでなく、ユーザーが何を達成しようとしているのかを認識できます。似たような言葉で検索している場合でも、そのトピックについて知りたいのか、特定のファイルを探しているのかを区別できます。
- 状況の認識 : AI は機械学習を用いて、検索結果をパーソナライズできます。時間の経過とともに、ユーザーの役割、最近の仕事、関連するニーズを分析して、検索結果の質や精度を大幅に向上させることができます。
- 合成と要約 : おそらく最も重要なのは、AI は複数ソースからの情報を組み合わせ、シンプルで一貫性のある回答を導き出せることです。読むべきドキュメントのリストを提供するのではなく、重要なポイントを抽出、結合、要約して、質問に直接答えることができます。
たとえば、Slack 上で、あるプロジェクトの状況について質問すると、AI を活用した検索は、チャンネル内の最近のメッセージ、共有されたドキュメント、サードパーティー製アプリで追跡された通知から情報を取得し、包括的な最新情報を提供します。ユーザーはそれぞれのシステムに個別にアクセスする必要はありません。
さらに、自律型の AI エージェントをはじめとする AI の新たな進歩により、仕事における革新的な AI のユースケースが次々と登場。単純な情報検索を超えて、意思決定や問題解決、タスク実行をアクティブに支援できるようになっています。
エンタープライズ検索の導入にあたってのベストプラクティス
エンタープライズ検索を効果的に導入するには、綿密な計画をたて、継続的に最適化を行なっていくことが重要です。ここでは取り入れるべきベストプラクティスを紹介します。
ソリューションのカスタマイズに向けて、ビジネスのニーズを評価する
自分の組織ならではの検索の課題や目標を理解するために、次のことを行いましょう。
- 主要なユースケースを特定する : 検索能力の向上が、もっとも大きな価値をもたらす領域を特定します。検索頻度の高いものや、ビジネスへの影響が大きいものなどに注目するといいでしょう。たとえば、営業担当者による「取引先の ABC 社に関して何か動きがあった?」という質問や、プロジェクトマネージャーによる「先週どのようなプルリクエストが送信された?」という質問などです。
- 既存の情報ソースを精査する : 組織のナレッジマップを作成し、重要度、関連性、使用頻度をもとに、連携させるソースの優先順位を決めます。
- ユーザーの行動を理解する : チームによってどのような情報が検索されているかを把握します。たとえば、営業チームは顧客関連データに頻繁にアクセスし、エンジニアリングチームはコードリポジトリやドキュメントを検索することが多いかもしれません。
- 成功の指標を定める : 組織の具体的なユースケースをもとに、明確な KPI を定めます。たとえば、検索の成功率(エンタープライズ検索の利用者と非利用者を比較する)、検索結果のクリックスルー率、検索セッションの成功といった指標を追跡します。AI を活用した検索の場合は、ユーザーが検索バーに入力する質問の数と質や、長期的な検索行動の変化など、ユーザーの習熟度に関する指標も追跡するとよいでしょう。
長期的な成功に向けて、継続的に最適化する
エンタープライズ検索を効果的に使い続けていくためには、継続的な改善が必要です。ここでは、その価値を長期にわたって引き出すための方法を紹介します。
- 検索ログを分析する : ユーザーが何を検索しているか、求めている情報が見つかっているかどうかを定期的に確認します。うまくいかなかった検索のパターンを分析し、どこにナレッジのギャップがあるのかを特定します。
- 関連性を調整する : ユーザーの行動やフィードバックにもとづいて、検索結果のランクづけを調整します。最新性、ユーザーの役割、過去のやり取りなどの要素を考慮するとよいでしょう。
- 接続を拡張する : 自社のビジネスの進化に応じて、ユーザーのニーズや組織の優先事項をもとに新しいデータソースを統合します。
- トレーニングを提供する : よりよい検索結果が得られるクエリの作成方法など、メンバーが効果的な検索を行うスキルを習得できるよう支援します。
