多くの小売業者が業界の「ディスラプション」(イノベーションにより市場を大転換させる現象) に苦しむ中、Target は2018年度に過去最高の増収率を達成しました。同社チェーンは、新たな小売イノベーションを推進しています。実店舗の再構築からデジタル体験、Shipt 買収による同日配達の実現やアジャイルなプロセスの導入まで、イノベーションに対する同社のコミットメントは明確なものです。
Target では、革新的なアイデアが現場やオフィスフロアから生まれる例が多数あります。当時使用していたコラボレーションプラットフォームを Slack に切り替えるよう、エンジニアリングチームのいくつかから要望があった際に、エンジニアリング支援テクノロジー部門のディレクター、 Jay Kline さんが聞き入れた理由はそこにあります。エンジニアの声を、コミュニケーションから問題解決まで、あらゆる要素を効率化する機会と受け取ったのです。
従業員の問題解決スピードアップを Slack が後押し
Target のエンジニアたちは Slack の有用性をすでに知っていて、2017年後半にチームで公式に Slack を導入する何ヶ月も前から個別にプラットフォームを活用していました。無料アカウントや有料アカウントなど、Slack の使用形態はさまざまでしたが、ワークスペースがそれぞれ孤立している状態でした。Target でテクノロジーを担当する経営陣は、こうした社内ユーザーのリクエストに応えて Slack の Enterprise Grid ソリューションの導入を決定しました。個別チームのワークスペース間で共有チャンネルが使えるソリューションで、検索機能を使えば全社で共有チャンネルの内容にアクセスできます。また、追加のセキュリティ機能が使える点も Target にとって魅力でした。
Kline さんのチームでは、Slack を迅速に導入する必要がありました。年間最大の繁忙期となるブラックフライデーとサイバーマンデーのセールがわずか一週間後に迫っていたためです。「導入はセール前に終わらせる必要がありました。そうでなければ1月まで待つことになるからです。」と Kline さん。
同社グループは、アジャイル開発の強みを発揮し、1ヶ月足らずでエンジニア2,000人を対象に Slack を導入しました。12月末までには、さらに1,000人がこれに加わりました。それ以降、Slack の導入は Target のデジタル、人材採用、戦略、ビジネスインテリジェンスの各チームへと拡大しています。
Slack は、エンジニアリング部門のコミュニケーションをひとつにまとめるハブとして機能しています。URL や IP アドレスなど、言葉では伝えにくい情報の交換が必要なときには特に Slack が便利です。Kline さんはこう説明します。「エンジニアの大半にとっては、スレッド機能と GitHub Enterprise や Jira など、愛用のアプリケーションとの連携が一番大きなメリットでした。」かつてはメールのやり取りが延々続く形で、一部の人しか読めず、実際に返信する人はもっと少ない状態でしたが、今では会話を整理して進捗状況をフォローしやすくなりました。
さらに Kline さんは、Slack の絵文字リアクションの利用で思わぬ効果が生まれたとします。通知を使わずにリクエストへの返信、アクションの承認や感謝の気持ちを表すことができるようになりました。「情報自体は簡略化せずにコミュニケーションの方法だけをシンプルにすることができました。」
「エンジニアの大半にとっては、スレッド機能と愛用のアプリケーションとの連携が一番大きなメリットでした。」
カスタムインテグレーションでイノベーションを促進
イノベーションに対する Target のコミットメントは、社内に深く根ざしています。あらゆる階層や部門の従業員が、改善案を出すよう推奨されています。Target のカスタム Slackbot「Rocky Raccoon」はその好例です。当時プリンシパルエンジニアだった Kline さんは、Slack チャンネルに参加したばかりのエンジニアが Slack のマナーや主要な連絡先をよく理解できていない場合が多いことに気が付きました。例えば、チャンネルのメンバー全員にリクエストを送信したり、すでに回答がある質問を投げかけるなどです。
そこで Kline さんと1人の若手エンジニアが、ある対決チャレンジを通してそれぞれ独自のソリューションを作りあげることにしました。2人が各自別々にボットを構築して競い合うものです。「週末を使って2つのバージョンのボットを実装してみて、それから関心のある人向けにデモを行いました。そして、参加者全員に匿名でどちらが気に入ったかを投票してもらったのです。」Kline さんはこう振り返ります。コーディング言語の好みの点から、最終的には若手エンジニアの勝利となりましたが、好評を得たボットを2人でさらに改良して仕上げました。「当社で Slack をどうイノベーションに活用しているかの好例だと思います。」Kline さんは続けます。「アイデアを表面化させて、そこから一番よいものを選ぶというサイクルが実現しています。」
Rocky Raccoon はチャンネルに新しく参加したメンバーを迎え、チャンネルの目的を説明して主要な連絡先を教えます。このボットのおかげで、同社内でのエンジニアへの Slack 導入がスピードアップし、より効率的にツールを活用するための情報を提供できるようになりました。
チームの取り組みは更に深化し、簡単なボットを構築できるオープンソースのフレームワーク、Flottbot が誕生しました。このツールの登場で、Target の技術チームはすばやく簡単にカスタムボットを作成できるようになりました。よくある質問への回答から他のプラットフォームからの情報の取得まで、ボットの用途は多彩です。
ボットの積極的な活用でコミュニケーションを効率化
総勢3,000人を超えるエンジニアと他の社内チームとの間の組織的なコミュニケーションの実現は難題にも思えますが、そのためのボットも用意されています。Target のエンジニアチームは、チャンネル内でメッセージを一時的に点滅させて重要な情報であることをユーザーに伝えるボット、Pinguin を開発しました。その効果は測定可能なもので、ある1件のイシューについて Pinguin が有効化された回数は7,000回近くに上ります。こうしてボットでユーザーに背景情報を伝えることで、サポートチームに同じ質問が何回も繰り返し寄せられることがなくなります。
Target のアジャイル支援部門のリードプロダクトオーナー、Sandy Eckstrom さんは、このボットの導入で必要な情報がタイミングよく入手できるようになったと述べます。「定期メンテナンスの予定があるときには、チャンネル内に Pinguin でその詳細をピン留めします。そうするとメンバーがメッセージを読まざるを得なくなり、情報が伝わっていることもこちらに分かります。先回り型のコミュニケーションと反応型のコミュニケーションとの違いですね。」
対して、反応型のコミュニケーションが必要な場でも Pinguin が重要な役割を果たしています。これまで、停電や技術的な障害が発生した際には、専任の担当者を1人任命して、社内から寄せられる質問に対応していました。Pinguin の導入により、「質問対応のみに人的リソースを割く必要がなくなり、エンジニア全員で協力して、問題の解決に集中できるようになりました。」
コミュニケーションとコラボレーションを効率化してくれるツールのおかげで、Target のエンジニアは最も得意なイノベーションの実現というタスクに時間を割けるようになりました。「機敏にタスクを実行し、変化にすばやく適応するためには、Slack のようなツールが不可欠でした。」Kline さんはこう言います。