- 適切な期待値を定める : 同僚に尋ねる前に、まずエンタープライズ検索を使ってみるようチームに促すことで定着を促進できます。こうした文化的なシフトにより、投資の価値を最大限に高められます。
とくに AI の導入においては、適切なガバナンスとセキュリティプロトコルが不可欠です。どの情報を検索対象にして、誰がそれにアクセスできるようにするのかについて、組織は明確なポリシーを定める必要があります。こうしたガイドラインがなければ、いくら高度な検索システムがあっても、意図せずセキュリティやコンプライアンスのリスクが生じてしまう可能性があります。
組織のナレッジを有効活用する
エンタープライズ検索は、単なる便利なツールを超え、今や必須の仕組みへと進化しました。働く人が日々処理しなければならない情報の量やアプリの数がますます増えるなか、組織のナレッジをすばやく見つけて活用する能力は、生産性やイノベーションに直結します。
AI を活用した検索の進歩により、組織の膨大なナレッジから文脈に応じて情報を引き出し、それをもとにアクションを起こせるようになっています。Slack のようなエンタープライズ検索機能が組み込まれたコラボレーション型の Work OS なら、答えをじっと待つ必要はありません。まるで答えの方からあなたに近づいてくるように、仕事の流れの中でナレッジを利用できます。
エンタープライズ検索は、Enterprise+ プランを利用しているすべてのユーザー企業の皆さまにお使いいただけます。ライセンスの購入については、Slack の営業チームにお問い合わせください。
エンタープライズ検索に関するよくある質問
エンタープライズ検索とウェブ検索の違いは何ですか?
エンタープライズ検索とウェブ検索はどちらもユーザーが情報を見つけるのに役立ちますが、エンタープライズ検索には次のような独自の特徴があります。
- 範囲 : ウェブ検索は公共のインターネットのコンテンツを巡回して情報を収集しますが、エンタープライズ検索は組織内の非公開データに焦点を当てます。
- セキュリティ : エンタープライズ検索は、一般に公開されているウェブコンテンツには適用されない、複雑な権限構造とコンプライアンス要件に対応します。
- パーソナライゼーション : エンタープライズ検索は、一般的なウェブ検索では不可能な方法で、特定の組織のニーズ、役割、ワークフローに合わせてカスタマイズできます。
- コンテンツのタイプ : エンタープライズ検索は、ウェブ検索では扱えない、特殊な形式のドキュメント、データベースレコード、機密情報に対応できます。
エンタープライズ検索とサイト内検索の違いは何ですか?
サイト内検索は、特定のウェブサイトやアプリケーション内のコンテンツを検索するものですが、エンタープライズ検索では、組織内の複数のシステムが検索の対象となります。サイト内検索は通常、外部ユーザー(顧客など)が公開コンテンツを閲覧する際に役立ちます。一方、エンタープライズ検索は、会社のメンバーが組織の非公開情報にアクセスして、社内のナレッジを活用するのに役立ちます。
エンタープライズ検索はどのように最適化できますか?
強力なテクノロジー、考え抜かれたユーザーエクスペリエンス設計、組織の変更管理を組み合わせることで、効果的にエンタープライズ検索を導入できます。以下のように技術的・人的両面の要素を考慮して最適化を行うとよいでしょう。
技術面の最適化 :
- 関連するすべてのコンテンツソースについて、包括的にインデックス化を行う。
- ユーザーの行動やフィードバックにもとづいて、関連性のアルゴリズムを調整する。
- 適切なセキュリティフィルターと権限処理を実装する。
- 自然言語処理(NLP)を組み込んで、クエリの理解力を向上させる。
ユーザー中心の最適化 :
- わかりやすく直感的な検索インターフェイスを用意する。
- 効果的な検索手法を習得できるようユーザーにトレーニングを提供する。
- コンテンツの質を維持するためのガバナンスを確立する。
- 検索のパターンを定期的に分析して、改善すべき領域を特定する。